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12.デートに誘おう

イェルクさんは笑ってばんばんとわたしの背中を叩いた。


「やだなあ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しちゃって! まー、あいつは俺の親友なんだし、大事にしてやってね? カイなんかにふらふらしてないでさ」

「え?」


唐突にカイの名前が出て、わたしはイェルクさんの赤髪を見上げた。

彼はしたり顔で腕組みをして言った。


「昨日のあれ、俺、見ちゃったんだよね。カイが君の家の馬車に乗るところ。あいつ、俺の直属の部下だから、今朝厳重注意しといたさ。いくら乗ってけって言われたからって、上官の婚約者の馬車にほいほい乗るなって。で、今あいつはトレーニングルームで地獄の筋トレ中」


「そんな…」


わたしは真っ青になった。


彼も帰るというから気軽に馬車に誘っただけなのに、こんなことになるなんて。カイになんと言って謝ればいいんだろう。

ていうか、騎士の人達にその噂を広めたのもイェルクさんなんじゃあ…?

さっきはスルーしちゃったけど、わたしがエアハルト様の婚約者だって言いふらしたのもこの人だよね!?


いや、その前に誤解を解かないと!


「あの、わたしが悪いんです! わたしが強引に馬車に乗せたから。カイは断ったんです。だから地獄の筋トレは中止してください!」

「それは無理。ま、カイのトレーニングにもなるし、そこは気にしなくていいよ。それより、エアハルトのことだけど」


イェルクさんは真顔になってわたしを見た。

いつもへらへらしているのに、真面目な顔をすると嘘みたいにすごい圧を感じる。わたしは反射的に姿勢を正した。

彼は言った。


「親父さんのことに今も囚われてるあいつが、君には心を許しかけてる。これはあいつにとってもいいきっかけだと思うんだ」

「…はい」

「だから君は、とりあえず…エアハルトをデートに誘おう!!」

「…はい?」


わたしは思わず彼を二度見した。

イェルクさんは晴れた空に赤い髪をなびかせ、ドヤ顔をしている。


呆気に取られるわたしに、イェルクさんは滔々とデートについてのレクチャーを与えた。

その後で、会議の終わったらしいエアハルト様の元へと送り届けてくれた。


それからエアハルト様とわたしは、再び馬車に乗り込んだ。



〇〇〇〇〇



デートに誘えと言われても、魔獣が礼拝堂に来襲するまであと6日だ。

翼竜型の魔獣を見つけ出すと決めたのに、それに関しての情報もゼロのまま。


だけどそれをイェルクさんに言っても取り合ってはくれず、大丈夫大丈夫と繰り返すばかりで。


それに、イェルクさんには言えないけど、エアハルト様にはわたしとの婚約など破棄していただき、本来のヒロインであるソフィアと幸せになってもらう予定なんだけど…。


そうした諸々の事情を吹き飛ばすように、イェルクさんはこう言った。


「あいつ、言わないけど昨日のこと気にしてたからさ。フォローしてやってよ。ね?」


わたしなんかがデートに誘って、はたしてそれが何のフォローになるのか。

だけど、わたしがエアハルト様にかけた迷惑を少しでも埋め合わせできるのなら、なんでもするつもりだった。


「…災難だったな。イェルクにまで振り回されて」


馬車が出発すると、向かいの席に座っているエアハルト様が口を開いた。


「いいえ、貴重なお話を伺えてよかったですわ」

「そうか? あの男の話など、話半分に聞いておけばいい」


どこまで本気かわからない口調でそう言ってから、エアハルト様はわたしを見て眉を寄せた。


「今日はどこかへ出かける予定があったのだろう? まだ間に合うなら、そちらへ送るが」


わたしは顔を赤らめた。

エアハルト様が勘違いするのも当然だ。

こんなにごてごてした格好をしているのだから。

これから宮廷のガーデンパーティーに向かうと言っても不思議はない位の。


「いえ、違うのです。これは、その…あなたがうちにいらしたから…」


もごもごとそう言ったら、エアハルト様が意外そうな顔をした。


「…俺のために、その格好を…?」


消え入りそうな声で、はい、と答えると、エアハルト様はふいと横を向いた。耳が赤い。


「そうか…それなら、このままどこかに出かけようと言いたいところだが…残念ながら、この後も本部に戻って仕事だ」


珍しくすねたような口調に、思わず頬が緩んだ。

仕事熱心なエアハルト様だって人間だ。

たまには気晴らし位したいだろう。


そして、その言葉がするりとわたしの口から滑り出た。


「では、今度の休日、一緒にどこかへ出かけませんか?」


エアハルト様が驚いてわたしを見た。


本当に誘ってしまった…!

うわあ…どうしよう。

これで断られたら結構へこむ。


心臓をばくばくさせながら返事を待っていると、突然の誘いだったにもかかわらず、エアハルト様は今日一番の笑顔で答えてくれた。


「ああ。喜んで」

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