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11.屋上への呼び出し

「よお、リーゼロッテ。団長の話、長かっただろ?」


沈んだ気分のまま団長室を出るなり、明るい声がかけられた。


声がした方を見たら、やっぱりイェルクさんだった。

満面の笑顔で手を振り、こちらに近づいて来る。


そのとき、わたしの背後のドアがばん、と開いてギュンター様が出てきた。

イェルクさんの笑顔が凍り付く。


「イェルク、今日も元気そうで何よりだ。ところで私の話はそんなに長いか?」

「いえっ、滅相もございません! 団長のお話はいつも司祭様のお話のようにありがたいという意味で…」


直立不動の姿勢で言い訳するイェルクさんに、ギュンター様はすれ違いざま、すげなく言う。


「司祭の説教のように長くて退屈だと言いたいわけだな。後でたっぷりと聞かせてやろう」

「サーイェッサー!!」


イェルクさんが敬礼し、ギュンター様は澄ました顔で通り過ぎた。

遠巻きに他の騎士の人達が、しょうがねえなあ、という風に苦笑して見ている。




イェルク・フォン・ハルトマン、22歳。

侯爵家の四男にして、王立騎士団の第二師団長を務める高貴なる実力者だ。


だけど普段の彼はお調子者というかおっちょこちょいというか、いい人なんだけどどこか抜けていて憎めない人だ。

友人のエアハルト様に絡んでは冷たくあしらわれたり、ソフィアに絡んでは呆れられたりしている。


ちなみにイェルクさんもゲームの攻略対象キャラだ。

さんざんソフィアにアタックしては砕け散るんだけど、最終的に彼女に「この人はわたしがいなきゃダメだ」と思われて恋が実るという、ちょっと情けないエンディングになる。

黙っていれば181cmの長身に癖のある赤髪、緑柱石色(エメラルド)の瞳が素敵なイケメンなんだけどね…。


「いやー、参った。まさか聞こえてたとはね」

「あのドアは音がだだもれみたいですから、気をつけてくださいね」


わたしがそう言うと、イェルクさんはさっと青くなった。

今までドアの前で放ってきた数々の暴言を反芻しているんだろう。


「まじか、なんか罠みたいだな。気をつけよっと。あ、それはそうと今ちょっといい? 俺と一緒に来てほしいんだけどさ」

「え? イェルクさんとですか?」

「そ。俺と」


イェルクさんはにっこり笑った。


わたしはとっさに騎士団本部内を見渡してエアハルト様の姿を探した。

帰りも馬車で送ってくれると言っていたから、彼に聞いてからイェルクさんに返事をしようと思ったんだけど…。


エアハルト様は、団長室からは遠い側の窓辺にいた。

そこはちょっとしたラウンジのような場所で、彼は部下らしき数人の騎士達と円卓を囲み、真剣な顔つきで何かを話し合っている。

その中にはソフィアの姿もあった。


魔獣討伐の作戦会議だろうか。

そこには部外者を寄せ付けない空気がある。

部外者ウェルカムの軍議なんかありえないから当然だけど、少しだけ、あの二人を遠く感じる。

派手に着飾った自分が、急にとても場違いに思えて恥ずかしくなった。


「…ゼロッテ。おーい、リーゼロッテ、どうした?」


気がつくと、目の前でイェルクさんがぶんぶんと手を振っていた。


「あっ、はい! すみません!」

「大丈夫? 朝早くから引っぱり出されて疲れちゃった?」

「いいえ、全っ然大丈夫ですわ! 何も問題などありません! さあ、参りましょう!!」



〇〇〇〇〇



螺旋階段を上り、三階建ての騎士団本部の屋上へ出ると、イェルクさんは青空を背景に大きく伸びをした。


「うーん、外の空気は爽やかでいいな。最近事務仕事が多くて疲れちゃってさ」

「そうですね。ところでご用はなんでしょうか」

「つめたっ。冷たいなー、エアハルトが俺の婚約者は優しくていい子だって自慢するから、俺にも優しくしてくれるかと思ったのにさ。ちぇっ、俺も誰かと婚約しようかなー」

「あの…自慢って? 誰が、誰のことを?」


目が点になっているわたしに、イェルクさんは当たり前のように言った。


「誰って、もちろんエアハルトが、君のことをだよ。あいつ、前は俺が聞いても女の子のことなんて全然話さなかったのに、最近は嬉しそうに君の話をするようになってさ。あんまりレアだったから、俺、思わず騎士団のみんなも教えてやったよ。うちの堅物副団長は、予知魔法持ちの婚約者に首ったけらしいぜ、って」


「……」


ちょっと待って、よく意味がわからない。


優しい? いい子? 嬉しそうにわたしの話をする??

…本当に、エアハルト様が…?

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