【第九話 王国武道大会2】
『うわっ!ヤバイッ!』
俺は無意識で防御しようと片腕を上げた。
その瞬間、ロードバイクが光り、ガガガンッ!と攻撃を跳ね返した。
『え?あれ?なんで?』
「ご主人様!それよりも早くペダリングくださいっ!」
「おぉっ!サンキュー、メイド白虎!なんで今の防御できたんだ?」
「強化付与の応用ですよ!魔法エネルギーを一瞬だけ広げたんです!」
「そんなことできるんだ!すごいな!」
「えへへ!もっと褒めてください!『美人のメイド白虎ちゃん、天才!』とか、もっと言ってください!」
「・・・はいはい。」
再度、俺に向かって一斉に攻撃してくる選手たち。
が、すでに変形モードに入った白虎は、球状オーラで攻撃をすべて跳ね返していた。
「くっそ、なんだこれは?」「攻撃が効かないじゃないか!」「卑怯な!」とか。
外野が叫んでいるのが聞こえた。
「よーし!このまま正面を突破するぞ!」
「は~い!白虎、いきま~す!」
球状のまま、腕だけ生えた白虎が正面へと突進して行く!
選手たちが怯んだ! そこを数人ほど殴り飛ばして活路を開く!
「よし、いい感じだ。このまま 虎形になってくれ!」
「はーい!お任せください!」
「このまま外周を走っていくぞ!ランニング地獄を味合わせてやろうぜ!」
「ご主人様、それは少々悪趣味ですわね。ウフフフフ。」
「なんか嬉しそうだな?ほんとは性格悪いだろ?」
「そんなことありませんわ。白虎は世界一優しい美少女ですわよ?」
「うん、それはどうでもいい。」
「もう!そのクールな態度もステキですわ。」
俺たちはそのまま外周を走り、後に続く選手たちは戦列を長くしていった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
250人もの男たちが一斉に走っているので、軽い地鳴りがしていた。
客席の方も揺れているかも知れない。
10周以上走り続けた頃に、脱落者が出てきていた。
「ぜぇぜぇ、なんなんだあいつは?」
「逃げ足は・・・速いようだな。」
「先回りして、倒してやる!」
しかし、選手たちの中には、これでは埒が明かないと気づいたのか、集団は分裂し始めていた。
その中には二刀流の湾刀を持った異国人が、舞うように刀を振るっていた。
アラビア風の恰好をしたその異国人は、楽しそうに相手を無差別に斬りつけている。
中には「まいった!」を言っているのに、その男は容赦なく斬りつけていた・・・正直、嫌な奴だ。
でもこのDブロックの中では圧倒的に強い男のようだ。
「・・・・あいつを倒さないと、予選通過はないな。白虎、そろそろ片づけていこう!」
「はい、わかりましたDETHよ~!」
「はいはい。殺しちゃだめだぞ?」
「わかってますよ!出力は加減しますって!」
「やっぱり、白虎はいい性格してるよ。」
俺たちは外周から中央へ向きを変えて、『剣士白虎』に変形した。
そして剣を構えて、攻撃してくる相手を1人ずつ、時には2~3人ずつ倒していく。
「う~ん、面倒臭いなこれ。白虎、何とかならない?」
「もう!わがままですね~!私を誰だと思っているのですか?もちろん、なんとかできますよ?」
「どうやるんだ?」
「剣閃で10人ずつくらいをふっ飛ばしましょう!」
「んじゃあ、それやろう!」
「じゃあ、ペダリングしっかりお願いしますね、ご主人様!」
「この『俺が動力源』っていうシステム何とかならないの?」
「これはロードバイクですよ?なるわけないじゃないですか~!」
「ははは~だよな!そうでないと魅力がなくなっちまうもんなぁ!コンチックショウォォォ~!」
俺はペダリングの回転を速めた。
剣士白虎が俺のイメージ通りに剣の構えを変える。上段で少し溜めてから素早く斬り下ろすと、光の剣閃が飛び、12人くらいの選手を一気に壁に吹き飛ばした。ズドドンッ!
続けて横薙ぎに剣を振るい剣閃を飛ばす。ズババンッ!
この動きを何回か繰り返すと、ほとんどの選手が戦闘不能になった。
しかし、あの湾刀の異国人選手だけは、まだ立っていた。
剣士白虎は構える。湾刀異国人も構える。斬り合い、打ち込み、何度か斬り合う!
剣士白虎の剣を受ける度、こちらが湾刀をはじき返していた。異国人はその度にのけぞっていた!
『ん?あれ?思ったより弱いぞこいつ。』
あれだけ身軽に剣閃を避けていたので強いかと思ったけど、そうでもなかった。
ちょっと剣閃が出るくらいの強さで剣を振ったら、湾刀異国人はあっさりふっ飛ばされ、壁に激突して気を失った。
「ピピーッ!試合終了!」笛が鳴り審判の声が聞こえた。
俺は審判から指示をもらい、会場を出て選手受付へと向かう。
「いやぁ、予選とはいえ全く物足りなかったなぁ、皆、弱かったし。」
「コホン!ご主人様!ちがいますよ!白虎が強すぎるんです、フフン。」
「ま、予選だから、こんなもんか。」
「ちょっと?ご主人様、聞いてます?」
「あ。うん。それより腹減ったな~。」
メイド白虎の主張は軽く流した。それよりなによりまず食事だ!
選手受付で明日の選手登録を済ませて、レストランへと向かう。
メイド白虎はロードバイクを収納し、『お姉さんメイド』の姿になった。
少し歩いていると向こうから、浅逹さんとゲンさんがやってきた。
「いよぉっ!ライド!予選通過、おめでとう!」
「どうも!お久しぶりです、ライド殿。予選通過おめでとうございます!」
「お二人とも、ありがとうございます!」
「ところで、随分と変わったロードバイクを手に入れたようですね?」
「えぇ、その~色々あったんですよ~。」
「そこのところを、く・わ・し・く・聞きたいのですが、よろしいでしょうかっ?」
ゲンさんの目の色が、子供のようにキラキラしていた。
俺はメイド白虎と顔を見合わせて『なんか嫌な予感がするね。』とお互いに思っていた。
「では、ゲンさん。とにかく今、腹が減っているので、食事しながらお話ししましょう!」
俺たちはレストランへと移動した。
――― レストラン
店に入るなり俺は「本日のおすすめでお願いします。」とウェイターさんにお願いすると、テーブルに座った。
前菜らしきポテトの山をウェイターさんが持ってきてくれたので、俺はそれを頬張る。
「で、ライド殿?出場したものすごく強いトラ頭の剣士はどこにいるのですか?」
「え~と・・・ゲンさんの目の前にいます。」
俺の隣で、メイド白虎がニコッと笑う。
「え?どういうことですか?」
「そういうことです。彼女がそうなんです。えっと、精霊なのでわりと好き勝手にやっていて、常識破りなことばかりで、俺もびっくりしています。ゲホッ。」
白虎の肘が、ズンッと俺のわき腹に入ってきた。
「初めまして、白虎と申します。オホホ。」
「初めまして、白虎様。ゲンデルワーフと申します。宮廷魔術師をしています。」
「ブフォッ!」
俺は、ポテトを吹き出した!
「え?なななっ?ゲンさんって?宮廷魔術師何ですか?」
「えぇ、そうですよ?言ってませんでしたっけ?」
「・・・はい、初耳です。」
と、俺は浅逹さんを見やる。浅逹さんは口笛を吹いてごまかそうとしている。音でてないよ?
「それにしても・・・。ほんとに、精霊様なんですか?」
「はい。正真正銘、本物ですわ?」
「えぇ~なんで~? 私でもまだ会ったことがないのに~。なんでライド殿のところに?羨ましい。」
「ゲンさん、そんなに珍しいことなのか?」
浅逹さんがツッコミをいれる。
「珍しいも何も、精霊様と出会ったのは生まれて初めてですよ。」
「そうなんですか!?」
「えぇ。この国には精霊魔法を扱える人物はごく少数です。その精霊たちは実態がないものなんです。エナジーの塊と言いますか。要は白虎様のように実体として存在する精霊様は珍しいんです。」
「へ~。珍しいんだ・・・。」
「でも、なんでライド殿のところに現れたんでしょう?それが、わかりません。」
「それには私白虎がお答えしますわ!え~っと・・・その日の夜は、ご主人様にとって、それはそれはとても悲しい夜になりました。なぜなら森で初めてゴブリンに襲われたご主人様は、なすすべもなく、浅逹様に助けられたのですわ。でも一方で、ゴブリンにやられ、ボッロボロになった愛用のロードバイクが。
もう、在りし日の姿で一緒に走ることはできない!あぁ、美しき君よ?いずこへと?という思いで帰宅後、ご主人様は泣きながら愛車のロードバイクを解体し、召喚魔法陣へ入れていきました。ひとつひとつの部品に思い出を込めておりました。あぁ、こんなに愛されているなんて!
自分の不甲斐なさを身に染みて理解したご主人様の思いが、神様に届いたのでしょう。
神様は眷属である私に声をかけて下さいました。『あの悲しみに打ちひしがれた若者のところへ行き、メイドとして仕えるのだ。』と・・・いえ確か『愛妾』として・・・いえいえ確か『奥様』として?ウフフフフ。
ご主人様は私の好みの殿方でしたし、辛い体験をしたご主人様の思いを癒して差し上げるのは私の役目と、胸に刻んで、神様に『彼の元へ(お嫁に)行きます!』と言いましたら、『ではかの土地でも無限に力を解放できるようにしてやろう。』と仰られ、ロードバイクを依代にこの世界に現れたのですわ。その時に召喚魔法陣のおかげでロードバイクの愛された思い出も融合してご主人様の愛に満たされて、この世界にやって来ましたの。以上『奇跡の愛の物語』ですわ。」
「え?そんなたいそうな話だったのか?」
「いえ、少し話を盛らせていただきました。ホホホ。」
「じゃあ、余計な部分を端折ると、神様が『行って来い』と言ったのもあるけど、俺のことを『気に行った』からこの世界に来たってことだな。」
「・・・まぁ、私の心を端折られ過ぎて少々イラッとしますが、合ってますわ。」
「ふうん、そうなのですね。では白虎殿は特別な存在なのですね?」
「どういうことだい?」
「普通は、『この地上に存在する精霊』を使うので、白虎殿ほど強力な精霊魔法は存在しないのです。」
「そうなんですか?!」
「はい、そうなんですよ。この世界は『魔法』が発展しすぎています。だから精霊の力に頼る必要はなくなり、衰退していったのかも知れません。」
「そうなんですね・・・。」
「ところで、ロードバイクはどちらにあるのですか?」
「え?あぁ、白虎?」
「はい。こちらです。」
といって、白虎は自分の乳房の谷間をバカッと開いた、そこにロードバイクがおさまっていた。
どういう仕組み何だろ?
「ん?あれ?ゲンさん?」
ゲンさんは座ったまま気を失っていた。
「白虎ちゃん?ちょっとやり過ぎたみたいだ~ね?」
浅逹さんのツッコミが入った。
「あらやだ。つまらない男ですわ。」
『ははは~やばい、宮廷魔術師に失礼なことしちまった・・・。白虎コノヤロ!』
この後、浅逹さんがゲンさんを担いで帰っていった。・・・なんか すいません・・・。
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