【 第八話 王国武道大会(マリナ王女結婚権争奪戦)】
今回もお楽しみください。
マリナにロードバイクのレクチャーをした翌日。浅逹さんがお店にやって来た。
「ライド~?いるか~?」
「はいはい~?どちらさまですか~?」
「んん?君は新入りかい?随分と可愛らしい従業員だな?ケモ耳メイドとは、ライドにそんな趣味があったのか?」
「初めまして、お客様。私、ライド様にお仕えする メイド白虎 と申します。」
「おぉ、そう。よろしく!ところで、ライドに これ渡してくれる?」
「はい、畏まりました~っと、ご主人様~?」
ちょうど、俺は2階から降りて来たところだった。
「ふあ~。あ!おはようございます、浅逹さん!何ですか?その手紙?」
「おう、ライド宛に預かってきた手紙だ。ほれ、開けてみな?」
俺は封を開けて、手紙を読んだ。
「ん?なんですかこれ?王国武道大会?なんで俺に?」
「ははは。そりゃあ、ライド。森での一件が噂になってるからな。見たこともない乗り物に乗った若者が圧倒的な力でオークロードを倒し、森を開拓したってな!見たこともない最近の乗り物と言えば、ロードバイクしか思い当たらないからな。」
「あはは~、そうですよねぇ。実は新しいロードバイクを召喚したんですけど、特殊な能力がついて来たんです。そのひとつが彼女です。 メイド白虎は、ロードバイクに宿った精霊らしいです。」
「へぇ~、妖精にしか見えないけどな~。」
「そんな可愛いもんじゃありません。」
「え~、妖精だなんて~、浅逹様~、お上手ですね~!」
「そうだろう?俺はライドと違って、女を口説く天才なんだぜ?」
「はいはい、そうですかー。」
浅逹さんが何か言っていたけど、無視して俺は手紙の内容を確認する。手紙の内容はこうだった。
『 親愛なる ライド殿
招待状
貴殿の武勇を聞き、今回、エトワール王国武道大会に特別招待いたします。
この大会は王国の騎士団を始め、腕に覚えのある貴族、平民だけでなく、国内外から武勇を誇る猛者の方々が一堂に会する、またとない貴重な機会となっております。
貴君にも是非ご参加いただき、その勇名を国内外に響かせて見ませんか?
そして、今回だけの特別な優勝商品を手に入れてください!
開催日時は4週間後の朝です。場所は王城前です。
この招待状をお持ちいただければ、入場できます。
ちなみに今回の優勝商品は『王女マリナ様と将来結婚できる権利』です。
大会組織委員長 エトワール王国 国王
代筆 宰相 レイモンド・ギュスター』
「え?何だって?『王女マリナ様』?」
俺は招待状をもう一度読み返した。間違いなく『王女マリナ様』と書いてある。
「え?マリナ?って、あのマリナ?」
「そうだ。」 浅逹さんが静かに頷いた。
「えぇっ?」
俺は信じられなくて、浅逹さんと手紙を交互に何度も見る。
「ははは、すまんライド。言ってなかったけど、実はそういうことなんだ。」
「えぇっ?!」
「マリナ様は平民思いの姫様でな、お忍びで王都の庶民の暮らしを見て回るのが好きなのさ。」
「何、その時代劇に出てる将軍様みたいな性格は?」
「ははは、そうだよな。俺も異世界にそんな人間がいるなんて思わなかったが・・・マリナ様には驚いたぜ。」
「・・・俺、何にも知らなかったから、無茶苦茶失礼なことばかりしてた。俺ってダメな奴って思われてるかも!ノオォ!」
俺は、自分の今までの態度を振り返って、頭を両手で抱えるようにしてのけぞった。
「フフフ、ライド?そんなことはどうでもいいだろ? 姫様のこと気になるんだよな?」
「え?あ!はいっ!・・・そりゃあ、王女様のような可愛い女性は気になりますよ?」
「じゃあ、頑張って絶対優勝しろよ!優勝すりゃあ、堂々と付き合えるんだからよ!」
するとメイド白虎が、フンっと鼻息荒く気合を入れた。
「そうですよ、ご主人様!そういうことなら、この私にすべてお任せください!必ず、勝ちます!フン!」
「うん、わかった。必ず勝つ!」
「では、今日から森で特訓ですね!」
「あぁ、そうしよう!」
それから俺は大会前日まで森へ通い、魔物相手に特訓をしたのだった。
――― 4週間後
王国武道大会 決戦会場
王城のすぐ外にある広場に設営された特別会場には、たくさんの人々が集まって来ていた。
俺は浅逹さんと一緒に会場までやってきた。
「うわぁ!でっかい会場だな~。まるで屋根のない東京ドームみたいだ!」
「あれも魔法で作ったって話だ。」
「この異世界の魔法の技術力ってすごいですね・・・。」
この会場、観客は1万人収容できるという。
会場の周辺には、テレビモニターっぽい装置が何台も設置されている。
「浅逹さん?この世界ってテレビあるんですか?」
「あぁ、あれな。あれは魔法道具の一つだ。原理は知らん。」
「へぇ、異世界ってもっと不便な世界かと思っていましたけど、日本にいた頃とあまり変わんないレベルですね。」
「あぁ、そうかもな。」
「ご主人様~!選手の受付はあっちみたいですよ?」
「うん、ありがとう。じゃあ、浅逹さん、この辺で。」
「おう!ライド!優勝、期待してるからな!」
「えぇ、絶対、優勝しますよ!」
浅逹さんと別れ、受付へと向かう。 周りには・・・うわ~強そうな人ばっかり。
近くには野盗風の恰好をした三人組の男たちが歩いていた。真ん中の男がデブマッチョで、斧を持っている。両サイドにいる男2人はやせていたが、それぞれ槍と弓を持っていた。他国の貴族だろうか?白い衣装にその後ろには黒い集団。ちょっと嫌な雰囲気を出している。それから王国騎士団もいた。何人くらいの参加するんだろうか?
他にも、剣士、魔法使い、戦士、武闘家、騎士などがいて、種類も人種、獣人種、エルフ種など様々だ。こういう部分を見ると『ここはやっぱり異世界なんだなぁ。』って実感させてくれる。
受付の女性に招待状を見せ、『出場選手参加票』という紙に名前、住所、使用武器を記入する欄があったので、武器欄には『変形するロードバイク』と書いた。
書いた用紙を渡すと大会のルール説明をしてくれた。
「では、簡単にルールを説明いたしますが、その前に・・・この大会では殺傷能力のある武器の使用を認めていますので、即死する可能性もございますが、本当に参加しますか?治癒術師が待機していますけど。死んだ場合はその責任を当方では負いません。ギブアップ宣言は認められます。その宣言後に対戦相手を攻撃した場合は、失格となります。ここまでは、よろしいでしょうか?」
「はい、わかりました。(本物の武器使用OKなんだ。汗)」
「では本日は予選のみを行います。予選通過者は明日の本選に出場できます。予選はA~Hのブロックに別れていますので、先にこちらのクジを引いて下さい。」
「はい・・・これ!」
「えっと、三智雷人様はDブロック出場になります。予選開始の予定時間は本日、午前中になりますね。但し、ABCのいずれかのブロックの試合が長引けばその分、開始時間もずれることになりますので、ご了承ください。」
「わかりました。」
受付が終わり、予選開始まで時間があるので会場を散策することにした。
歩き回るにはちょっと、ロードバイクを押しながら歩くのは大変なので、メイド白虎に何とかならないか訊いてみた。「お安い御用ですよ?」と言って、メイド白虎が呪文を唱えると、ポンっとメイド白虎が・・・なぜかお姉さんメイドに巨大化?していた。
「え?え?何?どうなってるの?」
「ご主人様?理屈は簡単ですよ?ロードバイク部分を体内に収納いたしました。ですが、その容量分、私の体が大きくなっただけですわ。」
・・・だけですわって、ちょっと?どんな胃袋してんの?普通の健康的な20歳くらいのお姉さんになって、盆と旧盆が一緒に来たみたいな美しいボディラインになって、スカートは短いし、お顔も美しい女性になっているから・・・周りの視線がイタイんだよ~。「誰だよあの美人はっ!?」みたいに言われてるし、かなり目立っている。
「さぁ、ご主人様、行きましょう♡」
メイド白虎は、俺と腕を組んで歩き始めた。柔らかい感触がね。
「一回こうしてみたかったんですよね~♡」
「やめろよ。恥ずかしいだろっ!」
「まぁまぁ、いいじゃないですか~!」
まぁいいか。この大会まで特訓に付き合ってくれたから、いいかね。
会場周りをぐるっと回ってみたけど、そんなに珍しいものもなかったので、俺たちは近くのカフェで時間をつぶすことにした。ふぅ・・・メイド白虎、俺のことじっと見つめるなよ。からかってんのか?トラの癖に。
カフェにモニターが付いていたので、予選の様子を見ることにした。
予選は250人ずつのバトルロイヤル。この中から各ブロック1人の予選通過者が決まるのだ。
Aブロック予選開始。最初はカオス状態だったけど、段々と強い集団が絞られてきた。その中に巨人のような男がいて、その男が強かった。バトルアックスで次々と10人くらいの人の塊をふっ飛ばしている。すげぇ怪力。結局、Aブロックはこの怪力男が決勝に残った。
20分ぐらいの会場整備の時間があり、Bブロックの予選が始まった。こちらも最初はカオスな状態だったけど、残り100人くらいになった頃に、ものすごい剣閃が縦横に走りだした。誰だろう?王国騎士団の鎧を着ているようだけど・・・。できれば当たりたくない相手だね。結局、このBブロックは、この騎士団の選手が決勝に進出した。
「Cブロックも見たいけど、そろそろ出場ゲートに行くか。」
「はい、行きましょう!ご主人様。愛する人のために!」
「ばっ馬鹿、よせよ!」
俺たちは出場ゲートに向かった。
――― 出場ゲート
総勢250人の猛者たちに囲まれるのは、すごくむさ苦しい。
そんな中、美女メイドを連れて歩いていた俺は・・・悪目立ちしていた。
周りから、敵意満面の視線がグサグサと付き刺さる。
「おい、メイド白虎。いい加減、ロードバイクを出してれ。」
「もう・・・ハイ、ご主人様。」
腕をぎゅっとされてから、光り輝くとロードバイク白虎がその雄姿を見せてくれていた。
「よし、頼むぜ白虎。」
「まかせて!」と言っているようにキラッと光ったように思えた。
「では、予選Dブロックの選手の皆さま、入場して下さい。」
全員、気合を入れたり、無言だったり、「王女様はおれのもんだ~!」とか叫んでる勘違い男がいたり・・・様々だった。会場は広々としたオフロード。地面は土だ。ロードバイクは走りやすい。
『よし、いよいよだ。』
選手が全員入場するとゲートの門がガーンッと閉まる。
俺はロードバイクに乗り、ゆっくりと走り出そうとした・・・が、選手たちに俺は囲まれて、身動きが取れなくなってしまった。むさ苦しい男どもの面々がぐるりと集まっている。
『あれ?あれ?あれ~????』
「試合、始め!」っと審判員が声を上げると、選手たちは一斉に俺に向かってきた。
「うぉぉぉぉっ!」
「こんの、やろうっ!」
「一人だけいい思いしやがって!」
「あんな美女がいるのに、王女様も欲しいのかよっ!」
「ふざけてんじゃねぇぞ!チビがぁっ!」
『えぇっ?単なるやっかみかよ?!』
っと思ったが、俺を狙って振るわれた剣や槍が、もう目前に迫って来ていた!
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