【第四話 新しい相棒】
俺は光を見つめながら、続けて召喚魔法陣にイメージを送り始めた・・・。
一部バラした愛車の残骸を召喚魔法陣に入れながら、今までの楽しかった思い出、苦労した思い出、新しく買い替えたパーツを取り付けたこと、不具合を治したこと、ロングライドや、トライアスロンに出た時の思い出など思い浮かべていた。
『・・・俺に戦う能力が無く、おまえを守ることができなかった・・・悔しくて、守り切れなくて、ごめんな・・・でも、この異世界で生きる為に必要な能力を教えてくれたんだな、身をもって・・・だから『仕方がなかった』で済ませちゃダメなんだ・・・召喚魔法陣よ!お願いだ!俺は最強のロードバイクが欲しい!誰にも負けない能力を備えたロードバイクが欲しい!次は己の身を守れるように、さらに魔物や仇するものから世界中の人々を守れるように!この世界で神にも抗える最強の力を持ったロードバイクを召喚したいっ!!!!!』
俺はそんな強い思いをイメージしていた。
すると、召喚魔法陣が俺の思いに応えてくれたのだろうか? より強く光り輝き始め、魔法陣は急速に回転し始めた。
ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
「うわっ!ちょっとやばくないかこれ?」
あんまりにも光が強く眩しくなってしまったので、俺は手を目の前にし、光から目を庇うようにして見ていた。『召喚魔法陣が壊れてしまったらどうしよう?』と内心ドキドキしていたが、すぐに回転がゆっくりになって、ほっとした。
召喚魔法陣の回転が止まると、光に包まれて新しいロードバイクが陣内から現れた。
「おぉ!カッコイイ!」
ボディーカラーは白色が主で、文字やラインは黒色、アクセント程度に赤色を使っている部分がある。
でも、この新しいロードバイクはあの破壊されたロードバイクの生まれ変わりなんだよな。
そう思うと急に愛着がわいてきた。
俺は色合いからくる印象で、この新しいロードバイクを『白虎』と名付けた。
『よろしく頼むぜ!新しい相棒よ!』
すぐに乗りたくてうずうずしていたが、日も暮れて腹も減っていたので、今日は我慢してやめておいた。
――― 翌朝 ―――
少し早く目が覚めた。あれだ!小学生の頃、翌日が遠足でワクワクして早起きする、あの感覚だ!
俺は朝食を軽く食べ、洗顔と着替えをさっと済ませると階段を駆け下りて、白虎の元へとやって来た。
心なしか白金のように輝いているように見える!カッコイイ車体だぜ!
「よし!白虎、今日は一緒に走ろうな?よろしく!」
と、ロードバイクに言葉が伝わるかどうかはわからないけど、その方が愛着が湧くので白虎に挨拶しておいた。
「今日はどこに行こうかな?まだ行ってないのは東門と西門だから・・・今日は東門から外へ行こうかな。」
王都内ではスピードを思いっきり出せないので、王都の外へ行くことにする。
タイヤのエアーをチェックして、俺はドリンクボトルと昼食用に作ったサンドイッチをバックパックに入れて、出発した。
朝のひんやりと澄んだ空気がまだ残る中でのライディングは、とても気持ちがいい。変速ギアの調子も良く、まだ人気もまばらな王都に、白虎が走る『シャーッ』というあの軽快な音が耳に響いてワクワク感を盛り上げてくれる。
途中から、香ばしい甘く美味しそうな匂いがして来たので、何屋さんかな?と思っていたら、なんと!パン屋さんを見つけた!
「王都に『パン屋さん』ってあったんだなぁ。今度、買いに来よう!」
パン屋さんがあるとわかっていれば、わざわざサンドイッチは作らなかったのに・・・。
看板娘さんかな?可愛い少女が開店準備をしている様子だった。
俺は思わず「おはよう!」と声をかけてしまったが、すぐに通過したので、彼女がどんな顔をしていたのか確認することはできなかった。
でも、俺は今、それぐらいすがすがしい気持ちなんだよね。
しばらく走ると、東の城門が見えてきた。門番の人に冒険者登録証を見せて、東の城門を出て走る。
「よし!ここからは飛ばしていくぞ~っ!!!」
俺はペダルをギュンギュンと漕いで、白虎を加速していく!ふと、サイクルコンピュータ(=サイコン)を見ると見慣れない小さなボタンが付いていた。「ん?何のボタンだろ?」とピッと押してみた。
すると『35kmまで加速してください。』とアナウンスが聞こえた。「え?何この機能???」と疑問に思ったが、俺は指示通りに加速していく。俺にとって35kmの加速は結構ハードだが・・・・。
「むうぉぉぉぉぉ!!!」
気のせいか?ちょっと車体が浮き、白く輝くオーラのようなものが発生してきたと思ったら、球体のオーラに包まれてしまった。「なんだなんだ?」と思って見ると、アナウンスが「35kmエネルギーチャージ完了しました。」と報告をくれた。
すると、ポンッと小さいメイド服を着た女の子が出てきた!
「ご主人様、契約完了です。これからよろしくお願いします。」と喋った。
よく見ると、尻尾があるので獣人のようだが・・・ん?ひょっとしてトラ系か?ってことは白虎なのか?
「そうです。我こそは神の眷属が一人、四神の精霊 白虎 です。」とカーテシーで挨拶をしている。
「では、我が白虎の勇姿をお見せしますっ!」って言ってきたので、『なんだろ?』って思っていたら、球体から腕や足がはえてきた!その形はだんだんと獅子の形に変わっていった。
「え?これって?」 と疑問に思っていると。
「ご主人様は、今、我が体内にいらっしゃいます。」
「どういうこと?」
「つまり、召喚した精霊体の中にいるのです。ここはとっても安全なのです!」
「は?精霊体の中?」
「つまり、ご主人様と私、白虎が一心同体になっているということです。」
「へ~。じゃあ、これで魔物とも戦えるんだね。戦闘準備が大変みたいだけど。」
「仕方ありません、ご主人様のペダリングによるエネルギーがロードバイクのボディ内に組み込まれている無数の魔法陣にいきわたり、魔法エネルギーを増大。私を実体化しているのです!」
「そうなの?」
『またゲンさんが喜びそうなものを召喚してしまったなぁ。』と思った。
「ご主人様がペダリングをすることで発生する魔法エネルギーが続く限り、この実体化は有効です。ペダリングが止まり、魔法エネルギーの充電も減ると、だんだんと精霊体のボディが収縮していきます。」
俺はペダリングを辞めてみた。ピピピッと警報音がして、『現状維持するためには漕ぎ続けてください。』とアナウンスが・・・見ると、精霊体の白虎の指先が消え始めていた。
「え?じゃあなに?動力源は俺ってこと?」
俺は水分補給しながら必死に漕ぎ続けた。治癒魔法で体が再生するように、精霊体の指先が元通りに実体化していった。
「うん、なるほど!わかった。でも、ずっと35kmキープは死ぬ!」
「あ、ご主事人様、大丈夫です。アナウンスで35kmと言ったのは『フル充電されるまで』ということです。一度、実体化してしまえばあとは普通にペダリングしていただければ、現状維持されるので大丈夫です!」
「結局、ペダリングし続けないとダメなんだね・・・。」
「えへへへ。そうでしゅね~。」
「えっと、これ解除するのどうしたらいいの?」
「え?もう解除するんですか?もうちょっとこのままでいませんか?」
「いや、俺はロードバイクでのライディングを楽しみたいんだが・・・?」
「あ、でしたら・・・実は、空も飛べますよ?速度30kmキープで。」
「何それ、俺が疲れるだけじゃないか?楽しくないし、その機能いらないぞ!」
「しゅん・・・。」
「ったくしょうがないな・・・・じゃあ、森に行って魔物を倒せるか実践テストするか?」
「え?ほんとですか?ご主人様?」
こいつ、目がキラキラしている。やっぱ神の眷属と言えども肉食獣だから?
「あぁ、でもこのまま地上を走っていく!空を飛ぶのは体力的にきついからな。」
「わーい!では、すぐ行きましょう!」
『次回からドリンクに回復ポーション混ぜといた方が良さそうだな。』と思いながら、俺達は森へと向かって行った。
――― しばらくして、昨日ゴブリンにボコボコにされた、あの森に到着した。
「よし、このまま森に突っ込むぞ!」
「ハイ!ご主人様!」
俺のペダリンングスピードを少し上げると、それに合わせて白虎も加速する。
『うん、一体化してる感じがするな!』
この森の中にはそこまで強力な魔物は出現しないが・・・たまに他所から流れてきた強い魔物が出るらしい。強い魔物とは決して出くわしたくはないが、今日は何とかなりそうな気がする。
魔物を発見した俺たちは、実践テストに入った。白虎を動かすのは俺のイメージ。足りない部分をメイド白虎がサポートしてくれる。
まずは、一角ウサギを発見!5匹。あっという間に爪で倒す。
次は、ハウンドドック。素早さのある犬系の魔物だ。6匹。これも瞬殺!
次は、ゴブリンだ!3匹。これも瞬殺で倒す!敵は取ったぜ!旧愛車よ!
次は・・・オーク?3匹いる。大丈夫か?
「お任せください、ご主人様!変形!」
「え?」と思ったら、白虎の形が変形し人型になった。まるで剣士のように。頭は獅子のままだけど、逆にそこがカッコイイ!
この白虎の中の球体にいる限り、俺は大きくなったり小さくなったり自由になるようだ。万能過ぎだろ?
剣士白虎はオーク3匹と一合、二合打ち合ってから、斬りつけていく。1対3でも余裕だ。
まぁ、最強精霊のレベルだから当然だね。なんかすっごく嬉しくなってきた!
オーク1匹目は首を落として倒した!
オーク2匹目は胴を真っ二つにして倒した!!
オーク3匹目は袈裟斬りにして倒した!!!
「おい、白虎、そろそろ限界だ。お前の実力はわかったから、ちょっと休ませてくれ・・・。」
「え?もうですか?ご主人様、体力着けないとダメですよ?」
「余計なお世話だ。じゃあ、止まるぞ?」
「ハイハーイ、わっかりました~。」
俺はペダリングを止め、ブレーキをかける。じわじわと精霊体が消えていき、最後に球体がシャボン玉が弾けるようにパッと消えた。
「ふぅ、疲れたな。なんであんな喋る精霊がいるのか?面白いけど、ちょっとうるさいかな。」
「何か言いましたか、ご主人様?」
「ひえっ!!!」
もういないと思って、文句垂れていたら、妖精くらいの大きさの『メイド白虎』がぷかぷかと宙に浮いていた。
「お、おまッ?おまえ、モードが切れたらいなくなるんじゃないのか?」
「ふっふーん。まだロードバイク内に魔法エネルギーが残っていますから、その間は実体化できるんですよ?」
「なん・・・だと・・・?」
『じゃあ、これから俺はこのちょっとうるさい奴と暮らすのか?』
「ご主人様?何かよからぬことを考えていませんか?」
「い、いや、何も・・・。」
俺の『新しい相棒』は強いけど、世話のかかる妹みたいな、そんな感じだなと思った。まぁしょうがないか。
俺はサンドイッチを食べてから、王都に戻ることにした。
ロードバイクの白虎を木に預けて、バックパックからサンドイッチを取り出して、食べ始めた。
森の中では、鳥の歌声や、木々の葉がサラサラと風に撫でられていく音、陽の光は空から木陰を通過して優しく降り注いでいて、まるで絵画のような美しい情景を生み出していた。
遠くから木を切る音だろうか?コーン、コーン、キーンという音が聞こえてきた。
「ん?キーン?・・・木を切るのにそんな音するのかな?」
「ご主人様?それ樵ではありませんね。」
「じゃあ、何なんだ?」
「誰かが魔物に襲われている可能性がありますね。」
「なんだって?!じゃあ、すぐ助けに行かなきゃ!」
「やった~!また魔物を血祭りに出来るんですね!フンフン!」
「あぁ、間違ってはいないが、もっと言い方考えろよ?」
「えぇへへ~。」
メイド白虎め!・・・笑顔が可愛いから許す!
ともかく・・・
ここから少し離れた場所で、人が魔物に襲われているようなので、俺たちは急いで音のする方へと向かうべく、準備を始めた!
お読みいただきありがとうございました。
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ではまた次話をお楽しみください。