【第三話 さらば!俺の愛車よ!】
翌日、早速ゲンさんが家に来てくれた。浅逹さん、ありがとう!
「ライド殿、この魔法石を使うと、家一軒分の電力は余裕で賄われますよ。室内に置いておくだけで機能しますぞ。」
「えっと、これは?雷系ですか?」
「はい、そうですが・・・もっと出力を弱くしたものです。雷系の魔法をそのまま使うと家が吹き飛んじゃいますからね。ははは。」
「ありがとうございます。何か恩返しができればいいんですけど・・・。」
「ライド殿、そのお気持ちだけで今は充分ですよ。でも、もし急ぎの配達があるときはお願いしますよ。」
「え?あぁ、浅逹さんから聞いたんですか?」
「はい、そうですよ。浅逹殿はライド殿が同郷出身であるから、くれぐれもよろしく頼むと言われています、ですが、私もライド殿のその優しいそうなお人柄が気に入りました。」
「そ、そんなぁ。」
「では、次回からはこちらの魔法石をお使いください。」
ゲンさんが、四角いスマホのような大きさの魔法石を渡してくれた。日本でのスマホにそっくりだ。
「これは?何ですか?」
「ライド殿はご存じありませんか?我が世界の『スマホ』ですよ?」
「え?スマホあるんですね!すごい技術力だなぁ・・・。」
「いえいえ、召喚魔法陣である程度写し取ることができますからな。それを魔術回路配線して、極小の魔法石を媒介して組み上げただけでございます。」
「えっと????全然わかりませんけど。使い方は?」
「おっと、失礼いたしました。使い方は『念じるだけ』で大丈夫です。連絡取りたい相手をイメージしていただければ、その人の名前か、文字が読めない場合は映像が映し出されますので、それを指タッチしていただければ、スマホ内の魔法石に伝わり、企業秘密で私のスマホにつながります。あと、ライド殿の居た世界とほぼ同じような機能がございます。それは量子伝播の技術をつかっておりまして魔術数学的に申し上げますと*△□☆※=○△×□☆※○となりまして・・・」
「ちょ!ちょっとストップ!ゲンさん?」
「おっと、いけない。最近研究に没頭しておりまして、転移者の皆さまは学の深い方がおりますので、たまに魔術数学を理解して話を聞いて下さる方がいらっしゃいますので。浅逹殿のように。ライド殿は数学的なお話は興味ございませんでしたか?」
「はい・・・恥ずかしながら、勉強は少し、いや大分苦手です・・・。」
「それは、失礼いたしました。でも気にすることはありません。人はそれぞれ自分の役割を持って生まれてくるものですからな。では、他の用事もございますので、次回からは遠慮なくスマホで連絡していただいて構いませんよ?それでは。」
一礼して、ゲンさんは帰っていった・・・。
ゲンさんって一体何者なんだろう?そして、浅逹さんって理系なんだね・・・しかも相当頭良い人っていうのがちょっとショックだった。イメージに合わない。絶対、体育会系。傭兵みたいな雰囲気だし!
とりあえず、これで冷蔵庫はじめ、他の家電製品も問題なく使えるってことだな。仕組みは良く分からないけど、ありがたい。本当にここは異世界かよ?って、疑いたくなるけどね。
さて、冒険者ギルドに行って、配達の依頼が来ていないかエクレアさんに聞いて来よう!
――― あれから一週間、配達の仕事は順調だ。
だけどロードバイク屋としての活動も忘れてはいない。
こうして街中を走っているだけでも、もの珍しいのでかなりの宣伝効果があるはずだ!
この王都にロードバイク文化が浸透するまで、しばらくは両天秤で頑張らねば!
今日の配達は、北門から東にある街 ロートンへ向かう。途中森を抜けて行くルートで、そこには魔物も出るらしい。
何とか出くわさないことを祈る。だって、俺は剣も魔法も使えないんだから。己の体力と脚力のみが頼りだ!
昼頃に無事、ロートンに到着した。今日の配達はこの街の冒険者ギルドへの配達だからすぐに終わった。
どこか食事をして帰ろうかな・・・お?いい匂いがする。
俺は、食堂みたいな所に入った。ここは宿屋も兼業で営業している様子だ。
「すいません、食事だけでもいいですか?」とマスターらしき男性に聞くと、「あぁ、大丈夫だよ。」というので、席に座った。
隣のテーブルで食事をしている気の良さそうなおじさんが、『かつ丼』みたいなものを食べているので、「それ、なんていう食べ物ですか?」って聞いてみると、そのまま『かつ丼』という答えだった。
なんでも5年くらい前から、日本人の和食職人が転移してきて、お店を構えているらしい。
この店のマスターが仲良くしているので、レシピを教えてもらったという話しだった。
この街にも転移者が住んでいると聞いて、俺的には嬉しい。早速、マスターに注文し、じっくりと味わって食べた。
「はぁ~、美味しかった~。まさか異世界で『かつ丼』があるなんて、びっくりしたなぁ。」
俺は満足な気持ちで、ロードバイクを漕ぎ出し、ロートンの街を離れた。
『そのうちまた来ることがあったら、和食屋さんを探そうっと。』など考えながら帰り道をすいすいと走る。
しかしもうすぐ森を抜けそうだというところで、運悪くモンスターに襲われた!
ゴブリンだった。5匹。
『街道沿いなのに、出てくるなんて!やめてほしいな。』
道幅を防ぐように立ちはだかるゴブリン達。俺はその真ん中の奴に向かって、突進していく。
「うぉぉぉぉおおおおおっ!」
ロードバイクは急に止まれない。が、ゴブリンにはあっさりと止められてしまった!ガッ!
ゴブリンはタイヤを真剣白羽鳥のように両手で挟み込み、勢いを止めた!その衝撃で俺の体が車体からふわりと離れていく。ビンディングは履いていなかったので、そのまま体が浮いて飛ばされた!
俺は受け身をとって地面に着地した。
「あいたたたた・・・」
ふと見ると、ゴブリン達は俺の愛車に襲いかっていた。タイヤのスポークがすでに何本か折れ曲がっていた。
「くっそ!やめろ――――っ!!!」
叫びながら俺は、近くに落ちていた木刀に似た大きさの棒を手にすると、ゴブリン達に向かっていった。
「おれの愛車に、何してくれとんじゃ―――っ!」
棒を振りかぶって、面を打とうとする。しかし、そのひと振りはあっけなく交わされた。スカッ!
『くっそ、やっぱ剣道初段では躱されるか!しっかし剣道をなめんなよ!』
と心の中で、強がりながら、間合いを取る・・・1対5匹。圧倒的に不利だ。
でもここで引いたら、俺が死ぬ!
ゴブリン達と睨み合った・・・。
パスッ、パスパスパスパスッ!
「グエッ!」「ギャッ!」「アガッ!」「キィッ」「ブベッ」
「ん?!なんだ?」
目の前でゴブリン達の体が撃ち抜かれていく!この音・・・エアガンか???
「いよう!ライド!大丈夫か?」
「ま、まさか???」
やっぱり!木の陰から浅逹さんが、サバイバルゲームをやるようなフル装備で出てきた。マスクはつけていなかったけど。
「え?なんでここにいるんですか?」
「新作の試し打ちに来たんだぜっ!」
いつものサムズアップだ!なんか今日のは頼もしくてカッコイイ!
でもどうしてゴブリンを倒せる???エアガンだろ?
「BB弾に魔力を込めてるからな。鉄の針が飛んでいくようなもんだって。ははは。」
「へ~、そんなこともできるんですね。ともかく助かりました、ありがとうございます!」
「いいってことよ・・・にしても、大丈夫か?うわっ!フレーム曲がってないかそれ?」
ロードバイクを見ながら、浅逹さんが言う。俺も一瞬、『げ!』と思ったけれど、
「・・・・はぁ、やってしまった。」
逃げ回るだけで何もできなかった俺!愛車はボコボコのボロボロになっていた。溶接部分も何カ所か取れていて、もう乗ることはできない。自分で修理するには時間がかかるし、正直言ってオダブツだ。
タイヤは、わずかに楕円形になっていたが、なんとか転がして王都へ戻れそうだ。
折れているスポークをもぎ取って、バッグに入れる。
「はぁ~。」もうため息しかでない。俺は王都に帰る途中だが、浅逹さんはどうなんだろう?と思って、目線を送ると。
「俺も今から王都に戻るから、一緒に帰ろうぜ!」
と、先に浅逹さんに言われてしまった。まだBB弾は残っているというので、遠慮なく甘えることにした。
俺は浅逹さんと冒険者ギルドによって、そのあと自宅へと帰ってきた。
そこで改めて、ボロボロになった愛車を眺める・・・。
「あ~、このマシンには愛着があったのに。本当に悲しい・・・はぁ~。」
もう、何回目のため息だろうか・・・しばらくぼーっとしてたけど、さすがにお腹がすいたので何か食べることにした。
あ、そういえばスマホ預かってたんだっけ・・・。
連絡取りたい相手を思い浮かべると、つながるって言ってたな・・・ふと、マリナの顔を思い出した。
あの笑顔に癒されたら幸せだな~と思いつつ。
「は~い、マリナで~す!」
拍子抜けするような明るい声に、電話がつながってしまったことにあせる!
「あれ?あれっ?マリナ?さん?すみません!今日、ゲンさんにスマホをいただいて、まさか思い浮かべるだけで本当につながるとは・・・えっと、連絡するつもりじゃなかったんですけど・・・ごめんなさい!」
「あ?そうなの?でもライドの声がなんか暗い。何かあったんじゃない?」
「え?やっぱわかりますか?実は昼間に・・・」
俺はマリナに森でゴブリンに襲われ、愛車がボロボロになったことを話した。
「あら、それは大変だったね。私も経験あるけれど、思い入れのあるものが突然壊れると悲しよね?あ!でも召喚魔法陣に入れたら、もしかしたら治るんじゃないかしら?確かゲンがそういうこと言ってた気がするわ!」
「そうなんですか!じゃあ、やってみます!あ、すいません。突然連絡したのに、お話聞いてくれて、ちょっと元気になりました。ありがとうございました。」
「えぇ。気にしなくていいわ。友達からかかってくることなんて滅多にないから嬉しかったわ!」
って、マリナそれ『友達少ない宣言』じゃん?
「じゃあ、結果がどうなったか、また連絡してもいいですか?」
「えぇ、いいわよ。」
・・・電話をきった。かすかな希望が見えてきた。
本当に治るのだろうか?半信半疑で俺はすがるような思いで、ボロボロになったロードバイクをばらし、パーツをひとつずつ召喚魔法陣に入れていった・・・
召喚魔法陣は、今まで積み重ねてきた愛車との思い出に応えるかのように、温かい光をじわっと放ってくれて、俺はその光に少し慰められた感じがした。
今回もお読みいただきありがとうございました。
☆評価、ご意見、ご感想などございましたら、よろしくお願いします。
ではまた次回。