【第二話 冒険者登録と初仕事GETだぜ!】
電気のことは後で浅逹さんに聞いてみることにした。取り急ぎ召喚魔法陣から《 氷入りのステンレス製保冷ボトル 》をイメージして20本くらい出すと、蓋を開けて冷蔵庫に突っ込んだ!これで一日くらい持つだろう。
昼食も終わったころに浅逹さんがやって来た。マリナとゲンさんはいない。マリナがいなくてちょっとがっかりだが、笑顔で挨拶をする。
「また来ていただいて、ほんと助かります!ありがとうございます!」
「いいってことよ!ライドは同郷だからな。世話を焼きたくなるんだよ!さて、ライド。このロードバイクが異世界に認知されるには、少し時間がかかると思うんだよな。だから、店の経営が安定するまでは冒険者ギルドに登録して別の仕事して食いつないでいくってのがベストだと思うんだ。」
「冒険者ギルドがあるんですか?」
「そうだ、例に漏れず、この国にもあるんだぜっ!」とサムズアップする浅逹さん。
「じゃあ、早速行くかぁ!」と二人で冒険者ギルドに向かうことになった。俺の愛車ロードバイクと共に。
俺達は歩きながら、疑問に思っていることを訊いた。
「あの、浅逹さん?電気ってどうしてるんですか?」
「おお、電気か。それは魔法石で代用してるんだよ。電気って概念というか、言葉を知っていて意味が分かるのは転移者だけだがな。元々この異世界の住人は家電製品なんて持っていないからよ。」
「どうやって、魔法石のエネルギーを電気に変換するんでしょうね?」
「そいつは、俺にもわからねぇな。はははは!ゲンさんに聞いてみることだ。」
「では、明日、もしゲンさんの都合が良ければ『来ていただけませんか?』と伝言をお願いできませんか?」
「おぉ!いいぜ!お安い御用だ!」
「それで、浅逹さんは何か商売をされてるんですか?」
「あぁ、もちろんだ。俺はミリタリーショップを経営している。」
あぁ、どおりで迷彩柄のズボンと軍用ブーツを履いていると思った。上はもちろん黒のタンクトップ。俺たちの世界ではまさに軍人ファッションのイメージだ。なんとかブートキャンプの軍曹的なイメージだ。
「でも、ライドほどうまくイメージができないから、時折、失敗作が出てくることもあるぜ。外観が良くできていても中身が微妙に違っていたりするからな。必ず『試し撃ち』しないと売り物にならない時があるぜ。」
「そうなんですか。え?でも弾って?」
「もちろん、BB弾だよ。ははは!」
「ですよね~。で、失敗作はどうするんですか?」
「あぁ、魔法陣に返すんだよ。だからゴミの心配はしなくていいぜ。便利だろ?」
「えぇ、ほんと便利ですね。」
この世界の召喚魔法陣の技術というのは、俺の想像を超えてかなり進化しているようだ。
「ん?でもあの召喚魔法陣って何で魔力のない俺でも使えるんですかね?」
「ははは!ライド君!馬鹿を言っちゃいけない。この異世界にいる転移者は皆、元々魔力の素質があるんだよ?大なり小なりな。」
「え?そうなんですか?全然、感じないなぁ。」
「そりゃ、そうだ。魔法使いほどあるわけじゃない。微量だからな。それでもあの召喚魔法陣を起動させることができるんだから、大した技術力だろ?」
「えぇ、確かにすごいですね!」
街の通りは、常に人々が行き交っており、いったいどのくらいの人々が王都に住んでいるのだろうか?
「この街、結構人がいて賑わってますね。」
「あぁ、ここは『王都 ラクス』って言うんだ。この城壁の外にはでっかい湖があるんだぜ。そして東京に比べたら人口は全然少ないけどよ。100万人は住んでいるって話だ。」
「へぇ、思っていたより多くの人が住んでるんだぁ。すごいなあ。」
「だろ?この都市には生活に必要なものは何でもあるし、暮らしに不自由はないぜ!」
「えぇ、なんかこの異世界で生きていける希望が湧いてきました!」
「だろ!おっと、着いたぜ。ここが冒険者ギルドだ。」
目の前の建物には、盾の中に剣が2本交差したデザインの看板が1階と2階の間にかかっていた。第一印象は「ビルみたいだな?」と思ったが、全面石造りらしい。3階建てで、壁の表面がきれいに磨かれ、大理石のように見える。剣や魔法で壊れたり傷がつかないように魔法でコーティングされているらしい。出入り口は自動ドアだった。これも魔法石の力らしい。
俺は、映画の西部劇で見たような木製の観音扉が良かったな~と思ったが、ここは中央本部だから、最新の技術が使われるのだそうで、この王都には他に東西南北の支所があり、そちらは木製の建物で、本部ほど大きくもなく、俺好みの木製観音開き扉だそうだ。ということは、俺は都市の中央に近い場所に転移してきたのかな?
ギルド内に入ると、室内はだいたい俺の想定通りだった、1階には食堂と受付窓口があった。2階は会議室や応接室。3階にはスタッフルームやギルド長の執務室があるそうだ。
俺達は受付窓口の『新規登録受付窓口』へと向かう。受付のお姉さんは、やっぱり美人だった。
「こんにちは。きれいなエクレアさん、コイツの新規登録をお願いします。」
浅逹さんが言うと、受付の女性は微妙な笑顔で答えてくれた。
「はい、ではこちらに必要事項を記入してください。」
俺は必要事項を記入していった。名前、年齢、種族、特記事項。「特記事項って何ですか?」と尋ねると・・・ここに『転移者』と記入するそうだ。
全部記入して、受付の女性に渡す。エクレアさんは、眼鏡をかけていて、いかにもキャリアウーマンの印象だけど、まだ若く可愛らしい印象も持ち合わせている。
「登録証を発行しますから、少々お待ちください。」と言って、奥の部屋へと入っていった。
するとその部屋から光が漏れてきて、すぐにエクレアさんが出てきた。
「はい、どうぞ。三智雷人さん。これから私が専任担当者となりますので、わからないことは何でも聞いて下さい。よろしくい願いしますね。」
エクレアさんが笑顔で挨拶してくれた。「三智さんは、今日はお時間まだありますか?冒険者についての説明をさせていただきたいのですが?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「ライド!俺も、付き合うぜ!」
と浅逹さんが顔を赤らめながら焦ったように言うので、
『ん?もしかして浅逹さんってもしかしてエクレアさんのことが?』と思いつつ、
「えぇ、ぜひ同席してください。」とお願いした。
「では、三智さん。冒険者について説明いたしますね・・・・」
この世界の冒険者ランクはとてもわかり易いものだった。ラノベも読んでいたのである程度の異世界知識を持ち合わせていたが、だいたいその通りだった。
SランクからABCDと下がって、最下位がEランク。しかし、親のいない子供が働くためのランクFというものも存在するという。
その他の道徳的な行いをするとかのルールもおなじみの物だった。
「わかりました。エクレアさん、ありがとうございます。実は私は配達系の仕事がないかと思っているんですが、ありませんか?」
「そうですね。配達系だと、ギルドからの定期便や商人の方々にお願いすることが多いので、残念ですが、今はないと思います。」
「そうですか・・・。」
「三智さんは、何か移動手段をお持ち何ですか?」
「はい、たぶん荷馬車よりも速く荷物を届けることができると思うんです。但し、大量輸送はできませんし、大きすぎる荷物も今は収納を持っていないので、できませんが、手に抱えることができる荷物なら、どこよりも早く配達できますよ。」
「それは・・・すごいですね。ちょっと冒険者の皆さんに訊いてみますね。」
エクレアさんが食堂の方へ走っていくと、大声で呼びかけてくれた。美人で優しい。なるほど!浅逹さん!気持ちわかりますよ~!
「急ぎの荷物がある方はいらっしゃいませんか~~~~~?」
エクレアさんが3回ほど呼びかけてくれたが、シーンとしていたので、残念ながら誰もいなかったようだ。こちらに戻ってきたエクレアさんは申し訳なさそうに、
「すみません、今日はいらっしゃらないようですね。」
「そのようですね。じゃあ、採取系かお手伝い系の依頼があれば・・・・」
言いかけた時、ドアから一人の男が慌てた様子で入って来て、受付に走っていった。
「おい、この荷物を至急、隣村に届けたいんだが、今から出る便はないか?」
「え!お客様、申し訳ございません。どんなに急いでも今日はもう便がありませんので、直近で明日の朝一番になります。」
受付嬢が困っていた・・・。そのやり取りを聞いていたエクレアさんの表情が、明るくなった!すぐその男のところへ走っていき、受付嬢と話をした後、男と共にこちらへ戻ってきた。
「兄ちゃん、今から配達してくれるんだって?」
「はい、やりますよ!どちらまでですか?」
「王都の隣の村まで頼む。荷馬車で片道半日の距離だが、急いでるんだ!友人が病気でよう。やっと王都で薬草を見つけてきたところだ!一刻を争う、すぐに行けるか?荷物はこれだ!」
と、男はまくしたてるように説明してきた。荷物は片手で充分持てる大きさだった。
「はい、すぐに出発できますが、お届けする相手のお名前と、目的地までの簡単な地図を書いてもらえませんか?」
「お?おぉ、わかった。ちょっと待ってくれ。」
男が地図を書いている間に、エクレアさんに聞いた。
「この場合は?指名以来ですか?相場はどのくらいでしょうか?」など。
「ええっと、初めてのお仕事ですが、指名以来でいいですよ。但し、ギルドの取り分は全報酬の5%でお願いします。」
なんて、話をしていると男が書き終わったみたいなので、地図とメモを預かる。
「兄ちゃん!『ゼノン』って男に届けてくれ。村じゃ有名人だから、人に聞けばすぐわかるはずだ。」
地図を確認すると、南門を出てから、西に向かえば良いらしい。一本道だ!
この王都はほぼ正確な位置で東西南北に門がついていて、わかり易いのだ。
ロードバイクを持ってきていてよかった!準備は5分くらいで終わったので、
「じゃあ、行ってきます。」
「あ!三智さん、城門を出るときは『冒険者登録証』を見せればOKですからね!いってらっしゃい!」
「ライド!じゃあ、また明日だな。ゲンさんには伝えておくから。」
「エクレアさん、浅逹さん、わかりました。」
「兄ちゃん、頼んだぜ!」
「はい、たぶん夕方遅くには戻ってきますから、その頃にギルドで会いましょう!」
「え?そんなに速いのか?信じられねぇ。とにかく今日中に届けてくれればいいからよ。無理しなくていいぜ!」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、いってきます!」
俺は愛車とのツーリングにワクワクしながら、オフロードの凸凹感も楽しみながら目的地の村へと走っていった。
出発は14時くらいだったかな。そして、村に到着。ゼノンさんの家の場所は村人に聞いたらすぐに教えてくれた。奥さんに「モンデルさんからです。」と伝えて、薬草を渡し、ゼノンさんが薬を飲んで落ち着いたところを見届け、予定通り18時頃にはギルドに戻って来た。
本当に夕方過ぎに戻ってきたので、皆をびっくりさせた様子だった。
「兄ちゃん!もう戻ってきたのか!すごい速いな!ゼノンはどうだった?」
「はい、ちゃんとゼノンさんがお薬を飲むところを見届けました。今は落ち着いてお休みになっていますよ。」
「そうかぁ、良かった!いや~ほんと助かったぜ!これが報酬だ!」
依頼人の『モンデル』さんからは、ギルドに納める分とは別に銀貨1枚をいただいた。
銀貨1枚=1万円の報酬だ!やった!初仕事達成!嬉しい!
モンデルさんは満足そうにギルドを後にした。明日、隣村に向かうらしい。
その後、俺はエクレアさんに「仕事の広告を出してもいいですか?」と尋ねた。
「三智さん、ギルド長に確認取りますから、少々お待ちください。」と言って、エクレアさんは三階へと走っていった。
――― しばらくして、エクレアさんが降りてきた。笑顔なので許可は取れたようだ。
「三智さん、OKいただきました!こちらで広告は制作して掲示板に張り出しておきますね!」
「はい、ありがとうございます!よろしくお願いします。では、今日は失礼します。」
エクレアさんに一礼してギルドを出ると、俺は「あ、冷蔵庫、大丈夫かな?」と思い出したので、急いで帰宅した!
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