【 第十二話 王国武道大会⑤ 】
――― エトワール港
どこの世界でも港というものは似たような形になってしまうようだ。
物流のための倉庫が立ち並び、船が寄港していない限り、人の通りは少ない・・・はずだが、今日は、いかつい顔の男たちがたくさん歩いていた。
『ある意味、分かりやすいな~。』
ナターシャが倉庫の陰から手招きしている。
俺とJC白虎は、いかつい男たちに見つからないよう、そ~っとナターシャの元へと移動した。
「どうだい?」
「えぇ、あまりにもわかり易いので、笑ってしまいますわね。」
「うん、そうだよね。で?どうする?」
「う~ん、マリナ様の居場所がまだはっきりいたしませんので・・・えっと、こちらのJCは?白虎様ですか?」
「はい、そうですよ。ナターシャお姉様!体を分裂させたので、少しサイス゛が小さくなりましたの。」
「まぁ、『お姉様』だなんて!抱き着いてしまいたいですわ!」
ナターシャは、ギュッとJC白虎に抱き着き、ほおずりをしている。
「白虎ちゃん?もしかして、もう目星は付いているんじゃありませんか?」
「フフフ、さすがナターシャお姉様。もちろんですよっ!」
「白虎、そうなら早く言えよ~。」
「ごめんなさいご主人様~、てへっ。」
「ふざけろよ~!」
「ひっ!えっと、あの6番目の倉庫から『おパンティ』と同じ香りがしていますわ。」
「6番目・・・って、一番遠いところだな。あ~なるほど。大きめの船も見えるなぁ。」
「しかし、ご主人様。護衛の数が少し多いようですね。」
「何だって? どのくらいだ?」
「1000人くらいかと。ちなみに今、私の出せるパワーが半分ほどになっておりますので、ご注意を。」
「え?そうなのか?」
「はい、体を半分に割っていますから。でも、ザコピンどもに負ける気はしませんわ!」
「そうか、なら安心した。試合時間までに戻らないといけないし・・・すぐにやるか?」
「そ、そんなご主人様、『すぐヤル』だなんて~ポッ。」
「こら、思春期は黙ってろ!」
「白虎ちゃんがその気なら、私は応援しますが?」
「やめて、ナターシャ。」
「なーんてね、ご主人様? 時間も差し迫っていますから、真面目にイキますわ!」
「最初からそうしてよ。じゃあ、白虎。変形するぞ?」
「はい。ご主人様、早く私の上に乗ってください!」
「・・・なんだかな~。」
俺は白虎本体にまたがり、ペダリングを回し始めた・・・大人より背の低い少年剣士っぽい白虎に変形した。JC剣士だね!
「おいっ!誰だお前らっ!」
「ピィ~ッ、みんなー敵襲だぁっ!」
う~ん、変形した時の光の発光で、敵方に見つかってしまったらしい。指笛で仲間も呼ばれたし・・・
まぁ、でもその方が都合がいい!
色んな倉庫からワラワラと出てきた連中の中には、見覚えのある顔もある。
今回の大会で予選落ちした選手が『金』で雇われたみたいだ。
ナターシャは、手裏剣を投げて一人ずつ確実に仕留めていた。
『おぉっ?! あれ手裏剣だ! ナターシャは『忍者』かぁ、この世界に忍者が転移していたんだね。』
俺も負けじと剣を振るう! バッサバッサと剣を振り倒していく。
でも今の剣士白虎でふっ飛ばせるのは、せいぜい5人くらいかな?
ちょっとこのままでは時間がかかりそうだ・・・試合に間に合うか?
すると、援軍の声が聞こえてきた!
パスッパスッパスッ
「あ、浅逹さん!ゲンさん!」剣士白虎の剣を振って挨拶する。
「ライド~!加勢に来たぞ~!」
「ライド殿、お待たせいたしました!マーニャリフルボンバー!」
ドッゴ~~~~~~ン!!!
ギィヤ~~~~~~~~ッ!!!
すごい!50人くらい吹っ飛んでいる。
ゲンさんが魔法使うとこ初めて見たけど、やっぱ宮廷魔術師だけはある!
「うおりゃっ!」
ドッコーーーーーーン!
今度は誰だ?と思ったら・・・騎士団長だった。
・・・良かった生きてた。
「三智ライド~~~~っ!今度は負けんぞ~っ!」
この人ちょっと声がデカイ!
よく見るとその他にも騎士団の方たちが加勢に来てくれていた!よし、これなら戻れる!時間内に!
ナターシャが寄ってきた。
「ライド殿、貴殿は先に第6倉庫へ行った方が良いでしょう?」
「あぁ、そうするよ!サンキュー!」
「さんきゅー?」
「俺の国で『ありがとう』っていう意味だ!親しい奴にしか言わない!」
「おぉっ!それは嬉しいです!では、また後程!」
相変わらず素早い・・・・。さて、目の前のザコを吹き飛ばして突っ切るか?
「白虎?どうだ?目の前の奴ら、吹き飛ばせる?」
「えぇ、ご主人様の愛をペダリングで示してください!」
「わかったよ。うおぉぉぉぉぉ!」
「あ、アァッ!ご主人様・・・き、きました~っ!」
「よしっ!一閃、いっけぇーーーーー!」
「はい!イキますっ!」
ブォンッ!ドッカーーーーーン!!!!
目の前の30人くらい吹っ飛んで道が開いたので、その間を一気に駆け抜ける!
走りながら、何人かを払いのけつつ、ほとんどの連中が最初にいた第1倉庫の方に集まり、第6倉庫までの道はがら空きだった。
俺たちは第6倉庫にすんなり着いた。
「ご主人様。ここですわ。」
「あぁ。・・・白虎、中の様子は検索できないか?」
「はい、少々お待ちを!う~ん・・・・『おパンティ』の香りがします!中にもう1人いますね。
もう一人が・・・ちょとモヤっとしてますね。結界かなぁ・・・。」
「てことは?相手は魔法使いか?」
「いえ、剣も持ってる感じですね。」
「う~ん、よくわからんな。でも考えてもしょうがないし、突っ込むぞ!」
「いやん、ご主人様!突っ込むだなんて~。」
「・・・ちがうって!」
「わかってますよ~。場を和ませようとしただけですわ。」
「じゃあ、いくぞっ!」
「はいな!」
ドカンッ!
俺たちは第6倉庫のドア正面を、蹴破って入る。
マリナが椅子に縛られていた・・・が、そこまでひどい扱いは受けていないようだ。
ただ、大声を出せないように魔法がかけられているようで、口がパクパクしている。
問題はもう一人、マリナのそばに立つ男・・・耳が長く、そして肌が黒い・・ダークエルフ?かな?
「ほほぉ。堂々と正面から来たか?面白い奴め。」
「・・・マリナをどうするつもりだ?」
「ははは、もちろん、王子様の嫁にするつもりですぞ?」
「王子様?」
「ええ、マッスル王国第一王子。ゴリアーデ様ですよ。」
『へぇ、そんなスラスラ正体を明かしちゃうんだ~。
マッスル王国っていうから、やっぱり筋肉脳で細かいことは気にしないのか?』
「今回の武道大会に王子様も参加されているのです。
普通なら、マッスル王国の人間にかなう選手は中々いないでしょう。
しかし昨日、あなたの試合を見た私は、王子様は勝てないかもしれないと思いました・・・王子さまは以前、国際舞踏会でマリナ王女様をお見かけして以来、一目ぼれしていたのです。
『将来はあんな妃が欲しい』と。
ですから、私めは王子様への忠誠を示す為、マリナ王女様にご足労いただいたのですよ・・・フフフ、もちろん彼女を傷つける気はありませんがねぇ。」
「俺はマッスル王国のことは良く知らないが、そちらの勝手な都合でマリナをさらうのは許せない。
返してもらおう!」
「・・・ほほう、我らに臆せぬとはな。やはり面白い奴だ。私はヒョウ、貴様は?」
「ライドだ!」
「では、ライドとやら、手合わせ願おうか?王女様は安全な場所へ移動していただきましょう。」
ヒョウが呪文を唱えると、マリナの周りが鳥かごのように囲まれ、空中に浮かんだ。
天井近くまで浮かんだところで、隅の方へ移動し、地上を見下ろす形となった。
それを見届けると、ヒョウは剣をスラリと抜いた。
「そちらの準備は、よろしいですかな?」
「あぁ、いつでもいいぜ?」
『ご主人様、ヒョウは魔法剣士ですね。うちらと同じような攻撃が得意そうですね。』
『そうか白虎、了解した!』
倉庫の雰囲気が変わる・・・攻めと守りのギリギリの間合いを探り合う・・・。
『このままじゃあ、攻められない。白虎、ファイヤーボールを20発ぐらい出してくれ!』
『アイアイサ~!』
白虎の体が明滅すると体全体からファイヤーボールが発射された!
―― 20発のファイヤーボールが様々な軌道を描き、ヒョウを攻撃する!
「なっ!?」
ヒョウが次々と避けるが、最後の一発がまだ残っている!
しかし、ヒョウはスパッと剣で切り裂いた。
『おぉ!やっぱり、魔法剣士だからなぁ。それぐらいは余裕だよね。』
「ご主人様?!後ろっ!」
「おっと!」
ザッ!
とっさにヒョウの剣筋を躱す!
のんきに感心している場合じゃなかった。敵さんも速いね。だが、このJC白虎も速いんだよね。
お返しにヒョウの倍の速さで移動し、斬りつける。ヒュンヒュッ。
ヒョウも避けた!すぐにお返しの剣戟が来た!ピュッ!
『まだまだ本気じゃないってか?』
カンッ!キンッ!ヒュッ!ガッ!キンッ!
しばらく、ヒョウと剣を交わす。一進一退・・・。
『ヒョウの足を止めないと埒が明かないな・・・。どうするか・・・?』
天井の隅にマリナの姿が見える・・・。心配そうにこちらを見ているかと思ったけど、違った。
目が物語っていた、『ライド!絶対やっつけて!』っていているようだ。
「白虎?あいつのスピード止められないか?」
「ご主人様、それは無理ですわ!」
「そうなのか・・・。」
「でも・・・こちらがもっと早くなることはできますわ!」
「なんっだって~!?!?!?」
ヒュン、キン、キン、ヒュン、カン、キン・・・・
その間にも剣の攻防は続く。
「アイスバー。」
ヒョウが呪文を唱えると、氷の柱が迫ってくる!デカイ!
目の前すぎて避けきれなかった!
ゴンッ・・・ズゥオッ!ドゴンッ!
「きゃあっ!」
「うわっ!」
俺たちは、氷柱ごと壁に吹き飛ばされた!
「いてて・・・こんな至近距離で?大丈夫か白虎?」
「えぇ、これくらい問題ありませんわ!」
「へへ、そうこなくちゃな。来るぞ!」
俺たちは立ち上がり体勢を整えた。
『今度はこっちから攻めていくぜ!』
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