【第十一話 王国武道大会④ 】
食事も終わって、店を出た俺たちは、外の様子が少し変だなと感じた。
というのも、やたらと騎士団の連中がうろうろしている。明らかに普段の警備にしては多い人数だった。
すると向こうから、ゲンさんが走ってきた。
「おぉっ!ライド殿、丁度良いところに・・・ぜぇ、はぁ・・・。」
「大丈夫ですか?何かあったんですか?」
ゲンさんは水魔法で指先に出した水を飲み干すと、一息ついて話してくれた。
「いいですか、ライド殿。落ち着いて聞いて下さい。」
「えぇ・・・?」
「実は、マリナ様が誘拐されました。」
「・・・えっ?!」
思わず大声が出てしまった・・・。
ゲンさんが慌てて、「静かに!静かに!」と小声とジェスチャーで俺をなだめる。
そのまま声を潜めて話を続ける。
「ゲンさん?どういうことです?」
「実は、ライド殿の試合が終わってから、マリナ様は席を外されたのですが、その途中で行方がわからなくなりました。現場には護衛の者が気絶させられ、置手紙がありました。そこにマリナ様を「誘拐した」という内容が書かれていたんです!」
「う~ん。手掛かりがなさすぎですね。犯人は何が目的なんでしょうね?」
「おそらくですが・・・マリナ様との『婚姻を望む者』の犯行でしょう。」
「それなら・・・容疑者が多すぎますね。」
「いえ、ライド殿。それなりに腕が立つ者でなければ護衛をあっさりと倒すことはできません。それも気配を消していたようですし、特別な能力を持った者の仕業と推察できます。」
「・・・そうですか・・・。」
「婚姻目的であれば、最悪の事態は無いと思います。」
「・・・それならまだ、希望がありますね。」
と言いながらも、俺は内心怒りに震えていた。マリナに怖い思いをさせた輩を必ず捕まえて、罪を償わせてやる!俺は、自分で言うのもなんだが、善人だと思う。しかし、道理に反することをやる者には、冷徹に対処する。今回の犯人を必ず追いつめて、地獄を見せてやる!
「白虎?魔法で分かるか?」
「う~ん、そうですねぇ。マリナ様の持ち物があれば分かるのですが・・・。」
「持ち物ですか・・・? ん?あ!おーい!ナターシャ!」
ゲンさんが呼びかけた女性、ナターシャ?・・・ん?朝、客席の取り巻きにいた人だ。
「お呼びですか、ゲンデルワーフ様?」
ナターシャは俺を一瞥してから、ゲンさんに答えた。
「マリナ様の身に着けていたものを何か持っていないか?いつも持ち歩いているだろう?お守り替わりとか言って。」
「えぇ、ございますよ。私にとっては『ご神体』ですから。」
「それをこの白虎嬢に渡してくれないか?」
「え?いやです。なぜこの下賤のメイドに大切なものを渡さなければならないのですか?」
「意義あり!」
「なんですの?」
「ご神体と言いましたよね・・・もし私も持っているとしたら?どうです?」
「なっ?!まさかっ!」
ごそごそと白虎が胸の谷間から取り出したものは・・・・お?おいっ!俺のトランクスやんけっ!!!!!
「なっ!それは?」
「これは・・・ご主人様の今朝脱ぎたてのトランクスですわっ!」
「くぅぅぅ。」俺は恥ずかしさで、顔が真っ赤になった・・・。
「フ、フフフ・・・そうですか。自分がお仕えする主様の着衣を己の身に着けて『守護神』とする。そうですか・・・ここに、志を同じくする者がいるとはっ!よろしいですわ。白虎殿、あなたにならこの貴重な『ご神体』を預けるに足る人物と見ましたわっ!」
バッとナターシャが『ご神体』の入っているきれいな布袋を出す。
「同志、ナターシャ様。して、そのご神体とは?・・・まさか!」
「そう!マリナ様の今朝脱ぎたて『おパンティ』ですわ。」
「「おおおおおおっ!」」
ハモッてしまった・・・。これで俺も立派な変態だ!バンザ~イ!
「では、ナターシャ様。お預かりいたしますわ。すぐに済みますわ。クンカクンカ。」
白虎がちょっと、うらやましい。いやいや、そうじゃなくて!
「クンカ・ク?・クンカ・・クンカっ!ぷふぁっ、ご主人様の香りも男らしくて良いのですが、マリナ様の香りも上品で気品があって、まだ知らない素敵な香りがしますわ!」
「白虎殿!わかってらっしゃる!」
「ナターシャ様。お返しいたしますわ。」
「白虎、何かわかったか?・・・ん?」
白虎を見やると、今度は俺のトランクスをクンカクンカしていて、表情が恍惚としていた。
「おまっ!何やってんだよ!」思わずトランクスを奪い取る。
「はっ!ついついご主人様の香りとマリナ様の香りのマリアージュを試していて、気持ちよく・・じゃあなくて検索能力が活性化されましたわ!」
「では、白虎殿?マリナ様の居場所がわかりますかな?」
「もう少しお待ちください・・・・・。」
白虎が目を閉じ呪文をつぶやくと、体が淡白く輝きだした。数秒で彼女はそっと目を開けた。
「わかりましたわ。どうやら港にいるようです。港から、この『おパンティ』と同じ香りが強くします!」
白虎、その言い方やめろよ・・・なんか赤面してしまう。
「どんだけ嗅覚があるんだよ?」
「身体強化で嗅覚を極限に高めただけですわ。」
「なるほど。」
それにしても、この王都に港があるというのは初めて知ったな。
「ゲンさん、この王都に港があるんですか?」
「えぇ、ライド殿。巨大な湖の『ラクス湖』がありますから・・・そこから船で国外へ抜けることが可能です。」
「そうなんですね・・・ってことは犯人は国外の者?」
「さて、それはまだわかりませんが・・・可能性は高いですね。」
「同志白虎様。ありがとう。では私は先に港へ向かいます。」
「白虎!俺たちも向かおう!」
「はい、ご主人様!」
「ライド殿!私は応援を呼んでから向かいます!」
「わかりました!ゲンさん!できたら浅逹さんも呼んできてください。スナイパーやってもらいましょう!」
ゲンさんは「わかりました!」と言って、王城の方へ走り去っていった。
さて、俺たちも港へ向かおうと思うけど・・・試合の時間、大丈夫かな?
「白虎?お前、体半分会場に残すことできないか?」
「う~ん、できなくもないですが、この魅惑のボディを維持できなくなりますわ?」
「その魅惑のボディはいらん!」
「えぇっ!そんな~ご主人様とキャッキャッウフフできなくなるじゃないですか~!」
「どうせ、あれだろ?幼児体系に戻るとかだろ?」
「う!・・・ご主人様、するどい。」
「じゃあ、そんなに問題ないな。」
「わかりました。では・・・ドロン。」
白虎の体が二つに割れて、ロードバイク本体がもぞっと出てきた。収納ができなくなるのか?
二つに割れた体は変形を続け、俺の予想に反して幼児ではなく、もう少し大きな女性の形にまとまりつつあった・・・。
ほどなくして、白虎は中学生っぽい双子姉妹に分かれていた。JC妹系になっている。なんかハズい。
「「こ、これでいいかしら?」」
「え?あぁ。じゃあ、どっちがついてくるんだ?」
「「わたし!」」
「同時にしゃべるなよ・・・・収集つかないだろ? じゃあ、今回は俺が決める。会場に残る白虎は任務をしっかり果たしたら、特別なご褒美をやろう!いいな?」
「「はい、ご主人様!」」
「じゃあ、今回は右の白虎が付いて来い!」
「はいです!ルンル~ン!」
「ふふん、仕方ないですわ。ではご主人様、今夜は特別なご褒美・ヨ・ロ・シ・ク。」
「誰も今夜とは言ってないし・・・まぁいい。よし、行くぞ!」
左側のJC白虎は会場へと向かい、残った右側JC白虎と俺は、ロードバイクで港へと向かった!
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