【 第十話 王国武道大会③ 】
――― 翌日 決勝トーナメント戦 当日
朝、早めに会場に来た俺たちは、選手受付を済ませると客席へ続く階段を上がり、会場を見渡した。
反対側の正面には、王族が観覧する来賓席が見えている・・・。
ふと俺はマリナのことを想った・・・。
今日、俺が優勝しなければ、マリナは他の男のものになる。俺の気持ちを伝えていないのに、それは絶対に嫌だ! だからこそ俺は絶対に勝つ!必ず優勝する!
でも、もしかしたら俺の一人よがりかもしれない。あの日から彼女とは会っていないから。
彼女が俺のことをどう思っているかなんて・・・いや、それって今、関係あるか?
大会が終わってから、気持ちを伝えてダメだったら、ダメでいいじゃないか?
彼女が俺のことを嫌いでも、俺の気持ちを真っ直ぐに伝えてダメならば、あきらめもつくものだ。
でもやっぱり怖い・・・それが今の本音だ。
「ご主人様?・・・私は愛人でも構いませんわよ?」
「何言ってんだ?白虎?」
「いえ、何でもありませんわ。プイッ。」
・・・俺の気持ち読んだのか?コイツ・・・と疑いながらも、まぁいいかと思い直した。
その気持ちは『愛着』というものだろう。人間の『愛情』というより、『友情』に近い感情だと思う・・・いや、思いたい。慕われるのは悪い気分ではないし。
そうしていると、俺たちのいる隣の観客席入口から、数人の足音が聞こえ、人影が現れた。
『あれ?まだ観客を入れる時間じゃないよな?』
その先頭の人物に一瞬、驚いた・・・仮面をつけていたからだ。
周りには取り巻きがいて、いかにも『王女様』って感じだった・・・。
「あっライド・・・。」
「マリナ・・・。」
「・・・・・。」
「王女様? お急ぎを!」 取り巻きの一人が言う。
マリナは、その取り巻きを手で軽く制して、俺の方を向いた。
「ごめん、ライド・・・今忙しいから、すぐ行かないと。でも・・・えっと、その、絶対勝ってね?じゃあ。」
マリナは恥ずかしそうにしながら、そう言ってくれた。
そして次の瞬間には、取り巻き達と共に王族用の来賓席の方へと歩いて行った。
取り巻き達もマリナの後に続く・・・が、何人かの取り巻きは、俺を蔑むように見ていった。
そりゃそうか、身分が違い過ぎるもんな。
でも、なんだ?彼女は今、なんて言った???
マリナは仮面をつけていたので、どんな表情だったのかはわからないけど・・・確かに応援の言葉をくれた。
ということは、俺は嫌われてはいないようだ。安心した・・・これで全力で戦える!
決勝トーナメントが開始される前に、選手が一人ずつ紹介された。
国外からの参加選手も含め、全部で8人。
皆、ものすごく強そうだった・・・今回は『トーナメント』なので、総当たりで戦うわけではないから、少し安心した。
俺の一回戦の相手は、野盗っぽい服装のデブっちょくん。見かけによらず26歳らしい、毛深い人だ。いわゆる『とっちゃん坊や』という感じがした。武器はハルバート。背は俺より低いのに、武器は長いというアンバランス。正規の訓練は受けていないようだ。人のこと言えないが自己流武術に違いないだろう。
「では、試合開始!」
審判の合図で、デブッチョは突っ込んできた。思ったよりスピードがある。
剣士白虎の俺は、その攻撃をひらりと躱す。
「!?」躱したと思った方向を見た! けれど、もう姿は見えなかった。サルかよ!
「ご主人様、上から来ますっ!」
剣士白虎は剣で上からくるハルバートの突きを受け流す!
体制を崩すデブッチョくん。そこに肘鉄をくらわす!
「ゲフッ!」
ズザーッと地面を滑るデブッチョ君。顔と体に擦り傷が走っている。
ごめん、痛かった?
しかし「こんのやろう!」っとすぐさま立ち上がり、また突っ込んでくる!
その戦法しかないのかよ?今度も突っ込んでくるので、躱しながら、ジャンプした!
目の前に、デブッチョ君がいる。勝ち誇ったように地上を見ている表情が、一瞬で驚きに変わっていった。
面白い顔してるんだね?その顔を殴るのには躊躇しない。写メ取って投稿したいくらいだ。
ちょっとだけ手加減して思いっきりデブッチョ君の顔面を殴る!
ビューーーーっと地面に向かって落ちて行くデブッチョ君、ドガッと顔面で地面を掘ると、気絶してしまった・・・まだ生きてるよね? 動かないし・・・。
その時、「勝者!三智雷人選手!」と審判がいった!
一回戦はこんなものかな?でもデブッチョ君って弱かったな~。
第二回戦は騎士鎧を着ている対戦相手だった。
「俺は騎士団長をしてい、ヘルムートだ。貴様か?オークの集団に助けてもらったようだな。一応、礼を言っておこう。だが、本当に貴様がやったのか、俺は疑っている。騎士団は生ぬるい訓練はしとらんからな。その実力を見せていただこう。」
「そうですか。では気を引き締めて、戦います!」
「試合、始めっ!!!」
今回の相手は、騎士団長。実力は王国一と言ってもいいだろう。なんでこの大会に出場しているのかはわからないけど、この人を倒さなければならない。
「ライドとか言ったな、俺は王女様に惚れている。だから、お前には渡さん。悪く思うなよ?」
・・・マリナの気持ちは知らんぷりだろうなー。
この見た目たぶん30代後半のおじさんにマリナは絶対渡したくない。
でも侮っては勝てないだろう。ここは力と力のぶつかり合いになる。一発勝負。
「騎士団長、ここは一発勝負になりそうですね?」
騎士団長が驚いたように目を見張る!なめやがってと言う感じだろうか。しかし俺はこれを狙っていた。
「わしと一発勝負をするというのか?侮るなよ、小僧がっ!!!」
騎士団長の体からオーラのような闘気が湧いていた。
俺は今回は侍白虎に変形する。居合切りで勝負だ。
「ぬうううううううううううんんん!」
騎士団長が闘気を貯めている。俺も負けじとペダリングを回す!
「おおおおおおお!!!」
二人のパワーが会場を振動させる。そろそろくる!
「小僧行くぞ!しっかり受け止めろよ!ヘルムート圧殺斬!フンッ!」
ズブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!
「抜くぞ、白虎!?」
「はい!ご主人様!今、抜いて下さいっ!」
「せいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
お互いの剣先から膨大なエネルギーが飛び、ぶつかり合う!
グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!
「ご主人様!もっと激しくしてくださいっ!」
「わかった!白虎!激しく振るぞ!」
俺はダンシングしながら、ペダルを激しく回す!
「あぁぁっぁぁっ!くるっ!ご主人様のエナジーがっ!私の中にっ!注がれてくるっ!」
「セイヤーーーーーーッ!いっけぇーーーーーっ!」
「白虎・・・いきますう~っ!」
ドンッ!
白虎の剣先からより大きなエネルギーが発射され、先に出たエネルギーを押していく!!!
「ぬ?ぬぉぉぉぉぉ!」
焦りの表情をする騎士団長・・・しかし、均衡は破られ、俺たちの放ったエネルギーは騎士団長をぶっ飛ばす!
ドゴォォォォォォォォォン!
壁まで吹き飛ばされた騎士団長は、半分埋まっていた・・・が、時間差でどさりと地面に倒れた。
シーン・・・。
「勝者、三智雷人!」
「ふぅ、なんとか二回戦突破できたな。次で決勝戦。この後は、休憩できるんだっけ?」
「はい、そうですよ?ご主人様がお待ちかねの休憩時間でございますよ~!私、勝負下着つけてますっ!」
「白虎・・・なにかが違うぞ?」
そんなこんなで俺たちはレストランへと向かった。
食事も終わって、店を出た俺たちは、周りの様子が少し変だなと感じた。
というのも、やたらと騎士団の連中がうろうろしている。明らかに普段の警備にしては多い人数だった。
読んでいただき、ありがとうございました。
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