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第6話 魔物との対峙1

 ……どうやら庭に出たようだ。秋人が最初にこちらに来たときに歩いた庭園か。しかし今の秋人には周りを見る余裕はなさそうである。

石畳の通路が先まで続いている。その先、まだ遠いが馬に乗った軍隊のような集団が見えた。少しの間、皆、無言が続いた。



「揃ってるな。……レイラ様たちは隊の後ろに副隊長がいるので、そちらにお願いします。すぐに出発します」


レイラは頷き、アスカは隊の先頭の方に向かった。秋人はまだ何か考えているのか真顔で、なすがままである。レイラはミントと、秋人は先ほどの少年のうち一人の馬に乗った。

遠くからアスカの声がする。


「第12部隊、出ます!」


隊が少しずつ動き出す。しばらく歩くと大きな門があり、門はすでに開いていた。そこを抜けると景色が変わり、少し行ったら城下町に入るようだ。

隊員の一人が、アスカに声をかける。


「隊長、道はわかるの?」


「……わからなくもないが、不安だ」


「うん、そうだよね。僕が案内するから。とりあえず城下町に入るより迂回して行ったほうが早いかも」


馬は徐々にスピードを上げていく。秋人は少し遠くに見える城下町をぼんやり見ていた。


 これから俺はどうなるのか。これが俺がここに呼ばれた理由だけど、なんかそれでいいのか、自分はどうしたいのかよくわからなくなってきた。……だけど、一つ言えるのはみんな命がけなんだよなということ。


秋人はぼんやりしていた頭を切り替えたようだ。


 とりあえず、今の現状を見る。それしか俺にはできないし。


迂回路は民家がまばらに建ち並ぶ。大勢の馬の足音に、お辞儀をする人、手を胸の前に組んで祈る人、民家にいる人は心配そうに覗いていたりと、それぞれの方法で隊を見守っているようだ。秋人はそんな人々の様子を見ていた。

しばらくすると景色が変わり、隊は森に入って行く。太陽はすでに真上にある。


「隊長!この森を抜ければその村があるよ」


「ああ、この森か。……皆、気を引き締めて行くぞ!」


後ろの隊には声がなかなか届かないが、緊張感は伝わったよう。 


 みんなの雰囲気が変わった。ピリピリしてる……。俺は魔物と初対峙。ゲームの世界じゃないんだ。セーブもロードもない。



 森を抜けると、荒れた後のような村が見えた。人の姿は……見えない。かすかに臭いがする。血の臭いか。先頭にいるアスカが馬のスピードを緩める。


「止まれ!!」


アスカの声に、隊が停止する。


「私とシルヴァンはここで待機。他のみんなは人がいないか探せ。……自分じゃ手に負えなかったら逃げてこい」


「「「了解!」」」


隊員が散らばって行く。


「ねーねー、僕はどっちに行ったらいいの?」


アスカに道案内をした隊員が話しかける、この場にふさわしくない声だ。明るいブラウン系のロングストレートの髪を、ひとつに結んで横に流している女の子?女性?一人称は僕のためボクっ娘?可愛らしい雰囲気だが、何か違和感がある。


「リアムは念のためここにいて」


「はーい」


アスカは何か考えているか村を見たまま動かない。皆はアスカの次の行動を待っているようだ。


「逃げ延びたのか、それとも食べられたのか……?」


呟くように言う。するとミントと馬に乗ったレイラが近づいてきて


「うまく逃げてくれたらいいのですけど……」


「私たちも探してみるか。レイラ様をあまり危険な目に合わせたくないけど、仕方ない。あの、塔のような建物に行ってみよう」


アスカは体をその塔に向ける。そこにいる皆が頷く。アスカ、シルヴァン、レイラ、ミント、リアム、少年二人、秋人がぞろぞろと歩き出す。馬は次第にスピードを上げる。



 もうすぐ塔につくと行ったところで何かの気配を感じ取ったのか、アスカが止まる。


「……止まれ!……来るぞ!」


物陰から大型の獣のような魔物が現れた。グルルと低い声を出しこちらを威嚇している。今にも飛びかかってきそうだ。口の周りや体に血のような赤黒いものが付いている。アスカは魔物を凝視し、魔物も動かない。どちらが動き出すか。

魔物が動いた。――速い!そのとき、バンッと破裂したような爆発音がし、魔物の右目から黒い血液が出ているのが見えた。アスカが腰のホルスターから銃を出して撃ったようだ。魔物は唸るような声を出し、隙ができた。


「私が行く!皆は援護を頼む!」


アスカは馬から飛び降り、背負っていた剣を手に持ち、剣を抜く。魔物は撃たれたことで怒ったのか血走った目でこちらを見ている。リアムと少年のうち一人も馬から降り、戦闘体制に入る。シルヴァンは残ったレイラ、ミント、少年と秋人に


「少し離れましょう」


秋人は魔物からしばらく目が離せないでいた。人間と比べてもかなり大きな獣型の魔物。これがレイラから話に聞いていた魔物――人間を殺し食べる、人間が魔物に食べられた場合、もしくは噛まれて死んだ場合、秋人の世界では存在が消えてしまう――。それと戦っているアスカとその隊員たち。両者の殺気が交差する。これがこの世界の現実だ。


 

 これが現実なんだ。



 ……あの魔物は人をどれだけ殺したんだろう?


キィンッと剣と魔物の爪が重なったような音がする。魔物はアスカを目がけて突進する。大型の魔物にしては脅威的な速さ、そして、――魔物は地面を蹴り、飛びかかる。


「――!!」


アスカは身を翻し、魔物の牙から間一髪で逃れる。体勢を立て直すと、キッと睨みつける。


「さっきのお返しかな、当たらなかったけどね」


――先ほどとは打って変わりキリッとした表情のリアムが、右手で素早く文字のようなものを書くと、宙に魔法陣が現れる。それを見逃さなかった魔物が次はリアムを狙う。


「……うわっ、バレたか」


リアムもなんとか魔物の攻撃から身を守る。


「ね、隊長!一瞬だけ隙を作れない?」


リアムがアスカにお願いといった声で言う。


「え、無理。今は避けるので精一杯なんだけど」


「え〜、隊長〜!」


薄い赤毛の髪の少年はそんな二人を横目に、魔物からの攻撃を流し、一撃を与える。魔物は一瞬怯んだが、攻撃の手を緩めなかった。



 秋人は人が、その爪で牙で引き裂かれ殺される姿を想像し、身震いした。すると秋人の前に座っている褐色の肌、金髪の少年が振り向き、声をかける。


「……大丈夫ですか?」


秋人はすぐに答えられなかったが……秋人は答えた。


「……今のところ」


 まだ大丈夫。というか、これで音を上げていちゃ意味がない。殺されるところを見たらヤバいかもだけど。


「そうですか。……では」


少年は秋人に優しい声で言う。それからシルヴァンに向けて


「副隊長、俺も行きます」


シルヴァンが頷く。馬から降り、魔物に向かって行った。秋人は一人、馬に残され少し戸惑っている。ミントが


「私も援護に行った方がいいか?」


とシルヴァンに尋ねる。そんな二人を心配そうに見つめるレイラ。秋人は状況がわかってないような不安そうな顔をしている。


「いや、たぶん大丈夫だと思うが、お前まで行ったら俺一人で二人を守らなきゃいけなくなる」


「それは大変なことだね」


ミントが不敵に笑う。レイラは


「大丈夫。アスカならきっと勝てる」


秋人は恐る恐る思っていたことを口に出した。


「……苦戦してるんですか?」


皆の目が秋人に集まる。言ってはいけなかったか。シルヴァンが不本意そうに答える。


「動きが速すぎるんです、あの魔物。しかも魔法を使おうにもこちらの動きを読まれているよう。一瞬だけでも隙ができればいいですけど。持久戦になったらまずいですね」


ミントが


「さっきみたいに銃で撃てればいいですけど……」


秋人はそれを聞いて何か考えているよう。


 銃か!本物の銃は撃ったことないけど、撃てないかな。ゲームやエアガン、モデルガンと違うだろうけど。それと、一歩間違えば人に当たる……。でも!


「あの、もし銃があったら俺に撃たせてください!」

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