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遅れて登場、即刻退場、力の勇者は生きられない

「頼もぉぉぉぉう!」

 ついに、ついに辿り着いたぞ魔王城! なんと禍々しい様相の城だ! これは魔王も恐ろしい見た目をしているに違いない!

 俺は勇者だ。俺と同時期に旅に出たもう一人の勇者は『魔法の勇者』と呼ばれているが、俺は『力の勇者』と呼ばれている。その名の通り、俺はこの手ですべてを粉砕してきた! 魔族なんぞ敵ではない! そして魔王もな!

 宣戦布告として城門をパンチで打ち破ってやった。ふはは、見たことか! しかし妙だな? 誰もいない……そうか、俺に恐れをなしたのだな! ふはは!

「魔王! 隠れてないで出てこい! この俺が征伐してくれる!」

「うるっせえな人んちで喚くんじゃねえよ」

「む?」

 突然、目の前に黒髪の男が現れた。猫の半袖に作業着っぽい水色のズボンを履いている。なんともまあヘンテコな格好だ。鎧をバッチリ着こなす俺を見習ったほうがいいな。

「おまえさん、勇者か?」

 男は尋ねてきた。だから俺は胸を張ってこう答えてやる。

「いかにも! 俺こそが最強! 『力の勇者』だッ!!」

 決まった……これは母国の姫様も惚れてしまうに違いない。

「暑苦しい野郎だな。悪いが魔王ならついさっき倒されちまったぞ」

「何ィ!?」

 俺は男に掴みかかった。

「だ、誰が魔王を!?」

「女の子の勇者だよ。あ、名前聞いてねえや。まあいっか。いつも聞いてないし」

「『魔法の勇者』か! おのれぇ……俺の手柄を横取りしおって!」

「いやぁおまえさんじゃ魔王にゃ勝てんぜ?」

「なんだと!?」

「つーかそろそろ離せや。服が伸びちゃうだろ」

 そんなことはどうでもいい。こいつは俺を侮辱した。勇者であるこの俺を! これは神に背くのにも等しい罪だ!

「貴様さては魔王の仲間だな! 成敗してくれる!」

 拳を振りかぶり、男の脳天めがけて振り下ろす。長身から繰り出される破壊の鉄槌。俺はこれをハンマーブレイクと呼んでいる。これで倒せなかった敵はいない!

 ハンマーブレイクは見事男の脳天を砕いた。

「ふはは」

 俺に逆らうからこうなるのだ!

「いきなり何すんだよ」

「はははははええええぇぇぇぇ!?」

 な、なんだと!? 確かにヒットしたはずだ!?

「貴様なぜ生きている!?」

「逆に訊くが、どうして今ので殺せると思ったんだ? この俺を」

「お、俺のハンマーブレイクはいかなる敵をも粉砕してきた必殺無敵の一撃だ! 貴様ごときが耐えられるなど、何かの偶然だ!」

「あーはいはいそういうタイプねおまえさん。じゃあ俺も真似するよ」

 不意にぐいっと胸倉を引かれ、俺は不覚にも跪いてしまった。

「ようはただのパンチじゃねえか。なあ?」

 男は拳を振りかぶる。ふっ、だが恐れることはない。ハンマーブレイクは体重を乗せた拳を長身から振り下ろすからこそ威力を発揮するのだ。体格で俺に劣るこいつの攻撃が俺に効くはずがない!

 この一発を耐え、反撃に出る。そのときがこいつの最期だ!




*****




 一発殴ったら死んじまったんですけど。

 俺は勇者を名乗る筋肉ダルマの死体から手を離した。それは頭部が胴体にめり込んでいるというグロテスクな肉塊だ。さっさと処分してしまいたい。あとなんか血生臭い以外に汗臭いし。

「やれやれ……」

 俺が手をかざすと、死体が端のほうから光の粒に変わっていく。光の粒は茶色と黒を混ぜたような汚い色だ。これは魔素に付着した固有因子の色なのだが、こいつ相当バカで性格悪かったんだな。固有因子は精神性によって色が決まる特徴を持つ。ゆえに清い魂を持つ者ほど美しい色に、汚れた魂を持つ者ほど汚い色になるのだ。さっきの女の子勇者……『魔法の勇者』とか呼ばれていた子は、きっと綺麗な色をしているだろう。

 ほどなくして片付けが完了し、床に散らばっていた血肉はすっかりなくなった。

 いつもはハルヒに任せている部分だが、我ながら嫌な仕事をさせていると思う。許してくれ、誰彼構わず吸収するのは生理的になんか嫌なんだ……。

「今度、プレゼントでも買ってやるか」

 装飾品がいいか、実用品がいいか。それは追々考えておこう。

 まずは死者の再現だ。

「最初は誰にすっかねぇ」

 何があってもなるべく傷つかないやつがいいな。そうなると、候補としては……。うん、あいつがいいかもしれない。

 俺は再現の順番を頭の中で組み立てながら儀式の間へと向かった。

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