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人類最強にして神に選ばれし勇者、魔王に挑む

 世界の果てに大きなお城がありました。

 そこには魔王が住んでいました。

 魔族を操り、人々を苦しめる彼の名はラグナロク。

 最強にして最悪の存在です。

 人々は魔王を倒すべく、神と協力して勇者を創り出しました。

 勇者は人並外れた怪力と魔力と純粋な心を持ち、人々は勇者の勝利を確信しました。

 さらに魔王城への長い旅の中で信じられないほど成長していきました。

 そうして、ついに魔王城に辿り着いた勇者は、しかしあっけなく魔王に敗れてしまいました。

 人々は悲しみに暮れ、絶望に浸りましたが、諦めませんでした。

 魔王討伐のため、何度も勇者を送り出すのでした。

 そして、今日もまた魔王のもとに勇者が──。

「やっとおまえのもとまで辿り着いたぞ、魔王ラグナロク!」

 数々の困難、数多の出会いと別れ、その果てに勇者である俺はついに魔王ラグナロクと相対した。

 薄紫の光に満ちたただっ広い空間にぽつんと置かれた漆黒の玉座。傍らに仕える者はなく、魔王ラグナロクは孤独にそれに腰を落ち着けている。纏うのは漆黒の鎧。兜を被っているので素顔を見ることはできないが、おそらくこの世のものとは思えないような醜悪な顔をしているのだろう。外套の首の部分についた黒い毛皮は獅子のたてがみにも見える。自分は王だと言外に主張したいのだろうか。

「よくきたな、勇者よ。いかにも私こそが魔王。我が名は魔王ラグナロク!」

 思っていたよりも若い声で魔王は言った。未だに玉座から動く気配はない。

「貴様の悪行もここまでだ! 観念しろ!」

 俺は果敢に剣を突きつける。

「悪行? 私がいったい何をしたというのだ?」

 魔王はわざとらしく尋ねてくる。

「ふざけるな! 世界中で魔族が暴れているのはおまえの仕業だろう! 人類史が始まってからの千年、貴様はずっと魔族を操って俺たちを脅かしてきたんだろう!」

「ふ、は」

 魔王は肩を震わせて笑った。

「なるほど、今の世界ではそういうことになっているのか。まあいいだろう。あながち間違いではない」

 魔王はゆっくりと立ち上がり、俺のほうへと歩いてくる。

「それでは始めようか。人類最強にして神に選ばれし戦士よ、その聖剣で私を殺してみせろ。運が良ければ傷ひとつくらいはつけられるかもしれんぞ」

「余裕でいられるのも今のうちだ!」

 積み重ねてきたすべては、このときのために。

 俺は勇者としての責務を果たすべく、聖剣を鞘から引き抜いた。




*****




「んー、どうよ? 今回は結構魔王っぽく振る舞えたんじゃないか?」

 俺はそう言って玉座に座り込む。眼下に転がるは勇者の死体。あれだけ意気込んでいたが虚しくも一撃で死んでしまった哀れな勇者は、体の上半分と下半分がすっかり分かれている。無論、俺がやった。回し蹴りしたらこの通りだ。

「はい、なかなかの演技だったと思います。ですがズボンの裾を返り血で汚すのは感心しません。洗濯するほうの身にもなってください」

 返事をしたのはメイド長のハルヒだ。ピンク色の長髪に赤い瞳を持つ美女。声音と表情はひどく無機質だ。というのも、ハルヒは人間ではなく人工的に造り出されたアンドロイドだからだ。ちなみに胸より尻のほうが大きい。

「それにしても」

 ハルヒがおもむろに切り出す。俺は玉座の肘掛けを使って頬杖を突き、片眉を上げ、彼女に意識を向ける。

「いつまでこんなことを続けるおつもりですか、魔王様」

「こんなこと、とは?」

「勇者をわざわざ城内まで招き入れてから殺すことです。門前払いしてやればよいのでは?」

「わかっとらんな、ハルヒ」

 やれやれ、と俺は肩をすくめる。

「やつらは俺を倒すために幾度となく困難を乗り越えてここまできたんだぞ。俺に会う直前で死んだら可哀想じゃないか」

「はぁ」

 腑に落ちない様子のハルヒ。

「慈悲……いえ、同情で延命されるのもかなり屈辱と思いますが」

「うむ……それを言われると何も反論できん」

 はは、と愛想笑いで誤魔化しておく。

「まあいいだろう。その死体はいつものように片付けておいてくれ。俺は今から晩飯を作る。今夜の食事当番、俺だったよな?」

「はい。材料の仕込みは済ませてありますので」

「さすがメイド長、仕事が早い」

 俺は再び立ち上がり、その場で軽く腕を振った。すると、空間を満たしていた薄紫の光が掻き消え、石造りの質素な部屋が現れる。

「玉座の間ってよりはスタジオだよな、ここ」

「今度撮影会でもしましょうか?」

「誰を撮るんだよ」

「もちろん魔王様を」

「却下。ただでさえ悪い目つきがさらに悪く見える」

「かっこいいではないですか、その目。私は好きですよ?」

「俺が嫌いなんだよ。んじゃ、あとで食堂で」

 俺は勇者用のスタジオルームから出て、キッチンへと向かった。


魔王の秘密<1>

料理をするときは「PIYOPIYO」と書かれたヒヨコのエプロンを着けるらしい。


ようやく一話です。

空行を挟んで行間を広げたほうが読みやすいでしょうか?

よろしければご意見をください。


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