第一話 一年間の始まり
三月、僕は教室の端っこで携帯に届いたラインを読んでいた。
「明日の午後3時、303で待ってます。」
送り主は、同じサークルの一年生だった。でも、会ったことはあるくらいで、話したことなどない。無論、その子に限ったことではなく女子とあんまり話すことがないのである。そんな僕がもらったわけのわからない待ち合わせのメール。本当は行くかどうかも迷ったのだが、一人の男として約束を破るわけにもいかないと思い、予定より早く場所についていた。携帯をずっと見続けたせいで目が痛くなり始めた僕が顔を上げると目と鼻の距離ぐらいに後輩は立ち、のぞき込んでいた。
「うわあ」
ぼくはよろけて転んでしまった。それを見て後輩は笑う。僕は少し悔しいような気がして立ちあがりながら呼んだ理由を尋ねた。そうすると彼女は意地悪そうなほほえみを浮かべ僕に一つの提案を持ち掛けてきた。
「今から、呼んだ理由を問題形式で先輩に出します。それを先輩は『はい』か『いいえ』で正直に答えてください。」
「はあ?」
僕は意味が分からなかった。そっちが勝手に呼んでおいて問題形式で当てろなど無理な話である。いつもなら面倒くさそうなので逃げるところだが、さっき転ばされたこともあり、少しはかっこいいところを見せようと思い、挑戦を受けることにした。
「じゃあ、まず先輩は今好きな人がいますね?」
「・・・うん。」
「でもその人に告白することはない。」
「ああ。」
なんで彼女はそんなことまで知っているのだろうか。むしろ彼女はどこまで知っているのか。
「先輩の好きな人は今目の前にいる人ですよね?」
「・・・」
確かに話したことのない後輩のことが僕は好きだった。おかしな話かもしれない。でもサークル内で見せる彼女の真剣な顔や思いやる姿に僕は心を奪われてしまっていた。
「先輩?答えて下さい?」
「・・・」
ここで『違う』と答えても『答えたくない』といえどもどちらも彼女を傷つけてしまう。そう思うと僕は答えに詰まってしまった。
「先輩ってわかりやすいですね。」
そういうと彼女はまた笑いだした。彼女の笑う顔はやっぱりかわいらしかった。
「じゃあ最後の質問です」
「おお」
「もしここで私が告白しても先輩の答えは『いいえ』ですね。」
「ああ。」
好きな人と付き合えることはとてもうれしいことかもしれない。でも僕にとってはとてもいいこととは言えないのだ。
「じゃあ、先輩、私と付き合ってください。」
「は?」
「あ、もちろん、普通に付き合うわけじゃなくて一年間だけ付き合ってほしいんです。」
「はあ?」
この子は何を言っているのだろうか。一年後など僕は大学を卒業してしまう。それまででいいというのだろうか。
「一年後また同じ場所で告白します。その時にまた返事聞かせてほしいんです」
一瞬それならいいと思いかけたが、やはり一年間という彼女の時間を僕なんかのために使わせるのは気が引けた。だが彼女は僕に断らせる時間を与えないかのように
「じゃあ、一年間よろしくお願いしますね。」
とだけ言い残し教室を飛び出して行ってしまった。教室にはチャイムが鳴り響きいつもよりもチャイムが高いように聞こえた。