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モコモコおてて。

ある男の独り言。

作者: 織 壱菜


 この世界に来て50年。

 長いようで短い年月。


 その50年をほぼこの海で過ごした。

七色に染まる海、幻想的なこの海で目を覚ましたのはこの世界で過ごす50年と同じで50年前。


 心地よい揺れに、まだ13歳だった自分は母のお腹の中はこんな感じだったのだろうかと考えながら目を覚ました。

視界に入ったのは一面いっぱいに黄色。なんだこれはと口を動かしたんだと思う。いつも動く感覚と違うなと思いながら、黄色の空間から抜け出そうと思い、足を前に出す。


 これにも違和感が。


 前に出した感覚がない。

不思議に思いながらも前に進むからいいかなと安易な考えで前へ前へと進む。

 そして行き着いた先は……緑色の空間だった。


 絶対におかしい。

 何かがおかしい。


 そう思いながらも前へ、前へ。

緑の後は青、藍色、紫と色が変化していく空間に思い浮かんだのは雨が降った後に空にかかる虹だ。不思議な事があるんだなぁっと紫の後に行き着いたのは真っ白の壁。

その壁を正面に上へ上へとあがる。

 眩しい光が見えて漸くこの不思議な空間から抜け出せるーーと、光の中へ飛び込んだ。


「んー?なんだこれ?」


 そこには藍色を纏った天使がおりました。

日本には絶対にいない色合いの少女。

背中に羽はないけれど透き通るような白い肌に胸が高鳴った。


 そう、これが初恋。

13歳の初々しい思春期真っ盛りの自分は、この天使に恋をした。


***


「アクア様、今日も行かれるのですか?」

「うん、これ食べたらいくー。いや、これをあっちに持っていけばいいのか?いや、少しいく時間をずらして焦らして焦らして…ぐふふっ。」


晩ご飯を目の前に考え込むご主人様は、最近あることに夢中だ。


「焦らされた木蓮は僕がいないと寂しくて寂しくて、離れたくないって結婚を承諾してくれるはずだ。」


 そう、恋人である木蓮様にプロポーズをする方法を考えている。若干、いや、かなり的外れなプロポーズをしようとしているご主人様に


「木蓮様は直接お伝えしても喜んで承諾してくださいますよ。」


 常識的なアドバイスを。

きょとんっと目をまん丸に拍子抜けしたご主人様が可愛いと思ってしまうのは不謹慎だ。けれど、50年も経ち変わる事のない少女ー…いや、4000歳以上の少年は出会った日から全く老けていない。

 我が儘で自己中心的で自意識過剰、幼馴染みである木蓮様の次に自分が大好きなこの方はこう見えても凄く気遣いで小心者で優しい一面を持っていることを知っている。


 初めてご主人様と出会った日、異世界に迷い込んでしまった事なんて説明されても全く理解できず、しかも自分の姿がシーラカンスだったことに更に驚き、目の前の天使が少女ではなく同性であり水の精霊と言われても「はい、わかりました。お世話になります。」なんて13歳の自分が言えるわけがない。

 シーラカンスに憧れて生態を調べて調べて発表した自由研究が賞を取ったときは飛び上がるほど嬉しかったけれど、自分がシーラカンスになりたいわけじゃない。

優しかった両親との突然の別れに三日三晩泣き続けた自分に、ご主人様はずっと付き添っていてくれた。そして、泣き疲れて何故か人間の姿に戻っていた自分に「僕と契約しようか。」と手を差し伸べてくれたのだ。


 最初は意味が分からなく返答に困り、話を流した。しかし、月日が流れ人間からシーラカンス、シーラカンスから人間の定期的なサイクルが狂い出した。シーラカンスでの時間が多くなり、その時の記憶が全くないのだ。


 何かおかしいと思ったときは本当に危険な状態だったらしい。気付いた時にはご主人様と手を合わせ、この世界に来て学んだ水魔法で何かをしていた。その時の状況は全く覚えていない。そして意識を戻した自分は耳に違和感があり触れてみるとひんやりとした石の輪っかが付いていた。

 後々話を聞くと、契約は転移人が動物化と呼ばれる呪いを解く唯一の方法で、自分の場合はこの世界に飛ばされた時の姿ー…シーラカンスそのものになってしまうところをご主人様と契約する事で防いだとのこと。

 何年も一緒に暮らし、契約の話を持ちかけてきたのは泣き疲れたあの日だけ。


 この人は断られるのが怖く、不器用な優しい人なのだと気付いた。

毎日、毎日、突拍子もないことばかりして困らせるだけではなかったのだ。



「彦次郎がそう言うならそうなのかな。じゃぁ、結婚してくださいって言ってくる。」


にっこりと笑う天使。

 性格は堕天使だが、この世界にきて何も分からない自分にこの世界の知識を教えてくれた救いの天使だったことには間違いがない。


「アクアさま、お待ち下さい。木蓮さまの緑の御髪に合うお花を一輪お持ちになってください。」

「花?あぁ、サプライズでプロポーズする時に髪にさしてあげるとか?」

「いいえ、私がいた国ではプロポーズをする際は婚約指輪というダイヤのついた指輪をプレゼントします。御髪に合う色でしたら小麦色の肌をされた木蓮さまの肌に合うはずです。是非、木蓮様の左の薬指にそのお花を輪にして付けてあげてくださいませ。」


 自分はこの先結婚をすることはないだろう。

だからせめて初恋であり、失恋の相手であるアクア様に幸せになってもらいたい。


「行ってくる!!」と、真っ白な花を片手に想い人の元へ向かうご主人様に礼を一つ。


「お帰りをお待ちしております。」


失恋に胸が痛まないと言ったら嘘になる。

しかし、その分楽しみもある。


「さて、アクア様と木蓮様の大好物を沢山作って二人の帰りを待ちましょう。」


水の精霊のアクア様。地の精霊の木蓮様。

どちらに似ても子供は可愛いだろう。

60過ぎた自分は、二人の子供を見れるのだろうか。

願わくば、二人の子供にお仕えしたい。

そしてお話をしてあげたい。


"お父様はとても心優しい方だよ"と…




END...



お読みいただきありがとうございました。

短編が初めてですので、モコモコおててを読んでない方が読んでも話が分かるかが心配でしたがいかがでしたか?


感想をお待ちしております。

お読み頂きありがとうございました。

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