幼い記憶
2組の教室前で隼と別れ、私は3組の教室に入った。
黒板には【入学おめでとう】と書かれており、綺麗に並べられた机には自転車通学用の真新しいヘルメット等が置かれている。
『私の席はどこだろう。』黒板に貼ってある座席表を見て、自分の席へと向かう。
当然ながら、話をする子なんていない。
ましてや、同じ小学校の子は私が苦手な子、話したことすらない子ばかりだ。といってもクラスの中に同じ小学校の子は5、6人ほどだが。
私の席は真ん中の列の一番後ろ。更に知っている子も周りにいないときた。
『どうせ友達は隼以外つくらないし、つくれないんだから、関係ないんだけど。』
そう思い席で一息つくと、楽譜を鞄から取り出す。
今日も帰ったらレッスンだ。少しでも先をみておかないと。
友達がつくれない理由。
それは、あの家のせいだ。
お母さんがいなくなってから、私はヴァイオリンをするのを拒否していた。
その頃の私には隼以外にも友達がいた。自主練習の時間に抜け出し友達と、遊んだり、その子の家に行ったりしていた。幼稚園年長のときだ。
でも、そんな日々も続くはずがなかった。
いつしかその友達に避けられるようになったのだ。
『なんで』『私何かしたのかな』
どうしても理由が知りたくて。その子に直接聞いた。
すると
「お母さんが…奏音ちゃんとはもう遊ばないでって…」
「な…なんで?」
「えと…奏音ちゃんの家の人が、私の家を…こ、壊すって……」
「壊す…?」
「と、とにかく家が壊れるのは嫌なの!…ごめんね」
その子があまにりに悲しそうな目をしていて。
『家を壊す』の意味が知りたくて。
でも、あの子を悲しめたのは紛れもなくこの『私』で。
『あの家』からは逃れることはないのだと。
その現実を理解し受け入れたのは、小学1年生。
幼すぎた私は、その日から心を閉ざした。