謎展開から始まる物語2
エンディア・スフィアリード。スフィアリード公爵家の天才であり星の導き手の生まれ変わりと言われる。
(基本事項であり、キャラの概要に書いてあったこれしか知らないのだけど)
泣き止んでうとうととしているエンディアを見た従者は笑みを浮かべる。従者にはエンディアが何を考えているのか、というのは分からない。だからエンディアが転生した存在であるということは分からないのだ。
(あのゲーム、乙女ゲームのお約束だったんだけど。これは不味い、落ちがさっぱり読めない。お約束が複数あるのは確かなジャンルでこんなことしないで欲しかった)
乙女ゲームのお約束、それは例えばヒロインが下級の身分、王子がメインの攻略対象、幼馴染が攻略対象であるなどだ。
だが、悪役である公爵家の従者が謎展開を作る要因とは誰が想像していただろう。
(初めてキャラの概要を見たときに驚いた事なんだけど、従者の名前が無いというのに概要欄に載っていたから)
乙女ゲームがどのようなキャラ概要を持っていたか思い出している間に意識が遠くなる。そして眠りについていた。従者は寝息をたてているエンディアを見て、目を見開く。
「お館様、部屋が遠すぎるのですが。かれこれ五分くらい歩かされているというのに、まだ着かないとは思いませんでしたぁ」
そう言う従者はお館様と呼ぶ当主に対して呆れの溜息を吐くが、従者は気づいていない。先程から同じ場所を歩いていることに、それに気づいたのは十分経ったあとだった。
「そういえば、部屋についてはどう伝えたの? あの従者は基本的に正規ルートを辿らないわよ」
「この俺がエンディアのことで間違える訳がないだろう」
呆れを多分に含んだ目を青年に向ける。その目を振り切る様に自慢気な笑みを浮かべる男性はそう言う。だが、その返しを聞いた女性は溜息を吐く。
「どうかしら。あの従者は扱いに手間がかかるわ」
「慣れればそこまでじゃないさ。そうだ、エンディアをあいつに任せるか」
流れる様に言われた言葉に女性は固まる。しばらくして復活するもまだ驚愕が抜けないのか動きがぎこちない。
「……正気かしら」
「途中から渡すから手間取るんだ、始めから渡していれば常識となるだろ」
「それもそうね」
エンディアと従者の二人がいないところで勝手に決まっているがもし居たとしても止めることはできないだろう。
常識としてしまえば驚きも少ないはずであるという作戦は、本来なら成功していただろう。だが、エンディアは転生者である。別世界とは言えある程度は常識が共通していることも知っている。
この場合、従者の暴走を止める者が現れたかどうかは定かではない。だが、平穏から離れる原因は別のところで作られていた。