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王妃様との……

「戦いを終えて平和となった暁には、是非とも勇者殿には地位を与えてやりたい。そこで……」


 王の手が王女を示す。


「マレファと婚約をせぬか?」

「……え?」


 僕は驚いた顔を作った。何となく予想はしていたので、実際は驚いていないが驚いた振りをした方がいいだろう。

 王女の様子を確認。緊張した面持ちで言葉を待っていた。これで僕がこの部屋に入ったときの視線の正体が分かった。


 はっきり言えば、彼女はとても美しかった。白磁のような肌に気品ある目鼻立ち。黄金色の髪は滑らかで美しく、文句のつけようがない。


 僕は言葉を考え、順番に言うことにした。


「と、突然そのようなことを言われましても……王女様とは今日が初対面ですし」

「安心せい。マレファとは既に話を終えている。人々の誉れ高き勇者殿なら、と本人も了承している」

「それでも、僕にとっては突然の話です」


 僕の言葉に王が「むう」と口ごもる。が、それは演技ですぐに何かを思いついたような表情となる。


「そうじゃ。初対面であるならば、今日はマレファと過ごして考えてみてはどうかな?」


 恐らくあらかじめ考えておいた流れなのだろう。こちらもすぐに切り返す。


「そういうわけには参りません。このあと、すぐに出立して魔族の掃討に向かわねばなりませんから」


 王が今度は本当に口ごもった。魔族との戦いを引き合いに出されては押し込むわけにはいかないだろう。

 だが、王は僕が思った以上に強引だった。


「魔族との境界線は我が騎士団の精鋭が見張っておる。それに休息もなしでは如何に勇者といえど戦えまい。今日ぐらいは休むべきじゃろう」


 騎士団なんかが一体何の役に立つのやら。そもそも肉体的には休息が必要でないからこそ、広大な領土を取られていたにも関わらずここまで押し返せたというのに。

 相手の主張は無茶苦茶だったが、これ以上歯向かうのは恐怖心があった。相手の機嫌を損ねたくはない。


「……分かりました、確かに仰るとおりです。今日一日は休ませてもらいます」

「うむ。ではマレファよ、案内してさしあげなさい」

「はい。お父様」


 意見の押し付け合いに負けた苦々しさが心に広がっていた。とはいえ、ちょっと王女様の相手をするだけだ。それぐらいならやってもいいし、最悪の場合、魔族を見つけたといって飛び出せばいいだろう。

 気苦労はまだ延長しそうだ。王女様の後ろを歩きながら、バレないように小さな嘆息を吐いた。




 夜。用意された部屋のベッドの上に僕は倒れこんでいた。


 あの後は最悪だった。王女様のご機嫌を窺いながら王族の歴史の話などを聞かせていただき、その後は王族や貴族たちとの食事会。味なんて覚えてない。

 歓待を続けたがっていた人々から逃げ出して部屋に飛び込んだのが一時間前だ。全身に疲労がのしかかっている。


 用意された部屋の豪華さも気にする余裕がない。ベッドについてる天幕は何のためにあるんだ。

 何はともあれ激務は終わった。後は好きなときにここを出ていって魔族たちとの戦いに戻ればいい。


 扉がノックされる音。まだ誰か来るのか。


「はい、どうぞ」


 思ったよりも疲労が来てるのか不愛想な声を出してしまった。まだ気を抜くには早い。


「失礼します」


 部屋に入ってきたのは王女だった。昼間とは格好が変わっていて、薄い生地の就寝用の服装となっていた。


「マレファ様、何か御用ですか?」


 ベッドから立ち上がって外向きの声を出す。今度はちゃんと出てくれた。

 王女はしばらく視線を彷徨わせてから、口を開いた。


「いえ、その、少しお話しをと思いまして。ここなら、二人だけですから」

「と、申されますと?」


 王女の意図はいまいち分からなかった。恐らくは僕らの仲を深めたい王の差し金なのだろうが。


「勇者様にも、人には言えないご苦労がおありかと思います。せめて気分が和らぐお手伝いを、と」


 どうやらこちらを気遣ってくれているらしい。

 少し考える。振りではなく本当にだ。もしも僕が『勇者』であることが嫌で嫌でしょうがなくて、今すぐにでもやめたいという話をしたらどうなるだろうか。彼女は頷いて僕の重荷を取り払ってくれるだろうか。


 あまりにも馬鹿馬鹿しい妄想に思わず笑いが吹き出してしまった。しまった、王女が不審がっている。


「あぁ、いえ。気遣っていただいているのだと思うと嬉しくて」


 舌が滑らかに嘘を言ってくれた。取り繕うのは慣れている。


「ですが、今日はちょっと慣れない場だったので疲れてしまって。明日には魔族の元へ向かいますし、お話しはまた無事に帰ってこられたら、でどうですか?」


 僕の答えに王女ははっとした表情となる。


「そ、そうですよね。お疲れのところ申し訳ありません」


 慌てて扉へと駆け寄り、王女は一度だけ僕の方を振り返った。


「どうかご無事で」


 それだけ言って王女は部屋から出ていった。

 再び僕はベッドに倒れこんだ。急襲まであるのだから戦場並みにここは油断できない。

 とにかくさっさと寝てしまおう。ここからは早く出て行った方がいい。

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