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招来

 魔族との戦いを始めてからかれこれ一年が経とうとしていた。

 一年という時間そのものは大した長さじゃないかもしれない。けど、体感としてどうなるかは、どう過ごしてきたかによる。


 僕にとってこの一年は、かなり長かったといえる。異世界に呼び出されてから、様々なことがあった。主に、勇者として。

 その甲斐あってか、人間界から魔族はかなり殲滅できた。魔界との出入り口がある地域だけが、今となっては彼らのテリトリーだ。


 彼らからすれば『勇者クリストファー』は最早、神出鬼没だ。人間たちを襲おうとしたとき、どこからともなくやってくる。そんな存在に見えているだろう。そのせいで、彼らは安易に人間側の領土に攻め入れなくなっていた。おかげで昔よりは忙しくしなくとも、人命が失われることはなくなった。


 そしてそのことを、人間たちも理解しているようだった。




 昼間。それなりの規模の街にある宿屋で休んでいた僕の元に、使者が現れた。

 高級そうな衣服に身を包んだ壮年の男。左右には騎士姿の護衛。

 男は僕に一枚の招待状を差し出していた。


「これは?」

「我らが陛下が、勇者クリストファー様を城へご招待したいとのことです」


 朗らかな笑みと共に、使者の男は僕に言った。僕は笑顔を作りそれを受け取った。


「平民出身ですから、ご無礼がなければ良いのですが。ありがたくご招待を受けたく存じます」


 笑顔を取り繕うのと同じぐらい、言葉遣いを取り繕うのは大変だった。


「いえいえ、お気になさらず。私どもは皆、勇者様には大変感謝しております。これはそのお礼のためですから」


 使者の男に合わせて、両側の護衛の騎士も笑顔で頷いていた。

 呆れたものだ。次の瞬間にはどこかで誰かが襲われるのかもしれないのに、それを守っている唯一の存在を城に招くなんて。平和ボケしている。

 あるいは僕とは違い、城にいる王様とやらにとって平民の命は大して重要ではないのかもしれない。僕からしても、王様の命が特別大事、なんてことはないのだが。


「お礼なんてそんな。当然のことをしているだけですから」


 内心を微塵も出さず、笑顔を貼り付けたまま僕は答える。心なしか、騎士たちが感動したような顔をしていた。


「では、城でお待ちしております」


 そう言って使者の男は護衛を引き連れて部屋から出ていった。

 彼らがいなくなったことを確認してから、僕は招待状を開いてみた。そこには堅苦しい挨拶と形式めいた感謝の言葉と、王様だという人物の署名が記されていた。


 ゴミ箱に放り捨てたくなったが、これも自分の努力の結果だと言い聞かせて、汚さないように慎重に折りたたんで机の上に置いた。

 招待の日時までは時間がある。それまでに仕事をこなそう。

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