出立
翌朝。王への挨拶もそこそこに僕は王都を後にした。
懐の道具入れの中には王の親書が入っている。これがあればどこでも好きなように戦えるという配慮だ。こんなものがあろうとなかろうと必要があれば必要な場所で戦う。今までと何も変わりがない。
むしろ、脚に鎖をつけられたような気分だった。まるで王の兵士として戦うような、そんな感じがした。
人類の守護者などと呼ばれたが、僕は人間の味方だというつもりはない。光の精霊に言われるから、この世界を守るために戦っているだけだ。守っているのは世界であって人間というわけではない。
彼らに一方的に味方だと思われるのははっきり言って不愉快だった。勘違いも甚だしい。
だが、そんな苦労も恐らくもうすぐ終わる。
「あれか」
丘の先端に足をかける。視線の向こう側、低地に広がる森林の先に禍々しい気配の要塞が見えていた。光の精霊から得られる感覚も、あそこに無数の魔族がいることを示していた。人間界における彼らの最後の拠点だ。
あそこを殲滅すれば、魔族は拠点を失い人間界での活動が困難になる。人間界での最後の大仕事だ。
「じゃあ、行くか」
小さな一言を風が吹き消す。
独白を聞くものなど──誰もいない。




