足りない情報
あれから少し経って、明さんは回復した。
怪我が浅かったらしく、
大事には至らなかったそうだ。
きっと…白のお陰なんだろう。
「…氷神」
「はい」
「氷神の言っていた人型って、
俺を刺したやつか?」
「…そうか」
「で、でも!本当はそんな奴じゃ_____ 」
「良い奴だな」
「___え?」
予想外の言葉に驚く。
「急所を外しているどころか、
傷の治りの早いところを刺している。
しかも、攻撃だって全然本気じゃなかった。
きっと、ボスにでも命令されたんだろ」
「………」
「良い奴だよ、お前の友達は」
明さんは笑顔で言った。
あぁ、やっぱり俺は間違ってなかった。
白は、悪い奴じゃなかった。
「ありがとう、ございます」
「そういえば氷神、」
「何ですか?」
明さんはハッとしたように言った。
「その友達の隣にいた奴、誰だったんだ?」
「あ…忘れてた…」
「おいおい、しっかりしてくれよ?」
「すいません… えっと、
隣にいた奴でしたよね。…そいつは、
アルトリアのボス、です。名前はカイン」
「なっ!?お前、
ボスの名前分かったのか?!」
「自分で名乗ってましたから」
「良くやった!直ぐに本部に知らせるぞ!」
ボスの名前が分かってから、
彼の正体探しが始まった。
そして1ヶ月後、ようやく正体が掴めた。
彼はカイン・ロッソ。
イタリア国籍の人間だった。
カインは幼少期に
人身売買をしている商人に誘拐され、
日本政府に売られた。
以来政府指導の元、妖術を使用した、
『第1計画』の実験体となる。
その3年後、原因不明の事故により
研究所は崩壊。
実験体『カイン』は消息不明となった。
政府はこの事故を
実験体の暴走によるものと考え、
今も捜索しているようだ。
ちなみに『第1計画』とは、
政府発案の計画で公表はされていない。
内容として妖術を人体にかけることにより、
理性を持った " 動く生物兵器 " を造る
というものらしい。
これも、今回初めて明らかになった事だ。
こうして、カインの正体は判明した。
「明さん、アルトリアの場所って
分からないんですか?」
「分かってたらこんなに困って無いさ」
カインの情報が分かっても、
アルトリアの場所が分からないんじゃ
意味は無い。
「そう…ですか」
「まぁ、そう焦るな。
本部も今回の件で何やら動き出したしな」
「本部が、ですか?」
「あぁ。まだ内容は分からないが」
あの情報の中の何が、本部を動かす程の
力を持っていたのだろうか。
もしかしたらまだ公表されていない情報が
あるのかもしれない。
「カインの情報はあれで全てですか?」
「だと思うがな。俺ら白露軍に
公開されているのはあれで全部だ」
「そうですか…」
「考え過ぎじゃないか?」
「そうですかね…」
そうだと良いんだが。
「さ、もうこの話はやめて
早く本部に戻ろうぜ?」
「はい」
拭いきれない違和感を抱えたまま、
俺は明さんと本部に帰った。
帰って少し休んだ後、
俺はオペレーションルームに来ていた。
ここは、本部の情報開示室。
自分の持つアクセス権のレベルに応じて、
情報が提供される。
レベル1は民間人。つまり、
帝国大和に所属していない、
地底都市セレンにいる者が持つ権限。
レベル2は特別な役職についていない
一般兵や役員。
レベル3は副隊長。
俺はこのレベルまで持っている。
レベル4は隊長、参謀。
ちなみにオペレーターは閲覧のみ、
このレベルまで可能。
そしてレベル5は政府の重役、
帝国大和の総督、幹部。
これが最高レベルで、
このレベルの権限を持っていると、
手に入らない情報はない。
俺は明さんからある程度の情報は
貰えるので、レベル4までの情報は
知っていた。
「今回の件で本部は動いたのか?」
目の前のオペレーターに尋ねる。
「はい」
「本部は何をするつもりなんだ?」
「すみませんが、当該案件には
アクセス及び回答できません」
「…何故?」
「アクセスするには
アクセス権レベル5が必要です。」
レベル5の案件。
よほど知られたくない事か、
知ると混乱を招く事か。
何をそんなに隠したがる?
何が目的なんだ?
「くそ…情報が足りなさ過ぎる…」
その時、明さんの言葉が頭をよぎった。
『考え過ぎじゃないか?』
…考え過ぎ、か。
…そうだ。
今やるべき事はこんな事じゃない。
白を助ける事だ。
こんな所で余計な事を考えている暇はない。
他に考えるべき事は山程ある。
俺はオペレーションルームを後にし、
資料室へと向かった。