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あれから数年がたった。
私は美恵と両親を説き伏せ、今は実家から遠く離れた片田舎のおばあちゃんの家で大学生活を送っている。
ここなら、誰も私と美恵の事を知らない。大学のキャンパスで、明るくのびのびと笑いはしゃぐ彼女を見るのが、毎日の楽しみだ。
あの事件はニュースとなり、週刊誌が盛り上げ、警察も設楽の父親がいた組のガサ入れなど、色んなことがあったが、次から次へと日々送られる重大事件に飲まれ、結局は「暴力団員の常軌を逸した息子の凶行、若者の犯罪減少に見え隠れする一部の先鋭化」という見方で落ち着いたようだった。
初夏の日差しが薄着姿の私たちに心地よい暖かさを斜交いに投げかけていた。縁側に腰かけて足をぶらつかせながら、生い茂る植栽の天蓋の下で、同じぐらいの大きさの岩に囲われ、静謐さをたたえた手水鉢が印象的な、緑のある庭を眺めている。
美恵に名前を呼ばれたような気がした。振り向くと、彼女は手首の内側に盤面を向けた腕時計をつついた。もうすぐお昼だった。おばあちゃんは40過ぎから学び出して今も続けている英会話スクールで街の方までいっている。夕方過ぎまで帰らないだろう。
「うん。一緒に食べよう。――二人だけで」
私はそう言って顔を見合わせ、何がおかしいのかお互いにクスクスと笑いあった。
まるでその後に起こることを、二人とも理解しているように。
気づけば、私と美恵の太ももが当たっていた。美恵の顔がすぐ近くにある。私がそっと顔を近づけると、美恵はこころもち顎を前に突き出して、眠るように目を閉じた。
二人の唇が重なる。
私は、見つけたような気がした。悲しみも苦しみもない、心の聖域を。
手をそっと美恵の太ももの上に乗せた。美恵の手がその上に重ねられる。
指を絡め合い、彼女の足の付け根の方へ寄せていく。
美恵は、拒まなかった。
作中のショック・ドクトリンに関する記述は
ナオミ・クライン著「ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く」から引用させていただきました。
拙い作品にもかかわらず最後までお読みいただいた方にお礼を申し上げます。
誠にありがとうございました。
これからも精進いたします。




