20
カラオケのフリータイムが高校生には使えないので、私たちは早めに食事を済ませようと四時過ぎに待ち合わせをした。勇樹はラインで美恵を誘ったときの威勢のよさはどこへやら、「食べ放題の安いところにしない?」とヘラヘラ笑い、私たちの顔色を窺うように聞いてきた。
「勇樹君に誘ってもらったのは私たちだし、私はどこでもいいよ」
美恵は笑顔を絶やさずに答え、勇樹の手を取る。もう片方は私の手の中だ。傍から見れば、とても仲のいい兄妹に映ったことだろう。
早めに並んでおいたおかげで私たちは喫煙席から遠いボックス席を取ることが出来た。テーブルに注文したジュースが並べられると、それで乾杯の真似事をした。不謹慎かなとも思ったが、死んだのは設楽と美恵の義父で、同情の余地のない男だけだった。むしろ天罰が下ったのだ。
勇樹がトイレで席を外すと、美恵は自分のスマホを手にため息をついた。
「結局、誰が広めたんだろうね」
何を、と聞きかけて私は即座に把握した。動画の事だ。
「忘れなよ、といっても忘れられないよね」
「みんな、忘れてくれないからね。私が今、学校に行けてるのは二人のおかげだよ」
美恵はそこまで言うと、今度は先ほどよりも長く、深いため息をついた。その眼のふちに、うっすらと涙がたまっている。
「でも、学校を卒業したらどうなるんだろう。私、二人のいない場所で、生きていける自信なんてない」
私は美恵の手に自分の手を重ねた。
「私なら、美恵がどこに行っても、美恵のそばにいてあげられるよ。勇樹の事は、勇樹にきかないと分からないけど」
美恵はうつむいて陰になった顔を、私の方に向けた。今度ははっきりと、薄い暗がりの中で涙がキラキラしているのが見える。
「本当に?」
「うん」
「勇樹君も来てくれるかな」
「さあね、私は勇樹じゃないから」
勇樹は来ないだろう。来たとしても、勇樹をもう美恵に近づけるわけにはいかない。
勇樹がトイレから戻ってくる頃には、注文していたお肉がいくつかテーブルに並べられていた。私たちはそれらに舌鼓を打つと、長尻もそこそこにお勘定に向かった。
「私が出しておくから、勇樹は払わなくていいよ」
「マジ? 澄川お前いいやつじゃん」
美恵の不思議そうな視線を受けつつ、私は冷ややかな目で勇樹を見つめた。
カラオケボックスは混んでいたが、並ぶほどではなかった。カウンターで番号札を受け取り、階段を上がる途中で、美恵が私たちを呼び止めた。
「トイレ行きたくなっちゃった。どこにあったっけ」
「壊れてるから、外に出て向かいのパチンコ店のを借りてくださいって言ってたよ」
「遠いなあ。まあいいや、それじゃ先に行ってて」
美恵は私たちに軽く手を振ると、来た道を駆け戻っていった。
部屋の中はテレビの明かりだけがついていて、薄暗かった。ローテーブルを中心にコの字型に配されたソファの真ん中に私はコートを脱いで腰を下ろした。続いて右側のソファに勇樹が腰を下ろす。
「勇樹もやりくり大変でしょう。カラオケ代も私が出すよ」
勇樹の口から歓声が上がった。
「そうなんだよ。実は野暮用でお金が入るはずだったんだけど、駄目になっちゃったんだよ。いやあ助かる」
「そりゃあね」
私は勇樹の目を正面から見据えた。やや怯えた光が、彼の目に浮かぶのが見えた。私は言葉をつづける。
「設楽が死んじゃったものね。美恵の動画を彼に売りつけたの、貴方でしょう」




