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「何年ぶりだろうね。早苗ちゃん、中学校は西中?」
「5年ぶりだよ。うん、学校は西中。突然だったから連絡先も分からなくて。美恵はもう私のこと忘れてるんだって思ってた」
「早苗ちゃんのこと忘れるわけないじゃない」
そう言って美恵は微笑んだ。鼻筋の通った顔立ちと艶を帯びてややふくらみのある唇が、硬さの目立つくびれのない少女の身体とマッチせず、私はある種の寂しさと違和感を覚えた。
「クラスはどこ? 何組?」
「6組だよ。美恵は?」
「8組」
「8って特進クラスだよね。すごいじゃん、美恵。昔から頭良かったもんね」
「そんなことないよ。受験の時、たまたま自分の勉強してたところがよく出てたから」
「またまた、謙遜して。ねぇお昼一緒に食べようよ。弁当? 学食?」
「学食だね。おにぎりがあれば食べようかなって。お母さん、お昼作る時間ないから」
「じゃあ一緒に行こうよ。私が弁当持ってそっちに行くから」
「おはよう、早苗」
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには詰襟姿のスポーツ刈りの少年がいた。
「あ、勇樹。おはよう」
「誰と話してんの? 友達?」
「うん、紹介するね。私の小学校からの友達で、高山美恵ちゃん」
「高山です。よろしく」
「うん。俺、横田勇樹。よろしくね」
私は勇樹の目の光に暗く湿ったものが宿るのを見て取ったのと、それを目ざとく拾ってしまう自分の勘の鋭さの両方に若干不快な気持ちを覚えつつ、礼をする二人の間で笑顔を作った。
「澄川。お前メシどうするの? 何か話してたみたいだけど」
「弁当持ってきたけど、今日は食堂で食べるよ。美恵が学食だからね、久しぶりに色々話したいなーって」
「食堂? あー。俺、ここずっとお金ないんだよね。節約しなきゃ」
「勇樹、いつもお昼ごはんみんなからもらってケチってるもんね。何、ソーセージ欲しい?」
「いらねえよ。人を乞食扱いすんなよ」
勇樹が目を細めて踵を返す。遠ざかる背中を見つめていると、美恵に声をかけられた。
「早苗。横田君と仲がいいの?」
「んー」
私は左のこめかみとおでこの境目をかきつつ、言葉をつづけた。
「中学校からの友達」
勇樹は私の彼氏だった。