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断続的な痛みとそこに覆いかぶさるキンとした冷たさに、目が覚めた。横たわっている私のそばで、紺色のブレザーとチェック柄のスカートの立ち姿がこちらを見下ろしていた。
「早苗ちゃん! 大丈夫?」
私がそこに美恵の顔を認めるのと、彼女が目覚めた私に気づいて手を取るのが同時だった。
「美恵なの。ここはどこ」
「保健室だよ。柳井先生がここまで運んでくれたんだって」
体格は良いが無口で表情の乏しい数学の教師の顔が頭に浮かんだ。昨年受け持ったクラスの文集で頁の余白に少女漫画風の女の子の絵を描いて話題になっていたのを思い出し、私はくすりと笑った。
「澄川さん。気づいたのね」
仕切られていたカーテンがめくられ、保健室の先生が入ってきた。私の顔に手を伸ばし、乗せていた氷嚢のずれを直す。
「今、何時ですか。授業は」
「さっき6限が終わったところよ」
もう放課後ということだ。私は左手で顔に氷嚢を押し付けたまま、腰を上げた。
「もうちょっと休んでていいのよ。親御さんには私から連絡しておくわ。男子に殴られたんですってね」
私はハッとして先生の顔を見た。
「そういえば、男子は。設楽は、どうなりました?」
「設楽君だったの、暴力をふるった子。・・・・・・そうね、あの子は素行がとても悪かったから、停学じゃ済まないかもね」
「じゃあ、退学ですか」
「むこうの親御さんを呼び出しで、自主退学を薦められるでしょうね」
「そうですか」
快哉を上げたかったが、私はその感情を殺してぽつりとつぶやくように答えた。
「介抱して頂いてありがとうございます。でも今日は用事があるので、これで失礼します」
私はベッドを抜けて先生に頭を下げると、美恵と一緒に保健室を出た。
校門を抜けたところで、私は美恵に向き直る。
「一つ聞きたいことがあるの」
「うん。一つと言わず二つでも三つでもいいよ」
「美恵は設楽って男の子、知ってる?」
「えー・・・・・・知らない、と思う。何組の子?」
美恵は手を顎に当ててこれから暗さに拍車がかかるであろう空をにらみ、首をかしげた。
「それならいいんだ、ありがとう。美恵は先に家に戻ってて。私はお母さんに事情を説明してくるから」
「早苗ちゃんだけで大丈夫?」
「美恵が来たら無理矢理連れて行かれちゃうよ。私に任せて」
私は確かめたいことがあった。それを、美恵に見せる事は出来ないとも思っていた。




