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初短編にて初めてのミステリーを書かせていただきました。
力不足を痛感しておりますが、今の自分に出来る精一杯を持って仕上げたつもりです。
ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
「早苗ちゃん?」
名前を呼ばれ振り向くと、そこには私と同じ学生服の女学生がいた。その顔形に、私は見覚えがあった。
「もしかして、美恵なの」
恐る恐る私がその名を口にすると、美恵は屈託のない笑顔で静かにほほ笑み、私の手を握った。
「やっぱり早苗ちゃんだ、一緒の学校だったんだね」
美恵は私が小学生の頃に友達になった子の一人であった。当時私は上級生ばかりの通学班の面子になじめず、ある日、集合場所の公園を避けて一人だけ先に学校へ登校したことがあった。
私が教室に入ると、先客がいた。それが美恵だった。窓際の席に腰かけたまま窓外の景色を見つめている。彼女は同じクラスだったが、私と席が離れていたこともあってか、口をきいたことは一度もなかった。私は教室の入り口から彼女と挨拶を交わし合うと、自分の席の上にランドセルを置いて彼女に近づいた。
「早いね。高山さん、いつもこんな時間に来てるの?」
「うん。皆と一緒に通学すると、いじめられるから」
仲良くなった後で知ったことだが、美恵の両親は折り合いが悪く、平日休日問わず些細なことでお互いを罵りあっていた。その母親のストレスのはけ口は美恵の通学班の子供たちの態度に向けられ、列を乱して私語に高じる少年少女たちの放漫に、義憤の名のもとに学校や保護者会を電話で痛烈に批判した。
初めの数週間はどうにかルーズさが解消されたものの、喉元過ぎれば熱さを忘れるでまた元の状態に戻り、美恵の母親はそれをまた目ざとく見つけて抗議する――それが他の親たちの目にモンスターペアレントとして映ったのか、美恵の母親および家庭への怒りが保護者同士の口の端に上り、その空気は当然子供たちにも伝わった。結果、美恵は孤立した。
美恵は周囲の自分を避けようとする空気や非難めいた視線の中にいるのに耐えられず、「いくら言ってもあの人たち直らないから」と何とか口実をつけ、子供たちが集まる通学時間よりも早く家を出て学校についていた。
幼い彼女を取り巻くこうした状況は、保護者側からも学校側からも黙認されていた。誰も波風を立てたくないのだ。美恵が誰かと仲良くしている姿を見たことがなかった。もしかしたら、私が美恵の最初の友達だったのかもしれなかった。
彼女の状況もつゆ知らず私は、自分のところの通学班の子らをアニメのモブに例えて「別にいなくていいよね」と同調し、共通の敵を作った私たちは出会いから朝のホームルームまでの時間ですっかり打ち解けた。休み時間は連れションがてら周囲への愚痴や好きな漫画や化粧の話題で盛り上がり、放課後は同じ帰り道を歩いた。駅から真っすぐ伸びた道は国道に突き当り、その手前で二又に分かれている。私たちはそこでバイバイと手を振りあってお互いの家路へとつく。
私は今朝の勝手な行動を母にとがめられたが、トータルで今日は良い日だと、悪い気はしなかった。