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私は偽物でした。

『...でですね、ドッペルゲンガーというのは...』


テレビの音が聞こえる。

ドッペルゲンガーなんて馬鹿らしい。


『...ドッペルゲンガーが生まれてしまった人は鏡や写真に映りません。これはよく知られていますが...』


ああ、馬鹿馬鹿しい。

そう思いながらもテレビを消すことはない。

その代わりにチャンネルを変えてみる。


『...では、お元気でー。NHKが、8時をお知らせします。』


その時報を聞いてようやく我に返る。

そろそろ家から出ないと学校に遅れてしまう。


「理子ー、まだ出なくて大丈夫なのー?」


気づいた直後に母親がキッチンから声をかけてくる。

もう少し早く声をかけてほしいところだ。


「うん、そろそろ行くー。」


私はそう言って玄関に向かった。


玄関の横に置いてある鏡をのぞく。

髪型は...少し寝癖が付いているが、まあ問題ないだろう。


(ドッペルゲンガーって、どうやって身だしなみ確認してるんだろう)


そんなことを思いながら、


「行ってきまーす。」


そう言ってドアを開けた。




たったの10年で国というのは変わってしまうものだ。

県の周りは高い壁で囲まれていて、県をまたぐにはパスポートのようなIDという身分証明書が必要で、犯罪者を逃がさないような作りになっている。

その壁が、いつ、どこでも、外にいるときは目に入ってしまうのだ。


「おっはよー!りっちゃん!」


「おはよう、花、元気だね。」


親友の宮崎花。

小学生からの友達で、家もはす向かいという、典型的な幼馴染。


「さっきの番組見た?あのドッペルゲンガーのやつ。」


「んー、聞き流してただけかな。そんなことよりさ、今日放課後空いてる?よかったらだけどさ...。」


さりげなく話を振る。

しかし、花の反応は拒否だった。


「ごめんね、やっぱり私、今日、こ、告白する...。」


「そう...なんだ。」


花の思い人は竹田悠馬という、もう一人の幼馴染で...


私の思い人でもある。


花が告白すると知ったのはつい先日、花自身から打ち明けた。

もちろん、花は私が悠馬のことを好きだということは知らないし、悪気があったわけでもない。

それに、悪気があったとしても、花は私の大事な友達。

だから、『やめて。』と言えなかった。

私も好きだから、人間関係が複雑になるから、二人と一緒にいられなくなるから...。

いろいろな意味の『やめて。』を言いたかったが、言うことが出来なかった。



ただ時はひたすらに過ぎてゆく。

花の告白のことで、1日中まともに授業を受けることが出来なかった。




放課後になった。

花は私に、事前にどこで告白するのかを教えてくれていたので、先回りして体育館の陰に隠れた。


少し経つと、花がやってきて、挙動不審にあたりを見回している。

続いて悠馬もやってきた。


そのあとは何も聞こえなかった。

受け入れたくなかったから、聞こえないという風に自分をだましたのかもしれない。


けれど、答えはすぐに分かった。

2人が自分に見せつけるようにキスをしている。


それが悔しくて、悔しくて、私はばれないようにそっと、ふらつく足を支えるように壁をつたい、トイレに入った。


「ははは...、ひどい顔...。」


鏡に映った自分の顔を見てそう呟いた。



それからどのくらいたっただろう、心が落ち着いて涙も収まってきたころ、私は顔を服の袖で拭いながらトイレから出た。



トイレから出た時にはすっかり日が暮れていた。

幸い、学校から家まではそこまで遠い距離ではないので、7時までには帰ることが出来た。


「ただいまー」


カギを開いてから、言った。

けれど、母親からの返事が来ない。

不審に思い、靴を脱いで、リビングのドアを開ける。


「...え?」


私は大きく目を見開いた。

母親と、もう一人の人物がまったく同じ反応をしている。


数秒ほどの沈黙が続いた後、母が叫んだ。


「ド、ド、ド、ドッペルゲンガーーーー!!!!!」


「か、母さん、落ち着いて!」


もう一人の人物、それは私だった。

瓜二つどころではない、自分ですら一瞬鏡があるのではないかという風に思ってしまうほど、同じだった。

私はあたりを見回した。

うろ覚えな知識だが、ドッペルゲンガーというのは、殺さなければ殺されると聞いたことがある。

私はすぐ近くのキッチンに入り、包丁立てに置いてあった包丁を抜いた。


「母さん、そこから動かないで...、私が...」


私がその偽物を殺すから。

その言葉を遮るように母は叫んだ。


「ド、ドッペルゲンガー!!り、理子に近づくな!!!!」


「え...?母さん、それってどういう...」


「だから、これ以上近づくな!この偽物、ドッペルゲンガー!!」


...


嘘だ...


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!


どうして!


どうして私がドッペルゲンガーと言われているの!


私の思考が間に合う前に、母が鬼の形相でこちらにゆっくり歩いてきた。

恐怖のあまり、足がすくんでしまう。

一歩、また一歩と近づいてくる。

私は包丁を落としてしまった。


「痛ッ」


足の指に少し刃が当たり、切れてしまった。

それと同時に、自分の今置かれている状況にも気が付く。


逃げないと、死ぬ!


私はそう悟るともうがむしゃらに玄関まで走った。

2足ある靴の1つをひったくるようにつまみ、ドアを開け、走った。




玄関から出る前に見た鏡には、自分の姿が映っていたのだろうか。

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