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皆さんは、『リング』と聞いてまず思い浮かべるのは、「テレビ画面から這い出てくる貞子」ではないでしょうか。 1998年公開された劇場版のクライマックスにおいて、観客を恐怖で震え上がらせた貞子の有名なシーンですね。
『リング』をホラー作品として有名にしたのは劇場版の功績であると言えます。恥ずかしながら劇場版は観ておりませんので、劇場版の良し悪しは語れませんが、おそらくホラー映画として十分な出来なのではないでしょうか。
実は前述の「井戸から出てくるシーン」ですが、原作における鈴木光司氏の小説版にはこのような描写はありません。そもそも物語上に貞子は登場しません。大方の人がイメージする白いワンピース姿の恐ろしい貞子は、劇場版での印象が独り歩きしたものです。
では、タイトルに書いてありますが、原作である小説版『リング』はホラー小説のお手本のような作品であると私は思います。「見たら1週間で死ぬ呪いのビデオを見た主人公が、呪いを解く方法を知るために奔走する」というストーリーですが、確実に訪れる死の恐怖に焦っていく様子がリアルタイムに感じられて、じわじわと読者への恐怖を増長させていきます。不意打ちで襲ってくる恐怖というよりは、ゆっくりと忍び寄ってくる恐怖といった感じです。
しかし、「死へのリミット」という恐怖はあるもの、小説版には映画版のように、読者を震え上がらせるようなシーンはありません。実はホラー耐性がない方でもスラスラ読めるんじゃないかと思ってしまいます。
とはいえ、ホラーが苦手な人でも読めてしまうから、『リング』を読んでほしいというわけではありません。それは『リング』のストーリーが圧倒的に優れているからです。何がそこまで優れているのかを説明していきます。