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卑屈神子の杞憂譚  作者: 今井
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2

 それからしばらく待って、緑の神子の謁見が終わった三日後、合同謁見の日。集合場所はわかりやすく神殿前だった。あまり早く行っても気分の悪い視線にさらされるだけだし、遅く行って重役のような顔をしたくないし、人を待たせるのは嫌なのでほどほどの時間に行くと、緑の神子と牧師が既に待っていた。いつから居るのかわからないが、早くに来ていたのではないかと思う。

 関係は既に悪化しているので挨拶は控えめだ。アルヴァトトが私を背中に庇いながら、緑の牧師に挨拶をして、彼女は彼女でアルヴァトトが見えていないかのように私に挨拶をした。状況として酷いものである。

 先にグリに説明されているからか、デイスは以前とは違い生き生きとした様子だ。こちらを見ても嫌味ひとつ言わない。むしろ得意そうな顔をするのは腹を立てていいところだろうか。子どもの一挙一動に目くじら立てるほど幼くないつもりなので、無視しておくけれど。

「おまたせしました」

 それから少ししてルリが来る。ソドリーはルリの二歩後ろを歩いている。見た目で言えば、今回ルリが一番年上になるのか。

「久しぶり、ニーナ。緊張して昨日眠れなかったよ」

「あはは。遠足じゃないんだから」

 先にこちらに適当に挨拶して、ルリとソドリーは緑の二人に向かう。はじめましてと挨拶しているので、会ったことがなかったのだろう。ソドリーは緑の牧師に嫌そうに顔を歪めていた。関係がうかがい知れるほどではないけれど、みんな仲良くはできなさそうだ。

 もっとも私もソドリーには嫌われているだろうし、緑の牧師は打算で私に近づいてきているので周りとの関係だけいえば私が一番悪いだろう。

「では、行きましょう」

 音頭をアルヴァトトが取って、神官について全員一緒に進む。条件にそれぞれの部屋に入ることとあったので、神官も三人で、途中道を分かれる。ルリと「あとでね」と手を振り合い、慣れてきた道を進んだ。途中の待合室で、アルヴァトトと別れる。

「いってらっしゃい、アルヴェニーナ」

「いってきます、アルヴァトト様」

 優しく送り出され、心臓が跳ねるような気分にも落ち着くような気分にもなる。あまり浮かれていては、また茶化されてしまう。いや今回はないか。悶々と考えつつ進めばすぐにダリアのところだ。いつもよりも早い再会である。

「ダリア様こんにちは」

「おうこんにちは。緊張してるな?」

「そこそこ」

 いたずらっぽく笑うダリアは立ち上がってこちらに寄る。近い距離に彼が居るのは比較的慣れているので黙って見上げていれば、目が合ったと同時にその笑顔を得意げなものに変える。そうして部屋の床に手をつく。ちょうど部屋の真ん中の位置だ。

「見てな」

 私に指示すると同時に、床に文様が現れる。光っているようなそれは、床に大きく広がる。同じようなものを見たことがある。はじめてここに来たとき、リンドウのところへ行く途中の道でダリアが使った――魔法。

 更に大きく広がると、光はパンッと弾けるように消えた。破裂した光が降り注いでいるうちに部屋が、大きく変わる。瞬きの隙間に入り込んだ変化は、けれど慣れたものだ。慣れていないのはその部屋で、まるでそこは、私が死んだときに見た部屋だった。

 白い部屋。あの場と違うところはカーテンがないところと、代わりにテーブルと椅子があるところ。リンドウの部屋にあるのと似たタイプの長方形のテーブルだが、椅子は長い辺に三つずつある。対面の邪魔にならないようにか、上の飾りはない。テーブルクロスも椅子もすべてが真っ白だ。

 それから、以前と大きく違うところは、私に体があるところ。しっかりと体がある。桜色の髪をした子どもの体だ。

「見覚えがあるから驚いた?」

「……はい」

 声を掛けられて気付いたが、隣にはしっかりとダリアも居た。白い部屋で大きく違和感を放つ強烈な赤だ。そして呆けていて気づいていなかったのかもしれないが、少し離れたところにルリやデイスも居た。もちろんリンドウとグリも居る。

「よくぞいらっしゃいました。三名の神子よ」

 どうやらリンドウの部屋が真ん中にあるようで、三名の真ん中に立つリンドウは神様然とした態度で微笑む。いつものにこにこした笑い方よりも断然に神様らしくて、驚くのと面白いのとが半々くらいだ。どういう心持ちでいったらいいのかわからない。

「な、作ってるだろ」

 ダリアがこっそり耳打ちしてくる。にやにや笑っているからつい面白くなって頷けば、じろりと睨まれた。多分ダリアの方を睨んでいるのだと思うけれど、睨まれるのは怖いので姿勢を正す。私は笑っていません。

「どうぞ、座ってください」

 打ち合わせの末、司会をリンドウに任せることになったのだろう。促すリンドウにみんなが席に集まる。神様と神子が対面する形で、席順は真ん中が青の神と神子。左右に赤と緑なので、デイスとは席が離れた。助かった。

「三名の神子と一堂に会するのは歴史上初めてのことです」

「場を作っていただいて、ありがとうございます」

 リンドウが神様として接してくるならば、こちらも同様に恭しい態度を取らなければならないだろう。相手は神様だと再認識して挨拶をすればリンドウはこちらを一瞥して笑んだ。

「では改めて。私はエルドシャ。青の神です」

「グルーニキス。緑の神よ」

「アンドレンダリヤ、赤の神」

 こうして、きちんとした名前で挨拶されるのは初めてだ。この場ではきちんとした名前で呼んだ方がいいというのは先日の謁見で打ち合わせ済みである。因みにお茶の用意は私がすればいいかと聞いて「用意しなくていい」と言われたのも先日である。神々しさや威厳を出すならこちらは跪くだとか、三名は立っておいた方がそれっぽいけれど、今回は座談形式を取っている。テーブルに何もないのは不自然な気もするけれど、彼らがそれでいいというのならばそうなのだろう。翼があるので立っている方が圧倒的にかっこいいのだけれど。

「えっと、青の神子のルリです。ヘキミ・ルリ」

 待っていると、おずおずとルリが挨拶を返した。順番的にそれが正しい。次は緑の神子になるのだが、空気は呼んでくれたものか。ルリを越えて視線をデイスに送ればわかっていたようで、座ったまま首を垂れた。

「デイスと申します。緑の神子です」

 おお。驚くほどに、まともな挨拶ができた。グリを見れば、彼女はまるで参観日の母親のように、よくできた子どもを微笑ましそうに見ている。グリに躾けられたのか、グリの前では元からこういった態度なのかはわからないところだ。

「赤の神子、アルヴェニーナです」

 続けて挨拶はするけれど、私に限っては三名ともしっかり顔見知りどころか先日会ったばかりなので違和感しかない。ダリアを見るとおかしいのを堪える顔をしていた。そんなわかりやすい顔をしないでいただきたい。

「さて。アルヴェニーナから外で神子の立ち位置の問題が出ていると聞いて、こちらに招いたのですが……」

 リンドウは私たち三人を、というよりはルリとデイスを見ながら、何か聞きたいことはありますかと尋ねた。私については前回聞きたいことを聞いているからないと判断したのか、私相手だと素が出ると思ったのかわからないが、多分質問してほしくないのだろう。今回は聞きたいことがあるわけでもないので黙っておく。視線をダリアに向ければ気付いたように目線でリンドウを指してにやにや笑った。釣られそうになるのでやめてほしい。

「私から聞いてもよろしいですか」

 手を挙げたのはデイスだった。顔は少々強張っている。彼にとってはよその神様と話すの等はじめてだから、緊張しているのかもしれない。グリには幼い頃から接しているらしいし。

「なぜ、赤の神子だけは初めからどの神とも会えたのですか?」

 神託を聞くよというよりも今回は本当に質問会のようだ。そして、やはり彼は私の状況に納得がいっていないらしい。羨んでいるといった方が正しいだろうか。あるいは恨んでいるか。

 機嫌自体は悪くないので、騒ぎ出すことはないだろう。デイスの視線は三人を見回して、最後にリンドウで止まった。司会だからか、それとも先に私に会ったよその神だからか。

「理由としては二つ。ひとつは彼女の魂の状況です。アルヴェニーナは一度死んでいるので、少々例外的な存在なのです」

 デイスがばっとこちらを見る。ルリは知っていたけれど、デイスは知らなかったからだろう。結構誰にでも一度死んだことは話しているので、知られても問題はない。今回はダンマリに徹しているので黙殺して二つ目を待つ。私としては理由は一つだと思っていたのだけれど。外の話を聞けるというのは、あまり神子の前で出していい本音ではないように思うし。

「ふたつめは、ダリア……赤の神が、私の元に彼女を連れてきたからですね。それも、彼女が二度目だということが理由だとは思いますが」

 視線が一斉にダリアに集まる。そういえば、連れて来られたから会ったってのはどうしようもない理由である。

「ん? ああ、まあそうだな。ニーナをリンドウのとこに連れてったのは、二度目だったのが理由だ。あと、気に入ったからってのもあるかな」

「私情だったんですか……?」

「私情だよ。グリだって私情で自分の神子を俺らには会わせないって判断したんだ、同じことだろ?」

 瞬くルリに平然と、いつもの調子で答えるダリア。私情という言葉で名前を出され視線が一斉にグリに移動すれば、彼女は一瞬だけダリアを睨んで微笑んだ。崩れない美しい顔は女神さま仕様なのだろう。言葉が続かなかったところをみると、誤魔化しの笑顔だったようだが。

「出会って一度目で、そんなに気に入るようなところがその神子にあったと……?」

 声には敵意が籠っていた。私情について説明がなされないと判断したからか、デイスは苛立ちをこちらに向けるようだ。ダリアを責めるつもりはないようだけれど、その言い方は私にもダリアにも喧嘩を売っているように思うのだが。

 とはいえ元より敵視されているので構わない。ダリアも、些事に憤るような心の狭いたちではない。基本三名とも度が過ぎるほどにおおらかだ。デイスの感情を鼻で笑って、肩を竦める。

「あったぜ。そりゃお前よかあるよ。人からもらった名前で自分を肯定して、胸を張ってアルヴェニーナとして生きられるような…………あ、もしかして名前くれたのが好」

「待って待って待ってダリア様!?」

 言葉の途中で気付いたようにこちらに向けて放たれそうになった秘密の話を、めいっぱい声を張って止める。なんでこの神様はこんなに大勢の前で人の秘密を暴露しようとしているのだ。ルリとデイスの前だし、二人がそれぞれ関わりがあると知っているのに。ひどい。ありえない。デリカシーがないにも程がある。

「そ、そういうとこがあるから、グリ様にもリンドウ様にも自分の神子と会わせたくないって言われるんですよお……」

「ご、ごめん」

 勇気を振り絞って抗議をすれば、素直に謝ってくれた。謝ってくれるのは彼の良いところだと思う。斜め向かいで噴き出すのが聞こえたけれど、リンドウとグリだろう。

「あの、あとはあれ。第一声がこんにちはだったから?」

 ダリアは笑って誤魔化すように続けた。なんだ、その気に入る理由は。理由になるともならないとも言えない理由はまったくうけなかった。挨拶は大切だろうけれど、きっと他の神子はもっときちんと挨拶をしていると思う。

「納得いきました? 緑の神子よ」

「……はい」

 リンドウが笑いをこらえながら問えばデイスは頷いた。多分完全に納得はしていないと思うけれど、ノーと答えてこれ以上出てくるものはないと察したのだろう。

「あの。最初はニーナだから会ったのに、今は全員と会っているということは、別に神子は他の神に会ってはいけないって決まりはないんですよね?」

「? そうですね」

 次に手を挙げたのはルリで、考えるように眉を寄せてリンドウを見る。訝しんでいるような顔はあまりルリらしくない。リンドウから見てもそうなのだろう。首を傾げつつ何を言うかと身構えているようだ。

「だとしたら、なんで三名の神子の制度なんてあるんですか?」

「それについては、あなたの牧師に聞くべきでしょう。ああ、ニーナの牧師の方がいろいろと教えてくれるのでしたか。今は好奇心の段階で聞いているようですが、誰も教えてくれず、どうしても知りたいのであればまた……二人のときにでも教えましょう」

「……はい」

 ぼかすような答えに、ルリは微妙な表情をする。誤魔化された気がしているのかもしれない。こちらとしては、リンドウはよく明言を避けたなという感じだ。一応、どこまで言って良いのかのラインがわからないから気を遣ってくれたのだろう。

神様たちは、別に三名の神子の制度など必要ではないのだと思う。前に、三名ともの神子をやっていた神子の話も聞いたことだし。探してみれば、それっぽい年はあったけれど、一人の神子が三名分兼ねていたという明記は見つからなかった。つまりは人間側の都合だろう。替えのことだとか、神殿側と城側の勢力のことだとか、そのあたりの。

「もう一つ聞いてもよろしいですか?」

「どうぞ」

「エルドシャ様もニーナのことをニーナって呼んでらっしゃるんですか?」

「えっ?」

 ぽかんと、リンドウが口を開けて驚く。自分が呼び方を間違えていたことに気付いていなかったらしい。私も聞いてすぐに思いスルーしていたけれど、耳聡く気付いたルリは言及することにしたようだ。多分ルリに釣られたのだと思うけれど、なかなかに迂闊だった。

「ええっと、アルヴェニーナに、あなたからそう呼ばれていると聞いたのとダリアがそう呼んだので私も同じように……」

「先に呼んでたのはお前だろ」

「ダリア!」

 先ほど笑われた仕返しのつもりか口を挟んだダリアを呼んで制する。私のことを最初に愛称で呼んだのは、とはいえ確かにリンドウの方だった。

 といっても、ルリの真似でもあるから、そう浮気を見抜かれたかのように焦る必要はないと思うのだけど。視線を逸らしてわかりやすく動揺しているリンドウ。ルリを見れば彼女は別に怒っている風ではなさそうだ。

「私のこともルリと名前で呼んでいただけませんか……?」

 代わりにおずおずと可愛いことを聞いていた。けれど、不自然な質問に今度は私が首を傾げる。

「え、リンドウ様ってルリちゃんのことルリって呼んでるんじゃ」

「ちょっニーナ!!」

 そして制された。これは、もしかして呼んでいないのか? 本人のいないところでは名前を呼びつつ本人には呼べていないのか。

「エルドシャ様、私にはいつも神子って呼ぶんだけど」

 ルリも察したようで視線をリンドウに向ける。リンドウは、視線を彷徨わせたが助けを求める先が見当たらなかったようで、数秒苦悩したのち、きれいに笑顔を作った。

「今まで互いしか居なかったのと、あなたが役目で私の元を訪れていたから神子と呼んでいただけです。あなたがそうして欲しいというのならばルリと呼びましょう」

 挽回の早さはさすがだったが、耳が少しだけ赤いのが、斜め前からよく見えた。隣のダリアやグリには一層よく見えているからだろう、にやにや笑うダリアと笑いをこらえるグリもしっかりと見た。

 そんなこんなで、リンドウと私の二名程が事故をして無事、六者面談は終わった。あとからも三名の愛称のことだとか質問があったけれど、終始黙っていたグリはともかく、リンドウは半分くらい本性がばれていたと思う。

 リンドウに疲れが見え始めたところで、解散の流れとなって三名と三人が元の位置に戻り、別れる挨拶をする。多分この後神様三名は反省会だろう。

 瞬きの間に部屋が元の、ダリアの部屋に戻る。他の二人もそれぞれの神の部屋に戻っていることだろう。

「リンドウの奴、半分くらい墓穴掘ってたな」

「もう半分くらいはダリア様のせいだと思います」

「拗ねんなよー」

 私もやらかされかけたことだしと文句を口走ってみれば、茶化すように頭を撫でられた。拗ねても許される環境がどうにも嬉しくて、ついでに頬を膨らませれば今度は頬をつつかれた。相手が上の立場なのに自分の態度もどうかと思うが、ダリアはダリアでまったく反省していない。この神様め。

「ま。これでお前に妙な負担もかからなくなったし、問題の元凶は八割俺ってことになったし上々だろ?」

「それもそうですね。ありがとうございました」

 他の神様との違いを敢えて見せて、私の特異性ではなくダリアの特異性が問題なのだと刷り込むことは、確かに成功しただろう。そこまで考えてくれているとは思わなかったけれど、自己申告されたので丁寧に頭を下げる。何もかも彼が元凶で、彼のおかげなのだから、プラスマイナスゼロだろう。状況的には圧倒的プラスなはずだけれど、そう思ってしまうのはやはり、先ほどまでのことを引きずっているからだった。

「それじゃあ、今日は帰りますね」

「おう。また来いよ、あとコンパクト使えよ」

「はあい」

 あちらから使えと言われたら使わないわけにはいかない。今もポケットにあるコンパクトを服越しに撫でて再度お辞儀して部屋を出る。次来る時までに一度は使わなければ。

 暗い道を明かりを持って早足で進めば、すぐにアルヴァトトの元へ戻る。通路から見えるのは腕を組んで椅子に座り、こちらの通路を見ているアルヴァトトだ。

「ただいま戻りました、アルヴァトト様」

「おかえり、アルヴェニーナ」

 私の姿が見えると同時に立ち上がってくれたアルヴァトトに声を掛ける。おかえりと言ったアルヴァトトは、そのまま帰る姿勢になった。あまりここに居たくないのだろう。カンテラを定位置に戻して、そのままついて行く。同じ部屋で気配を殺して待機していた神官も、そのままついて来た。

「予定通りいったか?」

「はい。ちゃんと六者面談をしてきました」

「それならいい」

 私の口からきいて安堵したようにアルヴァトトは息を吐く。心配してくれていたのだろう。横目で後ろの気配を探れば、前回来た時よりも神官からの視線に含まれた期待が小さくなっているような気がした。全面的に成功でいいだろう。

 外に出ると、既に他の二組は待っていた。私が最後だったらしい。

「すみません、遅くなりました」

「何かしてたの?」

「ダリア様と少し話したくらい」

「仲良いね」

 からかうようにルリが笑う。先ほどまでしていたやりとりを見てそう思ったのならば、否定はしにくいところだった。仲がいいと称されるのは神様相手に不自然なところだが、そもそも神様に抗議したり謝られたりする時点で不自然も何もない。

「それでは、私たちはこれで」

 空気を読むことなく、声が上がったのは緑の牧師の方からだった。デイスは聞きたかった理由も聞けて、自分も全員の神に会えてほぼ満足しているようだが、牧師の方は来たときよりも不機嫌だった。一言だけ言って踵を返す。最後に一瞥されたけれど、その視線は、ただ最初に向けられていた感情が緩んでいるわけではなかったのが気になった。

 変わらないわけではないけれど、新たに感情を付与させただけで。崇拝の目と、厄介なものを見る目を合わせたような目。興味をなくしてくれるのが一番ありがたかったのだけれど、まだ何かありそうだ。

「……本当に特別な神子などではなかったのだな」

 こちらはソドリーで、一言独り言のように呟いて、ルリを促して帰っていく。「またね」とルリと手を振り合う。そうすれば残るは私たちだけだ。アルヴァトトと私と、護衛が二人。

「これで埋没できますね」

 護衛二人に聞かれないようにアルヴァトトに言えば、呆れを含んだ笑顔で肩を竦められた。

「そうだな」

 言った声が優しかったので、本気で呆れられたわけではないのだろう。


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