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季節の女王の物語

夏の女王の決まりごと


 春、夏、秋、冬の、季節を司る女王がいます。

 女王が司るのは、季節の始まりです。

 そして、自分の季節のあいだは、白い塔の天辺の部屋で過ごします。そして季節の終わりを迎えると、星の宮の自分の部屋に戻り、また次に自分の季節がやって来るまで眠ります。


 夏の女王は、そっと息をつくと、ぱっちりと目を開きました。

 部屋は薄いレースのカーテン越しに光が満ちています。

 夏の女王は起き上がって大きく伸びをすると、すぐにベッドから下ります。赤褐色の髪を揺らし、窓辺へと寄ります。

 カーテンを開くと、春の終わりの力強い陽射しをガラス越しに感じました。

 この陽射しが木々を芽吹かせ、葉を開かせたのです。

 夏には、しっかりとした緑となり、太陽の光を受け止めるでしょう。

「ちょうどいい頃あいね。」

 夏の女王がにっこりと笑顔になりました。

 女王たちは、時々とんでもなく早起きや寝坊をして、人々を慌てさせたり、心配させたりすることがあるからです。

 夏の女王が自分の目覚めた時間に満足して、ドレスに着替えようとした時でした。

 ほんのわずかな冬の女王の気配を、ドアの前に感じました。夏の女王は首を傾げます。

 冬の女王は何か落し物をしたのかしら。

 気になって、ドレスを着るより先に確かめる事にしました。

 ドアを小さく開けると、すぐそこに一通の封筒があります。冬の女王の気配はこの封筒から出ていました。

 夏の女王は封筒を手に取りましたが、宛名はありません。

 ますます大きく首を傾げて、封筒を裏返しましたが、冬の女王の署名もありません。

 夏の女王はもう少しだけドアを開き、秋の女王と春の女王の部屋のドアの下をみましたが、そこには何もありません。

 女王は首を反対側に傾げて、ドアを閉じ、封筒の中を見てみる事にしました。

 封がされていませんでしたから、簡単に開きます。

 中にあったのは、一枚の手紙で、短く、簡潔なものでした。

 でも夏の女王には、冬の女王がを春と夏の女王をどれほど心配しているか、とてもよくわかりました。

 春の女王は、大切な人を亡くしたようです。

 それも夏に。

 だから、夏の女王を見ると、悲しかった事を思い出し、顔を背けるかもしれません。

 春の女王の身の上に起った事を知らないまま、春の女王に知らない人のような顔をされたら、夏の女王はきっと傷つき、同時に春の女王の心配をしたでしょう。

 夏の女王は、冬の女王の事を思いました。

 始まる季節の女王と交替し、星の宮に戻ってきた季節の女王は、とても眠くなるのです。

 きっと冬の女王は、急いで書いて、急いで夏の女王のドアの前に置いたに違いありません。冬の女王はちゃんとベッドにたどり着けたかしら? ドアを背に眠ってしまったのではないかしら?

 それでも廊下には誰もいなかったから、冬の女王がちゃんと自分の部屋にいるはずです。次の冬の始まりはちゃんとやってきます。

「ありがとう、冬の女王。」

 夏の女王は小さく呟くと、薄緑のドレスに着替えて、自分の部屋をそっと出ました。

 星の宮の扉が開きます。

 夏の女王が、春の昼下がりの陽射しの中に踏み出すと、星の宮の扉は静かに閉まり、銀色になりました。


 春の女王は、やはり顔を上げることなく、肩を落として白い塔の階段を下りて行きました。

 白い塔の扉は、金から銀になり、やがて白に戻りましたから、春の女王は自分の部屋で眠るはずです。

 夏の女王は、扉が白くなるのを見届けると、大きな窓に向き直りました。

 軽やかに近づき、窓を開くと、夏の女王は大きな声で告げました。

「夏が来るわよ!」

 これが、夏の女王が、この部屋で一番最初にすることです。

 誰に聞かせるわけでも、知らせるわけでもありません。

 季節の女王は、その始まりを司る女王。

 その夏が、良き実りへとつながるか、厳しい日照りが続くのか、夏の女王にはわかりません。

 ただ、夏を生きる者たちの行方を、女王はしっかりと見届ける覚悟なのです。

 その気持ちを新たにするための、夏の女王の決まりごとなのです。


 ◆


 白の塔へは、王様が騎士に命じた日に二回の巡回があります。

 夏の女王による、夏の始まりの宣言は、実は、運のいい騎士が聞いていることがあるのです。

 それは、夏の女王が知らない話です。


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