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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
二杯目  醤油ラーメン 達人向けの逸品
9/59

新たな旅立ち、二人の夢

 ああ、ラーメンの食い過ぎ、塩分過多、脂の取り過ぎで死亡して、異世界転生しないかなぁ。


 などとは思ってはいけない。

 いきなりファンタジー世界に飛ぶとか、どんな打ち切り漫画展開だよ!?


 そう、飛ばない。人はそう簡単には異世界に飛ばないのだ。

 だって、俺はまだ生きているし……


 ………

 ……

 …


 七星慎之介は黄昏ていた。

 手元には屋台修理の見積書。

 もともとからしてオヤジの中古だったので、大分ガタはきていたが、この度見事に昇天召された。

 修理費総額120万。


「移動販売車で中古なら、もっと安く新しいのを買えますよ?」


 とは、修理業者のおっちゃんの言葉だ。


 『終わった』と思う。

 もともとが実家の父に反発して始めた事業だ。長い家出、社会経験だと思えば、十分だと思う。

 地元でどっかの工場に紹介で雇ってもらって会社勤めのサラリーマン。ラーメンはたまの休みに作る趣味でもいいだろう。

 ああ、さらば東京。こんにちは田舎暮らし。


 そうやって……

 そうやって、そこで諦めて、俺に何ができるのか?


 何もなかった。

 七星慎之介には自身の取柄など何もなかった!!


 俺は、七星慎之介は……諦めきれなかった。




 修理総額120万。

 屋台修理の見積書を見て、東雲志織は絶望していた。


 120万は弁償としては最低限の金額。迷惑料、慰謝料、その他諸々を含めると200万近くなるのではないか。そう、志織は考える。


 出せるわけがない。

 飛び出していった実家に今さら縋ったところで無理だろう。

 借金? 返せる当てがない。身体を売れと? 冗談じゃない。

 

 私には夢がある。誰しもが憧れるフードアイドル、その頂点に立つこと。


『まだ見たこともないその頂で、世界で一番おいしいメシを食う!』


 甘いのか、しょっぱいのか分からない。でも、それは最高に幸せだと思う。

 私はそんなひとときを、夢見ているのだ。


 私は負けない。

 私が何とかしなくては。

 どうやって?


 できるわけがない。

 結局……結局、答えはそこへ行きつくのだ。


 ダメだ。それではいけない。同じことを100回繰り返そうと100同じ結果がでるだけだ。変えなくてはいけない。この袋小路を脱出するためには、今ここで私は変わらなくてはいけない。

 

「昔から俺はバカでさ……何をやってもうまくいかなかったんだ。勉強もだめ、運動もだめ、芸術もセンス0。特技なんてものも俺には一つもなかったんだよな」


 突然の七星の独白。けっして他人事ではない身につまされる言葉。

 私だって同じだ。努力は人一倍。結果は人並み、むしろ平均よりも劣るくらい。


「東雲さんだっけ? アイドルなんだよな? いいな……俺なんかと違ってキラキラしているよ。オーラが違う。いや、まあ俺を基準にすれば、みんな輝いているわけだけど……」


 衝撃だった。

 そんなこと言われたことがなかった。

 思ったこともなかった。


「俺はさ……ずっと思っていたんだ。俺にも何か才能があるんじゃないかって。いつか、その才能が開花して誰よりも輝けるんじゃないかって……」


 そんなわけあるはずないのになぁと七星は笑っていた。

 泣くでもなく、怒るでもなく。ただ、


 顔は笑っているのに、その笑顔の何とさみしそうなことか。


 志織はその時、初めて七星の顔を見たような気がした。

 そして、思った。自分は何ということをしてしまったのかと。

 初めて心の底から思った。自分がこの人にしてあげられることは何かと。


 必死になって考えた。

 そして、一つだけあった。


「あのっ! 私、これでもフードアイドルなんだけど、まだ駆け出しで何の力もないの!」

「?」


 それは知っている。昨夜、代金が支払えないことが発覚した段階で聞いたことだ。


「それで……申し訳ないことに弁償できるだけのお金もないの」

「…………」


 それでは何もできないではないか。とは、七星は言わない。

 今、彼女は踏み出そうとしている。それを何とはなしに感じたからだ。


『全ての前へ進むための努力とその意志は尊重されなければならない』


 それが七星のポリシーだ。いや、むしろ世界がそうであって欲しいという七星の願いに近い。


「……それで?」


 だからこそ、志織のその意志を七星は促す。


「うん。それでも私はフードアイドルだから。フードアイドルとして、あなたに対して償いをしたいと思うの。あなたの店を私が流行らせてあげる!」

「……うん。ありがとう。きみの心意気は受け取った。でも……その肝心の店が、今はないんだ……」

「う……」


 非常にとても困ったように言う七星に、思わず口ごもってしまう志織。

 だって、その店を壊したのは志織なのだから。

 だが、それでも七星は志織を責めなかった。彼女が前へ進もうとしていたから。


「それで?」

「そ、それで、あなたの助けになるか分からな……いえ、きっと助けになるようにしてみせるんだけど、一つ提案があるの」

「提案?」


 店はない。金はない。フードアイドルとしての知名度もない。ここまでないないづくしで他に何ができるのか?

 脳内から『?(はてな)』が抜けない七星に、ここだけ自信ありげにビシリと指を突きつける。


「そうッ! キミ、イケ麺コロシアムに出てみない?」


 二章開始しました。ようやく『ラーメンコロシアム編』の舞台である大会が話に出てきました。一章では内容的に悪乗りしまくったので、ここまで長かった……

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