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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
一杯目  創作ラーメン 変人向けの逸品
8/59

皿洗いとは食器を滅ぼすことではなく

 世の中には『ドジッ子』というジャンルが存在する。


 掃除中に家政婦さんが壺を割ったり、コーヒーを運んできたメイドさんがご主人様のズボンにこぼしてしまったりするアレである。


 その場合、転んでしまった家政婦さんのスカートがめくれでしまったり、慌てたメイドさんがご主人様の股間をフキフキしてしまったりしてドキドキニヤニヤな展開になったりするものだが、現実世界ではありえない。

 あれはフィクションである。リアルにはドジッ子なんていませんよ?


 そう、思っていた時期が私にもありました……


 後に、七星は志織を称して、そう追想する。




――バキン、ガシャン、ガシャン、バリバリバリバリーン!!


 何ということ。皿洗いは誰にでもできる仕事。


 故に、見習いに任せ、職場の雰囲気になじませ、徐々に仕事を覚えてもらう足がかりにしてもらう……そういう仕事だと七星は思っていた。


 その過程で慣れない厨房に多少のミスは起こり得るもの。最初は仕方がない。


 だが、目の前のそれはそういうレベルでは断じてない。


 ドジじゃない。言うなれば、あれは(かぶ)いている。

 棚の食器を薙ぎ払っている。


「やめろぉぉぉーーやめてくれぇぇぇーー!!!」


 もはや、そのセリフは店のぶち壊しを行うヤクザな人たちに向けるべきそれである。


 しかし、東雲志織は省みない。媚びも退きもしない聖帝スタイル。


――バキン、ガシャン、ガシャン、バリバリバリーン!!


「頼む。頼むから……お願いだから……キミのこと訴えたりしないから……」


 ここまでくると、もう泣きが入ってきている七星である。


「え? なんで? まだ、一時間は残っているわよ?」


『『『あと一時間も暴れられたら、店が消滅してしまいます!!』』』


 これは紛うことなき志織を除いた全員の心の叫びだ。


「これは凄いな……何故、ここまで失敗をして立ち止まらないのか」

「普通の思考回路の持ち主なら必ず立ち止まる。立ち止まって考えるはずだ」

「だが、彼女の持つ『意味不明な』自信、『正体不明な』責任感がそれを許さない」

「何としてもやり遂げなくては。私はできる。警察は……ブタ箱は嫌だ……と」

「で、見事にそれが逆効果。俺の見たところ、あの屋台……あと五分で墜ちるぞ!?」

「おいおい。城攻めみたいにいうなよ?」

「いや、あんま変わらねえよ!?」


 ざわざわと遠巻きに眺める周囲の客。

 しだいに近隣住民も「すわ事件発生か!?」と窓を開けて、様子を覗いだす。


 これはマズい。


「ストップ! これはストップだ! シンちゃん、無理やりでも彼女を止めるんだ。あと、お前ら。お前らは様子を見に来た周囲の住民に頭下げてこい!」


 見事な陣頭指揮で、事態の収束を図るマサシ。

 この辺は元エリート。流石である。


 志織をたきつけたのもマサシではあるが。


「おい、バカ、暴れるな。いいから落ち着け。一旦、厨房から出るんだ!」

「待って、止めて、離してぇ! 大丈夫だから。私、家でお母さんの手伝いしたことあるから! ちゃんと清算するから」


 清算どころではない。今、彼女の負債総額は幾何級数的に増えている。

 正直、このレベルだと、なあなあで笑って許せるレベルを超えている。

 そして、ついに。


――ボン!!!?


 ラーメンの麺茹で機が火を噴いた。


「「「……………………」」」


 力なく首を振って、ガスの元栓を閉じる七星。

 人形の糸が切れたように座り込む志織。

 マサシも黙したまま『閉店準備中』の札を掲げる。(さすが常連)




 こうして、都内の公園には再び静寂が戻る。


 兵どもが夢の跡。崩壊した屋台の前で、一人、店主が立ち上がる。


「あの、皆さん、すいません……このお店……しばらく臨時閉店します……」


 ………

 ……

 …


 この日、七星慎之介の屋台は閉店した(物理)。




≪一章終了時ラーメン解説≫ 


~極トンらーめん~ 七星慎之介


 『極トン』とは、『究極のトンコツ』ではなく、『トンコツ極まりない』の略称であると七星はしている。

 通常、動物ベースの出汁は、豚6鶏4、豚3鶏7とバランスをとって、出汁をとる七星であるが、このラーメンでは敢えて他の食材を雑味として排す。豚10である。


 今回はマサシの要望に応えて急ごしらえであるため、豚は血抜き等の下ごしらえをした上で、圧力鍋でいったん煮ている。

 恐ろしいまでの粘度はこの処理によって、ボロボロになった骨から出た髄液によるもの。このドロドロによって、最終的に鍋の底の方の沈んだスープは沈殿した豚骨の骨粉で使えたものではなかったとか?


 また作中では深く言及していなかったが、この圧倒的トンコツのイノシン酸が強いスープに対し、タレに使用した昆布のグルタミン酸で旨みの相乗効果を狙っている。そのバランスを強引にとるために、作中では昆布を『ゴリゴリ煮込む』と特殊な表現を用いている。

 普通、昆布はそんなに煮たりしない。そんなことをしては臭みが出てしまう。今回は醤油、酒などでタレとして煮込んでいるので、臭みが気にならない例外パターンである。


 スープ トンコツ(ゲンコツ、背脂、頭骨、足などをバランスみて配合)、玉ねぎ、ニンニク

 タレ  薄口醤油、酒、みりん、昆布、豚肉の旨み

 その他 トッピングはチャーシュー、メンマ、水菜

     他の具材はレギュラーとしては加えず、追加注文とした。

     刻み玉ねぎ、ゴマ、紅ショウガは無料(卓上調味料)


 これで一章が終わります。二章からも同じ更新ペースで上げていきたいと思います。


 本当はプロット段階では、ここまでプロローグでやるつもりだったんだぜ? 無理だろ過去の俺!? 

 そんなノリで始まった今作ですが、今後ともぜひよろしくお願いします。


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