豚神
昨日は新章の構成に忙しく……ゴメン、嘘です。三章に一区切りついて、燃え尽きておりました。
かれこれ、七星慎之介が東方テレビにくるのも三回目。
一回、二回くらいは、まだ慣れてないけど、三回目にもなってくると、そろそろ『いつも通り』という言葉が適応されてもいいだろう。
「じゃ、そろそろ本番で~す! シクヨロ~」
「ハッ!? 軽い! 軽すぎるよスタッフさん!?」
何があったのか。スタッフがやけにフランク過ぎる。
「そうかい? これがウチのノリだから、いつもこんなもんだよ」
嘘です。それは絶対、嘘です。
最初来た時は、もっとしっかりした控え室だった。
なんかこうソファーがあって、テーブルにはお茶菓子、わざわざそれっぽい受付のお姉さん的な人がわざわざコーヒーを運んできてくれたりもした。
そして今。部屋はなく、スタジオ脇に置かれた折り畳みテーブル。イスは何故かお風呂に置いてあるケロハンのイス。呼びに来てくれたのもジーパンにTシャツのラフな兄ちゃん。書類とか持っているから絶対、何かのついでで声かけに来ただけだ。
「いや、落差ありすぎだから!!! つか、キミと俺、多分初対面!」
「そんなことないよ~。ほら、これ見覚えあるでしょ?」
と、見せられたボードには『俺のテープは108式まであるぜ!?』と書かれていた。
つまり、コイツは前回、塩道と対戦した時のAD。
あのノリノリAD三人組の次男坊。
「キサマかぁぁぁぁぁああッ!!!」
あの時はいいように弄ってくれやがって。あの後、誤解を解くのが大変だったんだからな。(注、解けていません)
「やはり、キミは芸人肌、そっち側の人間だったかぁ~。ケロハンにちゃんと座ってくれるなんてわざわざ持ってきた甲斐があったよ~」
「って、これもテメエの仕業かあぁぁぁいッッッ!!」
っと、思わず、俺は喧嘩キックで立った瞬間、イスを思いっきり蹴ってしまう。
いや、すまん! イスくんに罪はないんだ。ただ、目の前のコイツがな?
大魔王級に罪深いんだよ!
「いや~、いいノリツッコミ。勉強になります」
「いっ――!!!」『いや、教えてね~からッ!!!』
あぶない、あぶない。危うくもう一度、コイツにネタを提供しそうになっちまった。
だが、耐えたぜ? そう何度も乗せられてたまるか。
「あっ? カメラさん? 今の絵、取れました?」
「って、カメラ回ってたのかよ、おいっ(´゜д゜`)つ!!!」
と、こんなことをやっていて本番に遅刻した奴は、俺が初めてらしい。
後で他のスタッフからめちゃくちゃ怒られた。
どうして、こうなったし……
などということはあったが、無事収録は始まる。
本戦二回戦、トーナメントは早くも決勝である。
相手はラーメン界の『紅の豚』豚神正。
彼は、ここまで全ての勝負を特濃トンコツラーメンで突破してきた猛者だ。
今回もまた、とんでもないトンコツラーメンをぶつけてきそうだ。
前回の『食材縛り』のように、相手のトンコツを縛れれば、楽な勝負になるのだが、なかなかそう都合よくはいかないだろう。
佐々木との対決の経緯は聞いているが、あの縛りに対する積極攻勢は、むしろ最後まで自分のトンコツを守るための彼なりの防御策だったのだと思う。
『豚ガラがあれば負けない』
そういう執念を感じたのだと佐々木は言う。
「さあ、やってまいりました、イケ麺コロシアム。今回は早くもトーナメントは決勝です!」
「ここまでの闘い。全てが近年稀に見る接戦、名勝負の数々……そして、波乱の展開でした」
司会は一回戦と変わらない顔ぶれのようだ。若い男女の二人組である。
この番組では、いつも一緒のこの二人組。周囲からは『さっさと付き合っちゃえよ!』『もう、結婚すればいいのに』と散々からかわれている。
男の方はまんざらでもないらしく、「いや~」などと言いながら、テレテレと頭を掻いている。
が、しかし、女性の方は『全く』興味がないらしく、そう言った周囲の冷やかしにもの凄く迷惑そうな顔で関係を否定しているのだそうだ。
クックック……素晴らしい。今日も他人の不幸でラーメンがウマい。いいぞ、もっとやれ!!!
「それでは選手の入場です! 変幻自在のラーメンエンターテイナー、創ったラーメンは悉く常識を外す。しかし、ウマいッ!!! それが『ラーメンの定義だ。馬鹿野郎っ!』、七星慎之介選手ぅぅぅ~~~!!!」
うわっ、煽りが恥ずかしい。
こんな口上の後に入場なんかしたくないぞ……
あ、止めて、押さないで! つか、背中蹴るんじゃねえよAD三兄弟!
そして、俺の入場と共にワッと沸く会場。
なんか俺なんかで盛り上がるとか、俺が俺じゃなくなったみたいだ。
『……あっ、大丈夫ですよ。観客には予め入場と共に歓声を上げるよう仕込んでありますから!』
なんだよ、ヤラセかよ! 余計なこと言うなAD、俺のヒーロー気分が台無しだよ。
っと、ボードを掲げるウゼーのが一名いたが、無事入場。
――ガシャン……
突然の停電。静まる会場。スポットライトが、俺とは反対側の入り口で踊る。
「そして、数々の激戦、下剋上が行われるラーメン戦国時代の今大会。
その中で、唯一、危なげなく余裕の通過を果たしているのが、この男ォ!! 第十回大会チャンピオン、三田の名店『ラーメン豚神』店主、豚神正、この人だぁぁぁああッッッ!!!」
盛大に焚かれるスモークの中、現れたのは、トンコツラーメンの神、豚神正。
貫禄のある歩みで悠々と入場――
「ゲ~ホ、ゲホ、ゲホ、ゲホ……ッ!!?」
思いっきりドライアイスの煙でむせていた。
うわっ、演出、台無し!
だが、カメラの映らない舞台脇の方では舞台設営スタッフの『してやったり』なガッツポーズ!?
ああ、この男も俺と同じで、どうやらイジられる星の下にあるらしい。
なんだか親近感が湧いてきたぜ。
「では、両名とも。握手をお願いします!」
スタジオ中央で俺と豚神が並ぶ。
握手は別に構わんのだが――
この男、まともに握手ができるのか?
というのは、この豚神正。誠に言いづらいのだが、その……容姿がひじょ~うに『食材より』なのだ。
端的に言えば、豚そのもの。手が蹄みたいになっているのだ。
スタジオジ〇リの某作品に喧嘩を売ったかのごとく、実写版〇ルコにそっくり。「飛べないブタは~」とか今にも言いだしそうだ。
アカン! これ、アカンやろ~という風貌だ。
しかし、コレはきっと彼の生まれ持っての姿。
こんな奴でも、お腹を痛めて産んだ母親がいるのだ。
ただし、それが人間であったかは大いに疑問の余地あり。
ともあれ、とってもツッコミたい七星だったが、それは失礼にあたるので控える。
「よろしくお願いします」
「よろしくっ! …………ブヒィ」
――!!?
ブヒ。ちょっと待って、今、この人、『ブヒ』って言った。
え? なに、みんな。何で平然としてるの? ねえ、おかしいよね、今、『ブヒィ』だよっ!?
「では、早速ですが、これからお二方が戦ってもらうルールを決めます」
はい、司会クン、この豚発言にはスルーかぁいっ!
いいよ、分かったよ。きっとこれは俺がおかしいんだ。俺だけに聞こえた幻聴なんだ。
「……司会者さん。ルールを『決める』ブヒィ?」
言った! 今、ぜったい「決めるブヒィ」って言った!
「はい、その通りです。お二人が二回戦を戦うルールはこれで決めます!!」
と、ここで司会者(女性の方)が掛け布をとった机からは、ダーツが現れた。
へ? ダーツ? ゴメン、司会さん。俺、話まるで聞いてなかったわ。
諸事情で、きりのいいところまで六月中に終わらせようと、三章は無茶な投稿をしておりました。
四章ではそんなことがないようにペース配分を考えて無理なく続けていこうと思います。
いや~、飲み会の帰りに勢いで書いて、そのまま打ちっぱなしで投稿とかあり得ないよね~




