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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
一杯目  創作ラーメン 変人向けの逸品
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和え玉

 替え玉。それはラーメン界における『ご飯おかわり!』と同等の意味を持つ。

 そして、『ご飯おかわり!』同様に、替え玉をするにはいくつかの条件を満たす必要がある。


 それはスープを残していること。

 おかずがないとご飯が食べられないように、スープ無き替え玉は成立しない。


 東雲志織、一生の不覚。

 私は、すでにスープを飲んでいた……


 ガックリと肩を落とす志織。


『だが、しかしだ。よく考えるのだ志織よ』


 どこかで、神の声が聞こえた気がした。


『お前は本当にスープを全部飲んだのか?』


 いやいや、私はまだレンゲを使用していない。

 あのドロドロゲル状スープのあんちくしょうは麺にくっついていなくなっただけで、私はまだスープをまともに掬ってはいない。

 

 ん? つまり、どういうことだ?


 このラーメンはスープを飲まなくてもスープがなくなってしまうのでは?


 ではでは、この極トンらーめんにおいて、替え玉は成立しないのでは?


 ん~? ならば、今さっき替え玉を頼んだ『マサッち』なる人物はどうしているのだ?


 見れば、彼も空の器。駄目ではないか!

 否、違う。よく見るのだ私。

 

 答えは厨房にあった。


 店主の兄ちゃんはおもむろに『マサッち』の丼ぶりを回収。

 茹であがった麺を入れる。


 そして、なんと、あのドロドロスープとタレを入れ……トングでまぜまぜしたのだ!!?


「はいよ。和え玉、一丁」

「おっ? シンちゃん、あざ~っす!」


 んんん~? つまり、つまり、どういうことか……


――ポク、ポク、ポク、ポク、チーン!


 この替え玉はスープなしに成立する!!!


 何ということ! ここに第三次スープ・替え玉戦争は終結し、『和え玉』という無期限おかわり条約が締結されたのだ。


 言わば、それはラーメンにおける世界平和。


 それを成した店主はラーメン界のガンジー、マザーテレサ、キング牧師。


 よく見れば、『シンちゃん』なる彼、どことなく神っぽい。菩薩めいた顔つきをしている。


 うん。教会のトイレに飾ってあったレリーフに、お顔そっくりの人がいたような気がする。


 おお、南無南無……神よ。ありがとう。

 私も祈っておこう。賽銭は当然ゼロだけど。


 でも、ここまでくれば次の神様のお告げは必要ない。すなわち、


『求めよ。さらば、与えん!』


 ですよね?


「すいませ~ん。こっちも替え玉一つお願いしま~す!」


 ………

 ……

 …


 あ~おいしい、おいしい、おいしいよ~

 私、今、チョ~幸せ。


 この和え玉なら、私は無限に替え玉できる。


 言うなれば、それはトンカツ屋でご飯おかわりした時、ご飯の上にカツが数枚乗ってきたようなもの。


 カツが足りなくなって、ご飯にソースをかけて食べるという貧乏学生みたいなことをしなくてもいいのだ。


 いや~あの時の店主の呆れ顔は今でもよく覚えている。


 誰だってトンカツ屋でソースご飯なんて食べたくないのだ。できればカツをおかわりしたい。

 でもね? (お金がなくて)それができないから、私はソースでご飯を食べるのだ。

 だって、ご飯だけはおかわり無料だもん。


 だが、それも遠い昔に過ぎたこと。今は『和え玉』がある。

 何度でもおかわりできる。


『和え玉』こそ正義。いい時代になったものだ。


「すいませ~ん。和え玉一つおかわりっ!」


 和え玉アゲイン。

 私の声を受けて、店主は僅かに困ったような顔をしながら、新しい麺を茹でる。


 大丈夫。心配すんなって。私、絶対にお残ししたりしないからさ。




 今、自分の目の前には一心不乱にラーメンを食らう女がいる。


 正直、顔も服も胸も懐具合も貧しい感じの女性で、自分の好みのタイプとは程遠い。


 でも、自分の作ったものをうまそうに食ってくれるというのは、料理人として少なからず嬉しいものだ。


 だからかな。三回目の和え玉の時、卓上調味料の刻み玉ねぎを勧めてみた。

 効果はてきめん。

 

 ガフガフガフ。がつがつがつ……


 ハイエナに獲物をとられんと、エサにがっつくチーターみたいな顔をして食べていた。


 すげえ形相だ。女性がしていい顔じゃない。


 だが、気持ちは分かる。

 この極トンらーめん。タマネギと非常によく合うのだ。

 

 どこまでも濃厚で重厚なトンコツに、シャリシャリとした辛味のある刻み玉ねぎがピタリとマッチする。

 重たいトンコツをタマネギの辛味で中和して、辛味がきついタマネギの刺激をドロドロトンコツスープが包みこむのだ。


 こうして、互いが互いを引き立てあう。

 まさに濃厚トンコツにおいて、刻み玉ねぎは運命の出会いと言っていい。


『ああ! 食える! 私、これなら無限に食えるッ!?』


 彼女の心情を今、言語化するなら、こんなところであろうか。

 ちょっと引くけど、まあ喜んでもらえたようで何より。

 

 しかし、よく食うな。コイツはまだ食べそうだ。

 なんか次の麺を『見込み』で茹で始めてもいいような気がする。


「はあ、はあ。おかわりッ! ちょっと、アンタどうしてくれるのよ……」


 はい、ビンゴ。ん? っと、何か味に問題でも?


「もう、ラーメン食ったらお腹が空いたじゃないッッッ!!!」


 確かにタマネギは食感に変化もつけるし、辛さも相まって、さぞ食欲を増進させることだろう。


 でも、さすがにその言いぐさはないんじゃないかなぁ。

止めてぇ! もう、志織の〇〇〇はゼロよ~

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