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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
三杯目  塩ラーメン  玄人向けの逸品
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45/59

ラスト クイーン、ロスト ユア ハート

早く書きあがったので、ノリで投稿を

 負けた。この私が負けた?

 あり得ない。あってはいけない。

 だって、私が負けたら、誰が助けてくれるの。どこに守ってくれる人がいるの。

 誰もいない。この世界で、ただ一人、孤独な私は自分の足で立っていなくてはいけない。


 じゃあ、どうするの? 私が負けたら?

 どうもしない。何も起こらない。ただ、世界の闇の中で人知れず朽ちていくだけ。


「では、塩道選手、今回惜しくも負けてしまいましたが? 一言お願いします!」


 放心していた私が焦点を取り戻すと、そこにはマイクを持った男が立っていた。

 私にそれを向けている。

 私は――


「――嘘よッッッ!!! こんなの嘘よッッッ!!! どうして、私が負けるの!? あのラーメンで私が負けたというの!!?」


 司会の男を突き飛ばす。


「塩道選手!? やめてください! 塩道選手、落ち着いてください!」


 群がるスタッフたちを腕の一振りで吹き飛ばす。


「止めてッ! 暴れないで!! 気持ちは分かりますが、落ち着いてください、塩道さんッッ!!!」


 誰が、誰が私の気持ちが分かるというのか。

 ふざけないでよ。負けたらこの世界では。負けたら死んでしまうのよ!!



 一人の怪物が暴れ回る会場は阿鼻叫喚。

 塩道は、その肥えまくった腕で周りの全てを薙ぎ払う。飛びつき、止めようとするも、丸い肉の弾力に皆、跳ね返されていく。


「塩道さん。一度しか言いませんから聞いてください……」


 そんな中、一人の男が美雪の前に立つ。南条範昌、東方テレビ局長の男。


「あなたを今回、特別に、ここに呼んだのは私です」


 何を言うのか、この男は。




 それはかれこれ十年以上も前だった。

 特に、グルメというわけではない南条だが、この近くに最近話題のラーメン屋があるという。せっかくの出張だ。普段、行かない店にいくのもいいだろう。


 店の名は『にこにこラーメン』、夫婦で経営する小さな町のラーメン屋さんだった。

 

 美味しかった。それになりより温かい雰囲気の店だった。

 最近、何かとうまくいかないと南条がもらすと、「まあ、がんばれ」とチャーシューの端っこ部分を一枚おまけしてくれた。


 気のいいオヤジとまだ若い綺麗な女将さんが営む地域密着の店。

 お客さん一人一人を大切にするという姿勢が伝わってくるような場所だった。


『久しぶりにいい店に出会った。人間の温かさに触れた気がした』


 なんだか、800円で幸せなひとときが過ごせてしまった。

 値段と味以上にお得な気分になって、南条は午後の仕事に向かう。

 その日は、いつになく調子よく仕事ができた。



 それから月日は流れ、五年の時が流れた。


 再び、南条は塩道美雪を見ることになる。自分のテレビ局の番組取材だ。

 その時、『ああ、あの日の店か』と思い、無理を言って自分も同行することにした。

 突然、局のお偉いさんがついてくるということで周囲からは嫌がられた。

 

 まあ、それはいい。そんなことより、あの日のラーメンだ。

 今は塩ラーメンの専門店として名を馳せているようだが、あの時の温かい店の雰囲気は変わっていないだろう……


「あんたッ!? 何やってんのッッ!! こんなんじゃ駄目。使えないわ! お客さんに出せない。全部、捨てて!! もたもたしないで! 早くしなさい!!!」


 自分を出迎えたのは、店主の怒鳴り声だった。


『この給料泥棒』『まともに包丁も使えないのか』『言葉づかいもなってない』『あんたなんかに何も任せられない』


 食べている間にも、店のバイトを罵る散々な罵声が飛び交う。


 ラーメンは美味しかった。あの時、食べた味より格段に美味しくなっていた。

 なのに、味気なかった。


『僅かな妥協も許さない。美しすぎるラーメン美人、職人女将が営むこだわり塩ラーメンの店』


 そんなキャッチフレーズで売り出すことにした。

 番組は話題になり、それからというもの塩道美雪はいろんなメディアで引っ張りだこになった。

 その時、ついたあだ名が『塩の雪女』。冷徹、厳格な彼女の内面、モデル顔負けの美人から、そう名付けられた。


 それから、彼女は『ラーメンオブジイヤー』にも選ばれ、当時、醤油や味噌に負けがちだった塩ラーメンを全国一位にした。

 こうして『塩の女王』とも呼ばれるようになる。


 結局、南条は結果として、自分の仕事で彼女の在り方を肯定したことになる。

 彼女がそう在ることで、店は流行り、客がやってきたのだから。


 そんなの許せなかった。

 あの日、食べた『にこにこラーメン』のファンの一人として。


 そして、それから南条は、自分の手で直々に『イケ麺コロシアム』という番組を企画。

 今回、ついに満を持して、あの塩道美雪を呼ぶことにした。


 氷のように冷たくなった心の『塩の雪女』を叩き潰すために。




「塩道さん、私はあなたが好きだった……笑顔でお冷をくれて、元気に店の中を飛び回る。あの日の『にこにこラーメン』のあなたが私は好きだったんだ。どうして、なのにどうして変わってしまったんだよ!!?」


 突然の南条の告白。ADがカメラマンにカメラを止めるよう指示する。

 

 ここからは番組の筋書きにはない。本物のドラマ。


「決して豪華な店じゃなかったよ。今と違って、高級感溢れるおしゃれな店でもなかったよ。でも、今とは違って、あの店は明るい場所だったよっっっ!!!」


 どうして、こうなってしまったのだろう。

 それでも、自分がこの『塩の雪女』という妖怪を生み出してしまったというのなら、責任を持って自分の手で葬ろう。


「塩道さん、悪いが『塩の女王』の肩書きもこれでおしまいだ」


 塩ラーメンNo1のネームバリューも消え去った。

 余計な重荷は消え去った。


 だからさ。だから、あの日の『にこにこラーメン』の塩道さんに戻ってくれ。

 辛いと思う。苦しいと思う。

 でも、だからこそ、そんな人が安らげる、そんな人であってくれ。


 万感の思いを南条は語る。


 いつの間にか、周囲の人は立ちつくし、美雪は一人、地面で膝をついていた。


「それでは塩道選手、ご退場ください」


 両脇をスタッフに支えられ、美雪が立たされる。

 そのまま、引きずられるように消えていく。



「――すいません。それは待ってもらえますか?」



 それをこの男が阻む。七星慎之介、塩道美雪に引導を下した男。

 一話の中に書きたいことを全て詰め込もうとすると、文章量に差が出ますね。そういう時は二話に分けたりするのですが、そうやってまた話数が増えていく。ちなみに前回は分けられなかったパターンです。

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