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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
三杯目  塩ラーメン  玄人向けの逸品
32/59

ついに出会う

※前回のあらすじ

 七星のチャーハンを奪って満腹至福の志織。空腹にあえぐ七星は一人厨房へと向かう。一方、謎の少女は玄関前でデバガメ。桃色エロ想い。マサシは空気と化す。

 そんな中、自分の存在を消し、帰宅を試みるマサシは運命と出会うのであった。


 コンナハナシカナー(違います)。

「あ、あのっ! 七星さんですか!? 私と付き合ってくださいっっっ!!!」


 女の子は、高校生だろうか?

 可愛らしい子が、これまた可愛らしいセーラー服を着ていた。


――こ、これはッ!?


「おおお、おぉぉぉおおおおお、おまわりさんっ!!? コイツですッッッ!!!」


「――違いますッ!!?」

「マサシ君、正しいッッ!! 七星!? 自首しろ!!!」


「待て、待ってくれ。俺はやっていない!!?」


 ああ、追い詰められた人はなぜこうも気が利かないことしか言えないのだろうか。


「いいんだ。シンちゃん、何も言うな。俺も分かる。男として、俺も分かるよ……でもな? この国では、それは犯罪なんだ」


 神妙に七星の肩を叩くマサシ。私も懐から携帯を取り出す。


「ち、違うんだ! 俺は本当に――」

「これ以上、口を開くな。それはお前の尊厳を貶める」


 静かに、深く重く言い含めるマサシ君。

 ただ、女子高生に手を出した男に尊厳などというものは存在するのだろうか?

 私は無いと思う。


「刑務所までは一緒に入ってあげられない。でも、その前までなら行ける。一緒に行こう、シンちゃん? 罪を償うんだ」


 なぜか手錠もないのに両手を前に出して玄関に向かう七星。

 なんつうか、お前ノリいいな?


「あ~キミ? もう、遅いし今日は帰りなさい。キミは被害者だ。警察の方から注意を受けることがあるかもしれないが、罪に問われることはないだろう……ただ、もう二度とこんなことをしちゃいけない」


 なんか、マサシ君がいつになく男前だった。デキる男の風格がここにはある。

 が、彼はここからはずした。


「あ、あのっ!! 違います! その、そういうのじゃなくて……私が七星さんと話してみたくて押しかけたんですっっっ!!!」


――ッ!!?


「あり得ない。絶対、あり得ない。あってはならない。世界の天地が逆転し、太陽が西から登っても起こり得ない。シンちゃんが、こんな可愛い女の子、しかも女子高生から言い寄られるなんてあってはいけない。キミは間違っている。ないしは世界が間違っている。コイツがモテて、僕がモテないはずがない。そんな羨ましいこと、神が許しても僕が許さない。そうか、許しちゃいけないんだ。なんだ、簡単じゃないか。やあ、シンちゃん、今日からキミがトンコツスープになるんだ。大丈夫、あとのラーメンは僕がつくるさ……さあ?」


 あ、これアカンやつだ。


「キミを殺して僕もしぬぅぅぅぅぅ!!?」


「――ッ!? ファ!? ちょ、おま、やめ……アーッ!」




 七星慎之介の冒険はこれで終わってしまった。




………

……


 とはならないよっ!?

 いや、マジで。


 この後、事態の収拾に多大な時間と体力を浪費した。

 で、結局、それからは解散。


 夜も遅く危ないので、雪那ちゃん(というらしい)は駅まで私とマサシ君で送っていくことになった。



 明けて翌日。


「……で? 何であなたが、またここにいるの?」


「あ、はい……すみません」


 雪那ちゃんは申し訳なさ半分、困惑半分に頭を下げる。

 というもの、


「ヒャッハァァァーー!!? 女子高生だ。我慢できねぇっっっ!!!」

「う~ん、マンダム! セーラー服にエプロンが合わさって最強に見える!?」


 男どもが、イイ感じにHighになっちまっているからだ。


 もう、制服の上にエプロンだなんて、あんなのキラキラして堪らないだろう。

 清純、純真、可憐で清楚。

 男は皆、口では優しい女性がとか、包容力がある人が……などと言いながら、結局は、若くて可愛いロリロリを求めるのだ。

 ああ、だから男って嫌。マジでクソ。憎たらしい。


「シンちゃん!? よくヒヨコのエプロンなんてあったな? お前、最高だぜ!」

「ああ、貰いもんなんだけどな。それより、マサッち、フリルがついてなくてゴメン!!」


「言うなよシンちゃん! ソイツは贅沢ってもんだぜ?」


 パシリッとハイタッチする二人。


 何が贅沢なのだろうか? 私には理解できない。

 ただ、奴らはキモい。それだけは分かる。


「はは……あはははは……」


 困ったように笑う雪那ちゃん。

 なに、っブッてんのよ!? 可愛い子ブッてないで、アンタもキモいっていいなさいよ!!? どうせアンタも男のいないところでは「アイツらマジキモイんですけど⤴ マジウケる~」とか言ってんでしょ!!?


「はあ~、これだから汚れてしまった大人は……」

「キミ? 雪那ちゃんは純粋なんだから汚さないでもらえる?」


 つい態度に出てしまった私に、さも「ああ、悲しいことだ」と首を振る二人。

 マジ、イラッとくる。

 逝ってしまえ!


――ドコッ!! バキリッ!!!


「ひでぶ!?」「あべしっ!!?」


 ふん、またつまらぬものを打ってしまった。


「い、今のは……」

「八極拳よ、雪那ちゃん。アイドルの基本スキルよ」


 今をときめくアイドルたちが、みんな『无二打(にのうちいらず)』とは嫌な基本スキルもあったものである。


「なるほど、シンちゃんの屋台が吹き飛ぶわけだ……ガクリッ」

「八極とは、大爆発のことだ……ガクッ」


………

……


「で、今日来てもらったのは他でもない――」


「チッ、生きてやがったか」「ヒイッ!?」「ああ、ほら、シンちゃんおびえるからおとなしくしてて――」


「みんなには試作したラーメンの味見をお願いしたい。今は一つでもアドバイスが欲しい」


 塩を使えない。

 これが今回、七星のラーメン作りにおいて、大きな足枷になっていた。


 しかし、昨夜、七星はまかないで作ったチャーハンから『旨みを強調することで味付けを濃くしなくても食べれる』ひいては『塩の使用をなくすことができるのでは?』と考えた。


「そこで試作したのがコレだ。鶏ガラをベースにして、濃口で作ったカツオ節、昆布ダシ、煮干しのダシを合わせてみた。スープとしてのバランスはこんなもんだと思う」


 七星の言葉を受けて、試飲するマサシ、志織、雪那の三人。


「ん~、旨みはバッチシだな?」

「うん! 美味しい!!」

「……はい。いいスープだと思います」


 さっそく、肯定的な意見が飛び出す。

 が、それでは、七星としては困ってしまう。


「――と思うだろ?」


 だが、ここに塩をひとつまみ。


「アレ!? さっきと全然違う!」

「嘘!? こっちの方が旨い!」

「……ああ。なるほど、味に輪郭が生まれますね」


「――となるわけだ。ちなみに足したのは食塩で、旨みとかミネラルとか一切ないやつだからな?」


 そう、塩とは単に味をしょっぱくするだけに止まらない。食材の味を引き立てる効果もあるのだ。


 メジャーな例えなら、『スイカに塩』だろう。

 これは塩を加えることで味を引き締め、スイカの甘みを、甘みの対極とも思える塩味で逆に強調することができるのだ。

 他にも、塩大福、塩キャラメル、クッキーに塩を入れた塩サブレなど、応用される幅は広い。


「さらに言うと、これはスープだけの味だ。実際には、ここに麺が加わる。味の足りなさはますます顕著なものになるはずだ」


「ぬう……」

「確かに……」

「………」


 それこそが、塩の持つ力。文化は違えど、どの国にも必ず基本の調味料として、『塩』が存在するのにはわけがあるのだ。


「実際問題、ラーメンに求められる塩分はかなり多い。ものにもよるけど、小さなカップラーメン一つで、実は大人一人が一日に必要な塩分量を軽く超えてしまうんだ」


 最終結論。


「つまり、どうしても塩分が必要となってくるわけだ……」

 実はですね。別パターンも考えたんですよ。


 終電がなくなり、七星宅に止まる雪那ちゃん。

「あ、あの七星さん、シャンプーのボトルが切れてます……」

「ああ、すまん。買い置きあるから持ってく――」

「あ、待って!? 今、開けたらッ!?」

 みたいなパターンとか。


「すまん。うち、布団が一つしかなくて。俺、ソファーで寝るから、雪那ちゃんは布団で」

「いえ、七星さんがお布団で寝てください」

「いや、女の子をそんなところで寝かすわけにはいかない!(紳士)」

「あ、あのなら、私、一緒でも……私、身体ちっちゃいですから――」

「――!?(ナンデスト~~~!!!)」

 なシチュエーションとか。


……いえ、やりませんよ。ノクターンになってしまいます。


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