まかないの時間
七星が使える食材『鶏ガラ』『煮干し』『削り節』『昆布』『ネギ』に対し、
美雪が使える食材は『塩』『昆布』『ネギ』『玉子』『海苔』の同じく五種。
前者は調味料が使えず、後者は出汁系食材が使えないといった構図になっている。
では、どちらが縛りとして有利か?
答えは後者の美雪である。
それは出汁系食材が使えないと言っても、『豚ガラ』『鶏ガラ』『煮干し』『削り節』以外であれば、使えるということであり、その他として探そうと思えば、意外と代用が効く。
例えば、ここにないもので言えば、乾燥させたホタテの貝柱、スルメ、ハマグリなど貝類全般の出汁がそれに当たる。
これらがあれば、魚介系出汁の塩ラーメンの一つくらいはできそうなものである。
対して、『醤油』『味噌』『塩』を封じられた七星はどこに活路を求めるか。
「ぬ~コチュジャン、トウバンジャン、テンメンジャンは『味噌』としてカウントするから駄目らしい。味噌と同じで豆系の加工品だからな」
「え~じゃあどうすんのよ! 七星!」
「それで使えるのは……酢、砂糖、みりん、酒、マヨネーズ、ケチャップ、あと、ソースはいいらしい」
「……塩分を供給できるのがケチャップとソースくらいね」
「それで必要な塩分を満たそうとしたらケチャップ&ソースラーメンになるぞ?」
「何それマズそう」
「うん、さすがの俺も試合ではやらない。ちょ~っと、恐ろしいことになりそうだからな。
まあ、それはそれとして……」
「な、なによ……」
「なんでアンタら俺んちいんの?」
そう、何故か七星の自宅に志織とマサシの二人がついてきていたのだ。
予選時には手伝いを頼む都合、何度か来てもらった二人だが、今回、一回戦は個人戦。
こういっては悪いが、特に手伝ってもらいたいこともないのだ。
「なんだよ、つれないなシンちゃん、買い物の足ぐらいにはなってやるぜ?」
「ほ、ほら、味見とか! 他人の意見を必要とすることもあるでしょ!?」
「…………」
七星の改造ワゴン『覆面屋台号』は現在、故障中。(志織に破壊された)
修理の目途は未だ立っていない。
マサシが買い物の際に車を出してくれるというのなら、それは確かにありがたい。
「今が夜遅くでなければね。マサシ、キミはこの時間に、どこで何を買うつもりなんだい?」
「そ、そりゃあ、アレだ。いろいろ必要なものもあるだろう?(汗っ)」
具体的には何もないようだ。
「な、なら私は何が問題なのよ――」
「言わせるのか?」
志織に至っては言語道断。コイツは何を食べても「おいしい」としか言わないのだ。
そんなやつに味見をさせても何の参考にもならない。
え? フードアイドルとしての経験から舌は肥えているはず?
笑わせないでくれ。コイツは腐ってなければ、何でも口に入れちまう女なんだ。
「「…………」」
「で? 本音は?」
「「まかない、食わせてください!!(お腹いっぱいになったら帰ります)」」
「最低だな!! お前らッッ!!!」
仕方なく台所に立つ七星。
中華鍋に、適当にあり合わせの食材を放り込んで炒めていく。
本当に適当だが、文句は言わせない。
「な、なあ、シンちゃん、それ傷んでないか?」
「熟成が進んでいると言ってくれ」
「な、何よ、この油!? 変なのが浮いているんだけど!?」
「嫌なら食わなくていいぞ?」
そう、七星の家には、魔女の実験室かと思うほどにちょっとアレなものが多いのだ。
そのほとんどは、新作ラーメン作りのための試作過程で生まれたものなのだが、一部は明らかに不良在庫と思われるものがあった。
で、七星は、この二人が何でも食べられることをいいことに、これ見よがしに残飯処理をさせているのだ。
「ホイっ! 崩れチャーシューのマル秘油チャーハン……」
「ぬ、ぬう……」
「見た目は、美味しそうなのが困るわよね」
どうして、こうなるのかは分からない。
毎回、見た目は明らかにヤバイものを使っているのだが、出来上がりだけは必ず外さないのだ。
しかも、これが何故かウマイ。悔しいことにウマいのだ。
「ホレ、お前ら運べ! 俺はスープをよそるから」
「へ~い、大将。合点だぁ~」
勝手知ったるなんとやら。
マサシは当たり前のようにスプーンを引き出しから三つ用意して並べる。
志織は、いそいそとチャーハンを運んだあと、座布団を並べていた。
ちなみに、志織が如何にデストロイヤーであっても、食器を運ぶくらいはできる。
まあ、それすらできないようだと、それは日常生活に支障をきたすレベルなのであるが。
「「いただきま~す!!!」」
七星が、まだ座りきっていないのに食べ始める二人。
――ガツガツ、ガツガツガツ!!!
欠食児童のように口に流し込む志織。
七星に「お疲れさん」と軽く労って、おとなしく食べるマサシ。
『ああ、これで男女が逆だったらなあ』と独身男性の七星は思わざるを得ない。
なんともままならない。悲しい世の中だった。
「な、何だろうコレ? 細かく刻んだ『おしんこ』か? コリコリして、けっこうウマイのな?」
「ああ、レタスチャーハンとか『たくあん』のチャーハンとか知らないのか?
チャーハンなんて、どうやって作っても油メシ炒めだからな。だから、飽きさせないように、こうやって食感と味に変化をつけるんだ」
「…………(モグモグ)」
「前者はとにかく、後者はそんなメジャーじゃねえよ………」
七星のちょっとした講義に「そうなのか~」という目をしながらも、一向に食べる手を止めない志織。
「へ~こいつ、ラーメン以外にも、変なこと知ってんだな?」と呆れ半分、感心半分で頷くマサシ。
「和洋中、ラーメン作りには何でも応用できるからな。これで色々、勉強してんのよ?」
「――いや、そもそもラーメンは中華だろ!?」
「中華料理の頃の面影ないけどな。もはや、ラーメンは完全に日本のもんだ!」
「中国人、怒りそうね?」
「いや、これが海外では『日式拉麺』として逆輸入されていたりするんだな」
「それは、まあ、確かに……」
「料理の魔改造は、日本人の得意技だからな。いいんじゃないのか?」
「まあ、何にせよ、ウマければそれでいいッ!!」
「そうだ、シンちゃん、『おいしい』は正義!」
「几帳面とか言われるけど、日本人もたいがいテキト~だよね」
こうして、和やか……じゃなくて、にぎやかに七星家の食卓はすぎていく。
≪一方その頃≫
雪那は、スタジオから出てきた七星の跡をつけて、七星家アパートまでやってきていた。
なかなかの行動力である。
しかし、そこから後が続かない。
なぜなら、自分は七星の次の対戦相手、塩道美雪の娘である。
言うなれば、敵の娘だ。
どんな顔して会いに行けばいいのだろう?
これが問題だった。
ともあれ、ドアの前に張り付く雪那。
その見た目が、見目麗しい女子高生のそれでなければ、完全ストーカーの現行犯だった。
別に、見目麗しかろうが、女子高生だろうが、ストーカーはストーカーなのだが、そこはそれ。見た目40代の醜いおっさんがやるのと、幼さ残る可愛らしい少女がやるのとでは、受ける印象は180度違うのだ。
――ここに世界の不条理がある。
と、どうでもいいことは置いておいて、即座に通報されないながらも、雪那視点からは、ざわざわと通りがかった近所の人達から噂されているような気がするというもの。
たいてい自分が気にするほど、相手は関心を寄せているわけではないのだが、やましいものを心に抱えると人はどうにも気になってしまうのだ。
とまあ、周囲が気になって仕方がない雪那であったが、かといってチャイムを押す度胸もなかった。
いきなり、それは恐れを知らなすぎる。
「こ、ここはタイミングを覗いましょう!」
問題を先送りする雪那だった。
しかし、ここで七星は二人のためにチャーハン作りを始めてしまう。
ジュージューと響く、食欲をそそる音楽。
換気扇の窓からは、香ばしいネギや生姜を炒めたであろう、たまらない匂いが漂う。
「う~でも、夜遅くにご飯を食べるのは~」
実に、どこぞのフードアイドルに聞かせてやりたい言葉である。
「「いただきま~す!!!」」
ついには食事を開始してしまう。
今チャイムを押すのは邪魔者以外の何物でもなく、ますます踏ん切りがつかなくなる雪那。
そして、相も変わらず、美味そうな匂い『だけ』を供給し続ける換気扇。
この時ばかりは、現代における最凶の拷問器具と化していた。
扉一枚隔てるだけで、天国と地獄。
「う~どうして、こうなったの……」
雪那の受難は続く。
∧,,∧
(;`・ω・) 。・゜・⌒) チャーハン作るよ!!
/ o━ヽニニフ))
しー-J
このAAをつくった人は天才だと思う。




