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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
二杯目  醤油ラーメン 達人向けの逸品
20/59

決着

「さあ、ここで七星選手、3杯追加。これで90杯! ジワリ、ジワリ、トップ佐々木に近づいてくるぞ!?」

「はい、この終盤で、この仕事。彼はラーメン職人として、そうとう鍛えられていますね!」


「そうです! 何故これほどの料理人が今日まで無名だったのか!? 我々、メディアはこのような男を見逃していたなどと、何をやっていたのか!」

「はい、それも今日までです! これより、我々は! 世界はッ! この若きラーメン職人を括目することでしょう、なんとここで92杯ッ!!!」


 盛り上がる実況、白熱した一騎打ち。

 必死に追走する七星。しかし――


「97!」「98!?」「99………」

「100ぅぅぅーー!!! やはり、予選一番通過はこの人。佐々木小次郎だぁぁぁ!!!」


「さすが、今大会ナンバーワン優勝候補! 圧巻! 終始ペースを崩さずトップを走り続けました。

 魚介のサムライは、現代においても強かったぁ!!!」


 第4ターム33分と20秒。

 開始から通して2時間48分で、佐々木は予選突破となった。



――プゥゥゥーー!!!


 ここで、第4ターム終了の笛。


 七星は結局この第4ターム、97杯。あと3杯足りないところで終わった。




≪ラーメン『燕屋』≫

 

「100杯突破です! 佐々木選手おめでとうございます!」


 祝勝ムードの『燕屋』。この熱い戦いの勝利に歓喜で沸いていた。


 ただ一人、この男を除いて。佐々木小次郎。


「では、第5タームも営業続行でお願いします」


――!?


 やって来ていた大会スタッフに驚きが奔る。

 なぜなら、大会のルールでは、予選突破したブースはそのタームが終了した後で、そのまま自分のブースの営業を続行するか、終了するかを選ぶことができる。


 この場合、佐々木は間違いなく営業終了すると思われていた。


 だって、そうだろう。

 もし、この第5ターム、営業続行などして七星のブースに追い抜かれでもしたら、せっかくの完全勝利にケチがついてしまう。

 ならば、ここは早々に暖簾を下げて、高みの見物と洒落込むのが得策。


 理外の選択。

 だが、佐々木は揺るがない。


「ええ、まだまだ食べたい客がいる。まだまだ出せる店がある。

 なら――やる! そうでしょう? それとも、この第4タームで試合終了なのですか?」


「い、いえ……続行します」


 思わぬ気迫にただ頷く大会スタッフ。


 彼は佐々木を舐めていた。佐々木という漢のその信念、姿勢、その心意気を。


 佐々木小次郎にとってラーメンをつくることは、仕事ではない。

 人生を活きるということだ。

 『ワーク』ではなく『ライフ』なのだ。


「な~に、ここでキッチリ勝ち切って、格付けも済ましちまおう……そういうことだろ、アンタ?」


 そんなこと腹の底から知っていた妻、美和子は、僅かに疲れを見せつつも笑顔で小次郎の胸を叩く。


 少し痛くとも、心に気持ちいい、愛する者とのそんなやりとり。


「ああ、いつも無理を言ってすまない。よろしく頼む、美和子!」


 笑いながら、拳を返す小次郎。


「おっと、アンタがやったらセクハラだよ!?」

「あれ!?」


 が、それはヒットする直前に躱された。


 こうして、試合は第5タームに突入する。




「さあ、ラスト第5ターム! 泣いても笑っても、ここでゲームは終了となります!」

「はい、大会運営よりお知らせします。会場の皆様、これが最後のタームとなります。皆様におかれましては、お食べ逃しがなきよう、最後までお楽しみください!」


「さて、ここで大会運営から最後のサプライズ! 

 もっとラーメンを食べたいという皆様! 我々は運営よりもう一枚、食券を配布する許可を得てきました」

「はい、追加食券希望の方は会場受付までお越しください! 係りの者が配布致します」


「それでは最後の45分になります」

「では、どうぞ第5ターム開始いたします!」




 ついに始まった、七星VS佐々木小次郎。第5ラウンド。

 決戦の時。


≪ラーメン「   」≫


「麺の硬さ、『普通4』『カタ3』『ヤワ1』!」

「――ッ! 麺は6玉までしか一度に茹でられない! 『ヤワ1』、『カタ3』から対応する。『普通』の人はちょっと遅れる!」


「了解! 大丈夫、茹で具合によって順番が前後するって、伝えてある!」

「応ッ! 頼んだ!」



≪ラーメン『燕屋』≫


「オーダー通すよ! 『ヒヤ4』、『アツ2』……その後、『ヒヤ3』『アツ3』で入るよ!?」

「了解!『冷や盛り4』『熱盛り2』確認! 『熱盛り』から先にでる! 準備して!」

「了解! トッピング準備完了。氷、補充、いきます!」



 一進一退の両者。


「さあ、ここで七星選手のラーメン「   」、100杯突破。予選通過となります!」


 ここで、開始5分。100杯を突破する七星。

 しかし、会場の注目は、そこにはない。


 皆の注目は七星と佐々木。

 若きラーメン職人、二人の対決の行方にあった。


 ジリジリと近づく七星。猛然と逃げる佐々木。

 その差は縮んだり開いたりを繰り返しながら、時間だけが刻一刻と減り続けていく。



≪ラーメン『燕屋』≫


「チャーシューブロック残2! 在庫なくなります!」

「チャーシュー了解! ……残り時間、もつか!? 美和子ォ! 待ちの人数確認お願い! これ出したら、残20!」

「了解! アンタ、ここまできたら売り切りなッ!」



≪ラーメン「   」≫


「シンちゃん! 洗い場一旦ケリつく。トッピング入るかい!?」

「頼んだ! もうこのあとは、出した丼ぶりが試合終了まで返ってこない。ジャスト全部使い切ってラストスパート賭けるぞ!」


「了解! 補充行って、すぐトッピング入ります!」

「サンクスッ!!」


 マサシは本当によくやってくれている。

 志織も本当に頑張ってくれた。

 慣れなくてきつい仕事に対し、これだけ必死になってやってくれた。


 それだけで、七星としては心から二人に感謝したい。

 ありがとう。

 

 そして、七星は目を閉じる。



――プゥゥゥーー!!!


「試合しゅ~りょぉおぉ!! 135対128!!!」


「この対決、勝利を決めたのはラーメン『燕屋』店主、佐々木小次郎だぁぁぁ!!!」


 悔しくはある。

 反省点は多い。自分には至らないところだらけ。

 心には苦さが残る。

 

 ただ、恨みのような黒い感情はなかった。


「……勝ちたかったな」


 それだけが心残りだった。



 予選通過者、二名。一位、佐々木小次郎。二位、七星慎之介。

 こうして、B会場の予選は幕を閉じた。

 予選としては、これで終わりですが、二章はあと2話続きます。

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