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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
二杯目  醤油ラーメン 達人向けの逸品
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猛追する職人芸、疾走する意地

「アレ、おいしそう。食べてみたい」

「なっ!? 美味しい。止まらない」

「なんか、あいつ、すごいウマそうに食ってんな……」


 志織を原点とするこの食欲の連鎖は、1人から2人、2人から4人、8人へとネズミ算的に拡大していた。


 こうなると誰も止められない。

 今や食べる客が、新たな客を呼ぶ一つの大きな渦になっていた。

 

 150人の一般客という狭い市場では、これはもはや猛威と呼ぶしかない。天災もかくやという勢いで七星のブースに人が集まっていた。


 それを捌くのは、若きラーメン職人、七星慎之介その人。


「マサシ! 麺あがる。2、2、1人前だ! 東雲さん、次の客のオーダー頼む。そのあとは行列整理だ。多店舗に迷惑かけるなよ?」


 彼は、最も神経を使う『麺茹で』と『スープ管理』、さらには『トッピングの補充』まで一手に引き受けながら、全体の統括まで行うという八面六臂の活躍をみせていた。


「マサシ! 麺箱の麺、二つ持ってきてくれ。あと、冷蔵庫からチャーシュー2本。あと、持てるなら他の足りなくなりそうなものを自分の判断で補充してきてくれ!」


 マサシが離れた隙は七星自身で担う。


「お待たせしました。ラーメン大盛りになります!」


 なのに、客に出すペースは全く衰えていなかった。

 それだけ七星の手順管理が極まっているのだ。僅かな停滞も許さない。完璧な人員、設備の効率運用で、過負荷なオーダーを支えきる。


 目立たぬがこれもまた職人芸。それも神域に至るほどの技。

 まさに神技。




≪ラーメン『燕屋』≫


 店主、佐々木小次郎もまた一流のラーメン職人として自分の店に生じた僅かな変化を確実に捉えていた。


「客の心が離れていっている……」


 序盤の立ち上がりで、確かに会場内の空気は全て掌握したはずだった。


 全ての客は自分のラーメンを食い、早々に1人だけ予選突破。その後で他の店はゆっくり下位争いでもしてもらえばいい。

 

 そう思っていた。

 だが、今、隣のブースが猛追を見せている。

 恐ろしいペースで行列を捌いていた。


「凄いな……」


 素直に感心する。

 見たところ向こうはこちらよりも一人少ない人数で店を回している。こちらは、


 麺茹で、スープ管理に1人。(自分が担当)

 トッピング、客への提供に1人。

 洗い場、補充に1人。

 行列整理、接客、オーダー確認で1人だ。


 向こうは、こちらが1人でやっている『洗い場』と『補充』の担当をそれぞれ『補充』を七星が、『洗い場』をサポートの人間マサシが行っている。


 あのスピードで回すなら、凄まじい仕事量だろう。

 しかし、破綻させずに店を回転させていた。


「アンタ、しっかりしな! 行列の後ろの方の客が、隣に流れていってるよ! もっと提供早くできないかい?」


 鋭い一括は妻、美和子のもの。


 彼女とは父の剣道場で知り合った。

 旧武家の娘である彼女は仕草の一つ一つが洗練されていて、まさに清楚でおしとやかを体現したような少女だった。

 もちろん、当時の彼女はモテた。まるで漫画やアニメのような冗談みたいなラブレターの山というのを初めて見た。


 そんな少女の心を偶然にも自分が射止めて、こうして結ばれることができたのは望外の喜びと言えよう。

 あの時の可憐さは今でも変わらず、店でも現役の看板娘として活躍してくれている。


 ただし、一つだけ変わったことがあった。

 いつの間にか、自分と店を切り盛りするうちに性格がかなり『男前』になってきたのだ。

 そればかりは、佐々木小次郎にとっても想定外のことと言えよう。


「やはり、ラーメン屋などという粗野な商売がいけなかったのだろうか……」

「なにブツクサ言ってんのさ! 口より手を動かしな!」

 

 今でも、時々こうして悩んでいる小次郎だった。


「で、どうなの? 早く出せるの?」

「すまない、美和子。これ以上は無理だ」


 なぜなら、七星のラーメンと佐々木のラーメンには決定的な違いが一つある。


 それは麺の太さ。


 つけ麺は通常のラーメンよりも深く麺の風味を味わえる食べ方だと小次郎は考える。

 故に、麺そのもののインパクトを求めて、極太麺を選択していた。

 その茹で時間は実に7分半。


 一方、七星の麺は多少特殊な麺を使っているようだが、基本的には中細麺。

 せいぜい長くて茹で時間は2~3分程度のものだろう。


 ここから佐々木のつけ麺にはさらに麺を冷やす工程が加わる。

 トータルでの調理時間ではかなりの差が出てしまっているだろう。

 だが、物理的にこの時間は縮めることができない。


「そうかい。分かった! なら、こっちで客引き、接客して、お客さん引き止めとくよ。大変だろうがアンタも頑張りな!」


 バシリと背中を叩かれる。

 ことラーメンにおいて、自分が無理と言ったら無理なのだ。

 それを彼女は分かってくれる。


 まったく……だから、今でも自分は彼女に惚れ続けているのだ。


「……ああ、美和子。愛しているよ」

「――!?」


 茹ったように顔を真っ赤にして、行列を整理しに行く我が妻。

 こんなところは出会った頃から変わらない。かわいい少女のままだ。


「ヨッシャ、お前ら、麺4丁あがるぞ~! 氷足しとけ!!!」


 再び気合いを入れてザルを振るう小次郎。

 それはそうだろう。


 好きな女の子の前ではカッコいい姿を見せていたい。


 それこそ今も昔も変わらない。それが男の子の行動原理なのだから。

ブクマ一件増えてた。超嬉しい。

読書視点的には履歴からとぶよりラク的なニュアンスしかないかもだけど、作者的には自分の作品が認められたようでマジ嬉しい。


まあ、それは十中八九、僕の感違いなので、冷静に今日も頑張ります。


ひゃっほい!!!

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