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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
二杯目  醤油ラーメン 達人向けの逸品
13/59

チーム七星――

 佐々木の『ラーメン燕屋』の大攻勢。

 その被害を最も受けたのは何処か?

 何を隠そう七星のブース『ラーメン「    」』である。


 ラーメン「   」で『らーめんななし』と読む。

 これは店無しの七星の現状を皮肉った呼び名ではなく、もともとの七星の屋台がそうだったのだ。


 ここにはいくつかの意味や願いが込められているが、その最たるものが『いつか自分がキチンと店を持った時、ここに名前を書き入れるのだ!』という目標であることが、このラーメン「   」になった要因となっている。


 余談であるが、この『ラーメン「   」』という読みにくい名称が『らーめんかぎかっこ』、『らーめんくうはく』などと呼ばれ、いくつかのレビューサイトで混乱を招き、知名度上昇を妨げる要因にもなっていた。

 屋台で店の所在地は移動する、看板の店名は読めないでは、七星の店が流行りようもないというものである。




 閑話休題、なにはともあれ。


 最も、『ラーメン燕屋』からダメージを食らったのは七星だった。

 片や行列、片やガラガラという待ち人数の対比は顧客心理に強く影響し、『あのブースは流行っていない』イコール『美味しくないのだろう』という先入観を与えていた。

 そうなってくると、あの店に行くのは変わり者――もはや七星のブースは入りづらいとまで言えた。


 だが、その理屈は会場のブース全体にも言えること。

 七星たちに一番ダメージを与えたのは『それ』ではない。


 七星のブースは『燕屋』の隣。つまり、彼らの鍋からの匂いが、直で来るのである。

 風通しのよいテントではダダ漏れなカツオ節の猛烈な香り。

 これが何よりもキツかった。


 そして、七星は自身もまたラーメン職人であるからこそ、彼らが何をしているかよく分かってしまった。


「奴ら、提供直前にカツオ節で出汁とってやがるッッッ!」


「へ? それって意味あるの?」


 いまいち、理解していない志織。

 だが、次の七星の一言でその顔は青くなる。


「ある! 和食であるようなカツオ節特有の繊細な香りは時間と共にとんでいってしまう。だがら、客に出す直前、寸胴から使う分のスープを小鍋に移し、そこでサッと出汁をとるんだ。そうすると香りはとばない。要は、和食の技術でいうところの『追いガツオ』だな」


 本当なら、料理に携わる仕事をする者として、すぐ分かって欲しいと思わないでもない七星だが、彼女の過去の『皿洗い?(皿破壊だろ、バカ野郎!)』からして彼女の調理技術など推して知るべし。

 ともあれ、そのあたりを彼女に察してくれというのが間違っていると言えた。

(ちなみに、志織は食材の産地や価格など地理の教科書的な情報には詳しい。「○○県産の××!? さすが味の濃さからして違いますね~」などと(つう)ぶりたくて覚えたのである)


 さて、もう一度、閑話休題(はなしをもどそう)


 佐々木の『追いガツオ』効果である。

 無論、彼は美味しさのために、それをやっている。だが、


「あの匂いのおかげで客がみんな流れて行っちゃったよね~」

「まあ、彼の性格から言って、戦略的にそれをやったとは思わないけど、実際、効果大だな」


「どうすんのさ、シンちゃん?」

「どうもこうも、やめろとは言えないさ……」


 すっかり皿洗い兼具材乗せ要員のマサシは暇をしていた。

 とはいえ、さっき七星が言ったように実際、有効な手立てがない。


 佐々木と同じことをするのは大会規定の『レシピ変更』に当たるし、そもそもからして七星のラーメンが彼のマネをできるような構成ではない。


 ならば、残された手は自身のラーメンをアピールして客を呼ぶしかない。


「そんなわけで、そこなフードル。客引きお願い!」


 なんとも「いけ! ピ○チュウ、きみにきめた!」みたいに送り出す七星。

 しかし、アイドルとしての志織の人気は、ピカチ○ウの10分の1もない。かわいらしさなど比べるのもおこがましい。


「な、何よそれ! なんで私がこんなこと……いい? 見ておきなさい!」(開始時)

      ↓

「……………(orz)」(10分後)


 やはり、彼女に集客など土台無理な話であった。


「だ~めだな、こりゃあ……」

「何よ! アンタがまともなラーメン作らないからいけないんじゃない!」

「おいおい……シンちゃんに『これで行こう!』って猛プッシュしたのは、キミだったような……」


 すっかり、グダグダな七星陣営。


 このままでは敗北必至と言えた。

 その流れを変えたのは、まさかの外部からの声。


「何ということだぁぁぁ! さすがは魚介の名店『ラーメン燕屋』、格が違う。開始数十分で20杯を売り上げ、さらに行列は伸びていくぅぅぅ!?」


 七星はピキリときた。

 なるほど確かに『燕屋』とうちでは知名度が違う。

 だが、今は同じ選手同士。『格』を競うために戦っているのに、『格が違う』とはどういう言い分か!?

 俺たちは引き立て役のモブではない。競争相手(ライバル)だ。


「ああっと、これは早くも勝負あったかぁ~!? ラーメン燕屋、行列を伸ばし完全独走態勢だぁぁぁ~!」


 さらに煽る実況。

 

 七星はそういうのが嫌いな人間だった。

 彼は、その人生をいつも否定されて生きてきた人間。

 父には「店を継がせん」と言われ、同級生からは「臭い」と嫌われ、好きな女の子からは「私、メンクイだから」とフラれてきた。


 そんな彼の心の中は反骨心で満ち満ちていた。


『何が名店。何が格だ。何がイケメンだぁぁぁ――だったら、顔で麺茹でてみろや、このイケメン野郎ぉぉぉ!!!』


 くしくも目下敵となる佐々木小次郎がラーメン業界屈指の『イケメン』であったことが、七星の心に火をつけた。


「顔だけの奴にはぜっっってぇぇ負けねえッッッ!!」


 ひがみ根性丸出しの実に格好悪い男である。


 しかし、それがまさかの幸運。

 佐々木と七星との間にある『絶対的顔面格差』が七星の闘志を呼び、彼の意識を勝利に向かわせる。


「なあ、マサッち……人が一番食いたくなる時ってどんな時か知ってるか?」


「ん? いい策でも浮かんだのかい?」

「ああ、そうさ。簡単なことさ。『目の前でウマそうに食われた時』さ!」


 来る客もいないのに、猛然とラーメン一人前を作り始める七星。


「ちょっと!? アンタ何やってんのよ!」

「……ラーメン屋が麺茹でて何か変か?」

「だから、客がいないじゃない!?」


 騒ぐ志織に、噴火直前を思わせる雰囲気の七星。

 ジャスト45分。第一ターム終了の鐘と共にラーメンがあがる。


「なあ、シノノメさん? ちょっとステージ行って、コレ食ってこい!!」


 反撃が始まった。

 何かひっぱるかたちになってすみません。

 ただ、そのまま進行するにはいろいろ(七星側状況、七星心理、七星過去、佐々木ラーメン解説、全体の経過、諸々)描写不足があって……


作中にて……

『顔だけの奴にはぜっっってぇぇ負けねえッッッ!!』


「あれ? 七星って、こんなキャラだったっけ?」(作者)

「作者の実生活(リアル)の怨念が乗り移ったんじゃないの?」(後輩)

「ア゛ァァッ!?(顔がイイ奴からだけにはぜってぇ言われたくねえ!)」(作者=俺)


注)七星には結構アツいところがあります。


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