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イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
二杯目  醤油ラーメン 達人向けの逸品
11/59

カツオ武士道、佐々木小次郎

 予選当日。七星たち参加選手は控え室に集められていた。

 集められた選手の数は8チーム。店主だけでなく、補助の人間も今回は加わるため部屋の中の人数はかなり多くなっていた。


 ちなみに七星のチームも、今回は客の誘導に志織、調理補助にマサシを加えている。

 いつも従業員一名で店を回している七星にはまともなスタッフがいないため、急遽特別にピンチヒッターとして呼んだのである。


 選手たちは皆既に、それぞれ開店……否、開戦の準備を終えており、後は大会管理委員から最後の説明を受けて、各自ブースに散開。合図(ゴング)とともに試合開始となる。


 そんな選手たちは皆ピリピリしていると思いきや、意外と和やかなムードで各々名刺交換をしたり、世間話に興じたりしている。

 七星もまた焦るでもなく、興奮するでもなくぼんやりとしながら時を過ごしていた。


「おや? そちら、大会は初参加ですかな?」


 そんな七星に話しかけてきたのは『ニューラーメン~ガーリックオール~』店長、向田城一だった。


「はい。分かりますか?」

「ええ、あなたの出すラーメンを見た時、ピンときました」


 それぞれがどんなラーメンを出すか。それは会場中の審査員向けに展示された各ブースのラーメンの写真やパンフレットなどでも分かる。


 今回、七星が出すラーメンは『イカ墨トマトラーメン』。

 変わり種も変わり種。ヒットになるか大暴投になるかどちらかといったリスキー極まりないチョイスだった。


「いえ、こういったルールではあまり好みの差が分かれるものは出さないんですよ。何せ、審査員は抽選で選ばれた150人の一般客、3分の1から嫌われたら予選突破はできないわけですから……」


 なるほどと思う。今回はラーメンの開発には全く貢献できない志織が作戦参謀として、鼻息荒く『客の目を引くラーメンを創るべし』と主張するのでこのようなかたちになったが、彼の言うことも一理ある。


「あと、今回に限っては魚介系を前面に出すのも上手くないですね~」


 と向田は言う。彼はこういった大会慣れをしているのだろう。

 実に立ち回りの上手い男だ。


 そして『魚介系がよくない』と言う彼の真意。

 この会場には奴がいる。


 佐々木小次郎。魚介ラーメンのエキスパート。

 その涼しげな美貌、若武者のような袴姿の仕事着、魚介の扱いの巧みさを称えて、彼は世間からこう呼ばれる『カツオ武士道の佐々木』。ちなみに本名である。

 そんな名前のせいもあって、彼のカツオ節を削るカンナ捌きは、その見事さから現代の『つばめ返し』ともてはやされていたりもする。余談だが、本人はそう言われるのが恥ずかしいらしい。


 と、彼は押しも押されもせぬ今大会のド本命、優勝候補という奴だ。

 まず、間違いなく番組からの依頼されてやってきた男だ。

 予選あたりは軽く突破してくるであろう。

 

 こういった出来レースじみたことは、大会側としてもどうかと思うところはあるだろうが、番組としては最低限の盛り上がりの担保を確保しなくてはならない。この処置もやむなしといったところか。


「まったく、つまらないことを言ってくれるな?」


 と、ここで七星たちの会話に割って入ったのは、噂の渦中にある人物、佐々木小次郎。


「ん?」


「なに……そんなこと気にせず自分がウマいと思うものをぶつけてくればいい」

「あ~」


 一瞬、首を傾げた七星に佐々木は『何をバカなことを』と先の会話を一蹴する。

 だが、『まあラーメン屋などそんなものだ』と、すぐに七星も納得する。

 この男、基本調理場にいない時は頭のネジが外れていることが多い。今がまさにそれである。


 そして、先の佐々木のセリフは彼の身上でもあるのだろう。

 自身によほど自信がないとできない在り方だ。素晴らしいことだと思う。


 だが、それは万人向けではない哲学だ。


「いえいえ。あなたに真っ向から喧嘩を売るような真似はできませんよ……」


 向田が困ったように笑う。

 合理的に考えれば、それが正しい。わざわざ予選の段階で、強豪と真っ向勝負などするべきではない。ここはストレートではなく、チェンジアップで躱しにいくのが正解だ。


 しかし、それでは面白くない。

 そういうやり方は決定的にラーメン屋としての誇りが欠けている。

 佐々木はそう思う。


 だからこそ、次の七星のセリフには興味が引かれた。


「自分らがああだこうだ言っても仕方がない。決めるのは客だ。ウマいラーメンが上がり、マズいラーメンが落ちる。つまるところ、ただそれだけだろう?」


 意外なこと。


『イカ墨トマトラーメンなどという変化球ラーメンの最右翼が何を言うか!』


 それは間違いなくこの部屋にいた七星を除く全員の心の言葉だった。


 だが、先の七星のセリフは自身のラーメンが絶対にウマいはずだという確信からきているものだ。


 それを見抜いたのは、この中で佐々木小次郎ただ一人。

 その彼は思う。こいつが予選を勝ち残るか、それとも落ちるかは分からない。


『ただ、どちらにしてもこいつのラーメンは一度食べておきたい』


 きっと、ウマいはずだ……




≪おまけ≫~イカ墨トマトラーメン開発秘話1~


「さて、今度のラーメンどうするかなぁ」

「シンちゃん! この前、トンコツだったから今度は魚介系がいいです!」

「ヨシ、じゃあ、それ採用――」

「ちょっと、待ちなさい! アンタたちッ!!!」

「な、なんだよ……」(ビビるから大声ださないでくれ……)

「い~い? この大会では私たちの知名度はゼロ! 誰も私たちの店を知らないの!」

「まあ……」(そのシンちゃんの店を潰したのはキミなんじゃ……)

「だからね? 私たちはそんな自分たちのことを誰も知らない客を相手に戦わないといけないわけ! ここまではいい?」

「うん……」

「というわけで、私たちは新規の客がとびつくような真新しいものを創らなきゃいけないのよ!」

「新しい食材的な?」

「なんだよ、マサッち。その新しい食材って……」

「うん! いいわね、それ。見た目、匂いが知っているラーメンとはまったく違って、食べてみるまで分からないとか」

「あ~それって煮干し、カツオ節、昆布、トンコツ、鶏ガラあたりが香る普通なラーメンを作らないってこと?」

「そう! それよッ!」(へ~コイツ結構いいこというじゃない)

「なあ、東雲さん、マサッち。それってラーメンとして成立してるのか?」

「なに弱気なことを言ってんのよ! 作るのはアンタよ!? しっかりしなさい!」(それに比べ、この冴えない顔の男は……)

「あ~、まあ、落ち着け。別にさっき言ったラーメンダシの基本食材を全く使うなって言ってるわけじゃないから」(この胸無しは作る人間の気持ちが分かってないみたいだから、フォローは入れておくか……)

「そうね。そのくらいは妥協してあげる!」(ドヤ顔)

「そうだなぁ、変則的な感じになるけど、それなら何とか……」(まったく、胸が貧しい女は思いやりの心も貧しいのか……資本主義の闇だな)

「……今、何か失礼なこと考えなかった?」(ギロリ)

「「いえ、別にっっっ!!?」」(おっと危ない……)(ぎょええぇぇぇーー!)


 おまけはハジける方向……あまり登場人物の口調とか考えない感じで。

 日本人の「気にしない」の精神。これ大事。

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