イケ麺コロシアム
本日(24時を跨ぎましたが)は2話投稿しております。最新話から飛んできた方はご注意願います。
金なし、力なし、胸なし、色気なしの志織は屋台破壊の償いとして七星を『イケ麺コロシアム』に誘う。どうやら志織がフードアイドルの立場を利用して、番組の出場枠に七星を突っ込んでくれるよう交渉してくれたらしい。
そこで、出場者の七星は『イケ麺コロシアム』の概要と注意事項の説明のため、志織の所属する事務所に呼び出されたのであった。
と、ここまで前回ダイジェスト風に思い出す七星。
「……今、あなた、とっても失礼なこと考えなかった?」
「いえ、そんなことは(あります!)」
「……そう。ならいいのよ。とにかく、余計なことは言わないようにね(私の評価に響くから!)」
お互いに、重要な本音の部分を心の中だけに留めておくことに成功した七星と志織。
命拾いした七星は、内心ドキドキの志織を伴って、志織の事務所、大河内総合エンターテインメントへと向かう。
≪大河内総合エンターテインメント社長室≫
「やあ、君が七星君だね? この度はうちの事務所の者が失礼をした。事務所の社長として、謝らせてもらいたい」
大河内と名乗った男は七星を呼ぶなり、まず謝罪から話に入った。
しかし、それは彼が下手に出たことを意味しない。それだけ彼には一般人とは隔絶した権力者としての風格があった。
年のころは40程度か。一大企業の社長としては異例の若さだ。その若さからか、彼には人の心に溶け込めるような親しみを感じさせる柔らかさがあった。
だが、七星が思ったのは、全く逆。
『油断ならない……』
飲食店に関わる者として七星は多くの人間を見てきた。だから、感じた。
彼に出すものに一つの油断も許されない。
麺の茹で具合、スープの油のキレ、具材の盛り付け。
当然、それは常に気をつけてはいるが、彼に相対した時は指を震わせながら作業をするはずだ。一つでも違和感があれば、彼は気づく。正しく評価する。
そのことを普段の彼がどこまで指摘するかは分からないが、もし彼が本気でクレームしようとしたら、店側はとんでもないことになるだろう。
そんな予感がした。
「おやっ? 目がいいね? 常日頃から人をよく観察している人間の目だ。これは期待できる。いいんじゃないか? うん、彼を今度の大会に推薦しよう」
そう言って、大河内は隣の秘書とおぼしき女性に書類を渡す。
そのまま、その女性は「かしこまりました」と頷いて退出していく。おそらく今渡された書類の処理に行ったのだろう。
そこでハタと気づく。
志織がすでに『自分が大会に出られるよう交渉してくれていたはずでは?』と。
チロリと目を向けるとサッと逸らされる。つまり、彼女には七星を大会参加させられるほどの発言力も交渉力もなかったことになる。
それでよくもまあ「イケ麺コロシアムに出てみない?」などと言えたものだ。
「ああ、そんなに彼女を責めないでやってくれ。仮にもうちから推薦する以上、下手な者は推薦できない。事務所のメンツがあるからね。だから、最終的な決定は僕が下さないといけないのさ」
「では、大した実績も店もない私はその『下手な者』では?」
「いやいや、謙遜はいらない。おそらくキミの創るものなら『マズい』ということにはならないはずだ」
なるほど、彼もまた事務所の社長として、卓越した観察眼を持っているのだといいたいわけか。
「分かりました。イケ麺コロシアム大会参加ということで了解しました」
「うん。よろしく頼む。うちから推薦した者が優勝したとなれば鼻が高い。その手伝いというわけではないが、東雲君はこのままキミのサポートについてもらおうと思う」
「いえ、調理補助としてはいらないです!」
普段、女性に対して酷いと思うことを言わない七星であるが、ここだけははっきりと言わせてもらった。
「ああ、うん。彼女はキミの宣伝や客引きにでも使って欲しい。これでも東雲君はうちのアイドルだ。実力は保証するよ」
保証された実力の部分にはかなり怪しいところがあったが、今の七星はそれよりも気になる部分があった。つまり、『宣伝や客引き』の部分である。
「うん。大会のルールを説明してなかったね。キミには大会の予選から参加してもらう。もちろん、この段階からオンエアーだ。心してかかってもらいたい。それでこれが基本的な予選のルールだ」
≪イケ麺コロシアム予選ルール≫~ラーメン100食マラソン~
◎大会参加者はA、Bの二つの会場に分かれて、それぞれのブースでラーメンの販売数を競ってもらう。
◎販売数が100食を超えた者から順に予選突破となる。
◎各ブースから出せるメニューはラーメン一つのみ。ただし、ラーメンであるならどんなものでも構わない。つけめん、油そばなど形態は問わない。
(ただし、予選開始前に運営管理委員による事前チェックを受けるものとする。その後のレシピ変更は原則認めない)
◎審査員は各会場に150名ずつ。彼らが会場内を回りながら各ブースのラーメンを自由に購入していく。その際、ブースで食券一枚とラーメンを交換していく。
◎予選終了時に、そのブースに集まった食券の数がそのブースの最終的な販売数となる。
以上、何かルールについて不備や不明点があれば大会管理委員に連絡を
これが七星に渡された予選ルールの概要だった。




