表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケメンよりもラーメンがモテる素晴らしき世界  作者: 一之太刀
開店 ~ラーメンコロシアム編~
1/59

七星と志織(その1)

新規連載始めました。第一章部分については毎日、更新しようと思います。よろしくお願いします。

 20××年。世界は変わった。

 料理は女の仕事と言われた時代は終わりを告げる。

 今や好きな人のために料理を作るのは男の仕事。

 そして、今の時代。料理がうまいということが、他のなによりもモテる。

 それが常識となっていた。



 故に、ここにも一人。愛する女のために美味い料理を作らんとする男がいた。

 男の名を七星慎之介。顔はイマイチ……否。一生、女には縁がないと言っても過言ではないほどのブサメンだ。


 しかし、料理には自信があった。

 なにせ、七星の家は老舗のラーメン屋だ。

 毎日、行列のできる忙しい店を七星は小学校入学時より、ずっと手伝ってきた。クラスの友達と遊びたいのを我慢して、放課後と土日はずっと店の中。


 今や、ネギなど目をつぶっていても切れる。けっして、目が痛いわけではない。


 慎之介は慣れた手つきで麺を湯切る。そのまま流れるような動きで、スープに沈める。

 後はトッピング。チャーシュー、メンマ、海苔とネギ、最後に鳴門(なると)をあしらって完成だ。


 古き良き、昔ながらのザ・ラーメン。


 彼は決して気取らない。その一杯は基本に忠実だ。

 されど驕らない。その一杯はラーメン創世の時より常にその時代の最前を走り続けている。


 彼が作ったのはそんな一杯。


「どうぞ……」


 ここまでくれば、言葉は必要としない。ただ、味わってもらえさえすればいい。

 そんな慎之介の声なき言葉を受け、少女もまた静かにスープを口に含む。


 瞬間、少女の口は鮮やかな弧を描き、僅かなため息を漏らす。


 そこから後は一気だった。

 堰を切ったように麺をすする。

 チャーシューにかぶりつく。


 普通なら、ここで一言、「おいしい」と感想を述べるべきであっただろう。

 それが、作ってくれた者への礼儀であり、いただく者としてのあるべき姿である。


 だが、しかし……


 バカが。何を悠長な。そんなことをしていては麺が伸びてしまうではないか、愚か者め!


 そう言わんばかりの少女の食いっぷり。

 レンゲなどもどかしい。

 麺と具材をひとしきり腹に納めると、丼ぶりを掴み、一心不乱にスープを乾しにかかる。

 そして、


「はぁぁぁ~~~」


 恍惚。少女は官能的とも蠱惑的とも言えぬ大きな息を吐く。その唇はスープ表面を浮かされた油に濡れて、いつもよりも艶やかに輝く。


 少女の名を水瀬水面。押しも押されぬ学園のアイドル。


 そんな彼女をぜひ自分の彼女にせんと、男たちはこぞって水面に告白した。それはもう、しまくった。

 しかし、全戦全敗。学年一のイケメン、ファッション誌のモデルに学生会長、サッカー部のエース、バスケ部の顧問(……っておい!?)に至るまで、全てが玉砕した。


 故に、彼女、水瀬水面は学園のアイドル。誰のものにもならないから学園のアイドル。


 それでも七星慎之介には勝算があった。


 幼少時代、その時間を彼はバカみたいにスープ煮込み時間に費やしてきた。そんな彼の作るラーメンが、マズイわけがない。


 その彼がラーメンで告白する。

 まさに、必勝とも言える一手。いや、一杯である。


『……勝ったっっっ!!!』


 空の器、その底には「君が好きだ」の五文字。


 不器用で迂遠な、しかし、彼にしか渡すことができないラブレター。

 それを少女は確かに眼に映す。


 そして、彼女は微かに笑ったのだ。


 ああ、きたぜ。ぬるりと。これからは俺の時代。バラ色の青春時代。


 俺の腕は最高のラーメンをつくり、さらに、その腕は最高の女を抱く。

 ザ・約束された勝利の人生。


 もう少しで俺は学校を卒業し、独り立ちする。そこからは仕事に恋愛、全てが完璧。

 進〇ゼミも真っ青なサクセスストーリーだ。


 だが、それは言わば神サマからのご褒美。


 思えば、これまでの人生、散々だった。

 小学校では煮干し臭いと笑われた。換気扇をいくら回そうと、ずっと店にいれば匂いは自然と染みつく。


 昨日は遊園地に連れて行ってもらったと自慢するクラスメイト。その時、俺は寸胴をかき回していた。


 お誕生日会に誘われた。俺は仕事だった。日曜日、書き入れ時の忙しい日に休めるわけもなし。みんなが遊ぶ中、俺は一心不乱に客に水を出し、テーブルを拭いていた。


 だから、俺は、僕は……そろそろ報われても……いい……よね?


「七星クン。ゴメンナサイ。私ね……メンクイなの」


 アレ? 何ヲ言ッテイルノカ分カラナイ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ