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秋葉切子奇譚  作者: 沢邑ぽん助
14/29

13

 ■昼 中小ギルド会議


(めんどくさい。早く帰りたい……)

 ナカノの一件から数日後に話は飛ぶ。

 黒駒はある会議に出席していた。


 最近狩場がほぼ大手ギルドに占領されているらしく、それに対抗するため、中小ギルドで〈中小ギルド連絡会〉なる物を立ち上げようとかそういう内容らしい。

 主催とはそれなりに付き合いもあったし、来てみたのは良いのだが――予想以上の泥仕合が展開されていて閉口していた。

 声の大きい人間達の主な争点はおおむね自分達のギルドへの利益と権力。

 肝心の実際どう動くかは一切何も決まってないと言うのに――実にくだらない。


(……そんなだから大手ギルドに勝てないのにねぇ、なんだかなぁ)

 黒駒は隅の方に座り、あくびをかみ殺す。

 主催であるの3人のギルマスのフォローも空しく、机上の空論で積み上がった会議は全力で踊り、船頭多くして船は山を登るどころか頂上を通過して下っていきそうな勢いである。


「お前だってそうだろ、知ってるんだぞ!お前のギルドが〈黒剣騎士団〉取引してるってことをよ!」

 話の流れがさっぱり解らないが、いつの間にか黒駒は何処かのギルドマスターに指を射されていた。

 いきなりの流れ弾に、黒駒の半分寝ていた目が開かれる。


「……はい?」

「今更辞めたギルドから来るってことは、どうせ股でも広げたんだろ」

「ちょっとあんたら!言って良いことと悪いことが……」

 あまりにも下世話な罵声に主催の1人、〈三日月同盟〉のギルドマスター、マリエールが立ち上がり、黒駒に変わって抗議を続けようとしたが、黒駒はただ静かに手を軽く上げ、マリエールを制した。

 ――先ほどまでの眠たげな表情は消え、世の中の何もかもに喧嘩を売りそうな酷い瞳に変化していた。


「では、少し質問させていただきますが、要は、不定期でも大手ギルドと取り引きがあるギルドはここに呼ばれる資格がないと言うのでしょうか?」

 黒駒は周りをくるりと見渡す。――誰も答える者はいない。

「そもそもここは他ギルドの取り引き関係を罵り合う集まりではないですよね?狩場や発言権に関する最近の大手ギルド独占状態を少人数ギルドでの相互協力で回避する、というのが目的のはず、ですよね?」

 黒駒は自分に声をかけた1人、同じギルド出身者でもある〈グランデール〉のギルドマスター、ウッドストック=Wを見た。

「……その通りだ」

 声を聞いた後、罵声の主に向き直し、淡々と言葉を続ける。


「確かに、我がギルド……と言っても片手も人数のいないギルドですが、あの騒動以降も〈黒剣騎士団〉からアイテムの注文を受け、納入はしています」

「だからなんで……!」

「簡単です、現状でウチ以外では手に入らないアイテムを頼まれたからです。うちはレアアイテム多めのスキマ産業ですので」

 黒駒はきっぱりと言い放った後、喧嘩を売るような鋭いガンを飛ばす。

「それで、貴方のギルドが生産ギルドならアイテムは何処まで作れるんですか、戦闘ギルドなら戦闘力は?」

「そんな……こと、今関係あるのかよ!?」

「ありますね」

 次は周りを見まわすように、睨んだ目つきのままぐるりと首を回した。

「正直言わせてもらいますが、皆さん確定もしてない利益に先走り過ぎです。皆で協力する以上、まずは自分達が出来ることを出してその上でお互い助け合うべきじゃ無いですか?利益や権力は次のまた次の話です」

 その言葉を紡ぐ黒駒の顔は――もはや別人のような目つき、そして無慈悲な表情であった。

「……まさか、面倒ごとは全部御三方におっかぶせて利益と権力だけ取ろうなんて馬鹿なことは考えてませんよね?」

 その後、わざと大きく響くように手のひら全面を使って勢いよく机を叩いて再び罵声の主を真正面から見据える。

 会議場を沈黙が支配し――しばらくするとさざ波のような小声でひそひそ囁く場に変わる。

「クソッ!俺は降りるからな!」

 罵声の主は勢いよく立ち上がり、出ていった。


 ――それから30分後。

 多くのギルドマスター達のいた会議場は、もはや主催者と少しの良識のあるメンバー達だけが残った。


 黒駒はぐったりとした前傾姿勢で、やってしまったという表情を隠すようにテーブルに顔をペタリとくっつけていた。

「……すみません、ホントすみません……」

「ええねんで、変な勘ぐりであんなん言われたら誰でもキレるもん、しゃーないって」

 ちゅーかウチかてあんなん言われたらフツーにキレてるわ、とマリエールは唇を尖らす。

「あまり人口の無い高レベル生産サブ職ってぇのは、必要な時はギルドの大小関わらず呼ばれるモンなんだが……アイツらにはそれが解らないんだろうよ」

 レア系高位生産サブ職である〈機工師〉である〈RADIOマーケット〉の茜屋=一文字の介は、そう呟いてキセルを咥えた。

「それに最初から協力のきょの字も出なかったしな……」

 残った良心的なメンバーの1人が呟く。

「ほんなら、今日は解散しよか。みんな、ホンマにゴメンな……」

 アキバのひまわりの異名を持つマリエールの笑顔が非常に弱々しい。色々やらかしてしまった分、本当に申し訳なさでいっぱいだった。


 会議場を出た後、歩きながらギルドというものに関してぼんやりと考える。

 以前、〈三日月同盟〉のメンバーでガラス職人を体験したいという人間を何人か受け入れたことがあるが、問題を起こす人間はおらず、いわゆるアタリのギルドの部類であった。

 もっとも、彼らは別のサブ職を選んだそうだが、そんなことはどうでもいい。

 面倒見も良いし、良心のある人間に惹かれるのは基本大体マトモな人間が多いということなのだろうか。


 前ギルドのリーダーは良心があるかは微妙であるが、仲間思いではある。

 控え目に言って阿呆だ。もっとストレートに言うとどうしようもないクラスの大馬鹿だ。

 だが、絶対に悪人ではないと思う。大雑把で仕事を丸投げするが――一応当人なりに他人に気を使ってるところもある。多分、おそらく。


 ――まぁ、そんな余所のギルドや前のギルドの話より、今は。


「ただいま」

 ギルドホールのドアを開けるとリビングには1組の親子の姿があった。

「ギルマス、お帰りなさい」

「黒駒さん、おっかえりー!」

「で、中小ギルド連絡会議の方は、どうだったんです?」

「……うん、全然無理で凄く無駄だった」

 黒駒は、はじめて〈秋葉切子〉に追加されたギルドメンバー2人に向かって苦笑した。

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