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第8話

和葉や他のクラスメート達と合流し、先ほどの勝負について話し合いながら悠里は教室に向かった。


「さっきの勝負凄かったよ、おめでとう」

「悠里…うん、ありがとう!」

「勝負の最後ではじめて能力使ったよな?でも、透明になっている間は一歩も動けないんじゃなかったのか?どうやって避けたんだ?」

「あ、それ知ってたんだ?えっとね、転がって避けた後、武蔵君が突きを放つ体勢に入ったのが見えたんだ。勝負を焦ったのかもね。僕の能力は確かに使用中は一歩も動けないけど、その場にしゃがむぐらいならできるんだよ。その場から一歩も動いてないからね。だから、次の攻撃の準備をしながらしゃがんで突きを躱して、その隙に矢を放ったんだ。もし、突きじゃなくて振り下ろしとかだったら僕の負けだったかもしれないから、危ない試合だったよ。」

「なるほどな……観客席から見る限り、勝負は武蔵有利でずっと進んでいたけど、決めきれない事に武蔵は焦って勝負を急いだのかもしれないな……能力って言えば、武蔵は本当に使わなかったな。使わないのになんで普通の剣を使わずにわざわざ木剣を使ったんだろう?」


ふと湧いた疑問を悠里が口にすると、隣を歩いていた光輝が口を開いた。


「武蔵君の家は道場なんだ。だから幼い頃から剣術を習ってたらしいんだよね。その時からずっと木剣を使ってきて、能力とも相性が良いからそのまま使ってるみたいだよ。肝心の能力を使おうとしないのが残念だけどね」

「へぇ、だからあんなにスムーズに動けたのか」

「うん、剣だけで判断するなら、この学校でもトップクラスだと思うよ」

「マジか、凄いな」


悠里は素直に感心した。

すると、和葉が辺りをキョロキョロした後、


「あれ?そう言えば先生はどうしたの?」

と問いかけた。


「ああ、藤野先生なら先に武蔵を保健室に連れて行くって言ってたぞ。結界の中で攻撃を受けたから外傷はないけど、精神は損耗してるらしいからな。回復には安静にしてるのが一番なんだと。まあ、あんな雑な扱いしといて安静もクソもないと思うが」

「雑で悪かったな。お前もその雑な扱いとやらを体験してみるか?」

「うぇ!?藤野先生いつの間に……」


悠里が後ろを恐る恐る振り返ると藤野がこめかみに青筋を浮かべていた。


「今来たところだ。武蔵が途中で目を覚ましてな。少しふらついていたが保健室には自分で行けそうだったから、そこで別れてこっちに来たんだが……次はないと言わなかったか、黒羽くん?」

「失念しておりました!申し訳ありません!!次からは気をつけるんでなにとぞご容赦を!!」

「ちっ、まあ私が雑なのは確かだしな。もういい。次は気をつけろよ?命の保証をしかねる」

「はい!了解しました!」


ーーーなんだかんだ言いつつ結構許してくれるな……結構生徒思いの良い先生なのかも…


悠里が藤野に対する評価を改めていると教室に到着した。


「じゃあ早速続きやるか」


悠里が促すと、黒髪の少女が進み出た。


裏縫芽依(うらぬいめい)。能力名は……「真実を見抜く目(トゥルーサイト)」。」


口数の少ない無表情なその可憐な黒髪の少女は小柄の悠里よりさらに頭一個分ほど小さく、小学生と言っても通じそうだ。今にも閉じそうな、眠そうな目をしている。


「ああ、よろしくな、裏縫。後、朝比奈の時からずっと気になってたんだけど……能力名ってのは一体なんなんだ?自分でつけてるのか?この学園には能力を授かったことで中二病が大量発生でもしてるのか?」

「ええ!?違うよ悠里!これは神さまが勝手に付けるんだよ。これも娯楽の一種らしくて……後、先生としてもそうやって識別できる名前があった方が便利だからって、能力名はよく使われるんだよ」


悠里の疑問に和葉が答える。


「へぇ、そうだったのか……。それなら安心したよ。これから接し方を考えなくちゃならないかと思ったからな」

「うん…まあ、中にはノリノリで、自分でつけた名前を先生に提出したりする生徒もいるんだけどね……。でも、少なくとも今ここにいる生徒の中に自分で名前つけるような人はいないかなあ…だからごめんね?仲間になれなくて…」

「ん?仲間?何のことだ?」

「だって悠里って……その…中二病なんでしょ?」

「はあ!?なんでそんなことになってんだ!?」

「え?えっと……杏里ちゃんが言ってたんだけど……始業式の後、悠里が先生と教室に来る前に」

「木原さぁん?」

(ビクッ!!)


悠里はゆっくりと悠里の視界からフェードアウトしようとしていた木原の背中に向かって、話しかけた。明らかに怒っているのが分かるその声に、木原は冷や汗を流した。


「えっと、何かしら?黒羽くん」

「何すっとぼけてやがるんですか木原さん?

何、根も葉もねえ噂広めてんだよ!誰が中二病だ!!ぶっとばすぞ!」

「ね、根ならあるわよ……。あんたが体育館で震える右腕を抑えてるのが見えて、そんなの見たら誰だって中二病だと思うじゃない。でしょ?」

「うっ、あれはあのクソ神にムカつきすぎてだな……まあいい、俺も悪かったのは分かった。

じゃあ改めて言っとく。俺は中二病じゃ断じてないからな?」

「分かった。出来る限り覚えておくようにするわ」

「いや、そこは絶対でいいだろ……」

「絶対って言う言葉は軽々しく使うものじゃないわ。万が一忘れた時、言い訳できないもの」

「なんで覚えようとした瞬間から忘れた時に保険かけてんだよ……はあ、そう言えば裏縫の能力を名前しか聞いてなかったな。一体どういったものなんだ?」


悠里は木原との会話に疲れ、強引に話題の転換を図った。すると、裏縫は少し考え込んで、口を動かした。悠里は無表情な裏縫の顔に少し陰がさしたような気がした。


「私の能力は嘘が見抜けるというもの。対象の顔が見えていれば誰の嘘でも見抜ける」

「へえ!凄いな!ちょっとやって見せてもらってもいいか?」

「……別に構わない」


そういう裏縫の目にはわずかに驚きの色があった。


「じゃあ今から何か言うからそれを嘘かどうか当ててみてくれ」

「わかった」

「そうだな……じゃあ俺の今日の朝ごはんはパンで「嘘」す…って早!?

しかも当たってる!いつもパンなんだけど、今日ふりかけご飯だったんだよ……。じゃあこれは?朝学校に来る時、昨日から寝不足でぼーっと歩いてたら校門のそばにあった赤い車にぶつかってちょっと凹まし「黒羽、ちょっと来い。話がある」って藤野先生!?いや、今のは嘘で「それは本当」す…っておい!?そこは俺の心読む前に空気読んでぇ!?あ、藤野先生こんにちは今日は良い天気ですねだからそんなに殺気を撒き散らすのはやめ…痛い!そんなにこめかみぐりぐりしないでぇ!!頭の形が変わっちゃうぅぅぅ!!!」


=====================================


「はあはあ……。危うく、三途の川渡りかけたぜ。それはそうとして、裏縫は本当に嘘が見抜けるんだな!これじゃあ裏縫の前で嘘はつけないな、あははは。まあこれから仲良くしてくれ」

「あなたは……」

「ん?」

「あなたは私が怖くないの?」

「えっと、どういう意味だ?」


裏縫は不思議そうな目で悠里を見つめた。


「私は昔から周りにいる人たちが言ってる嘘が分かった。それを指摘しているうちにみんな私の事を疎ましがって、最終的には怖がるようになった。お父さんやお母さんも同じだった。私は相手の本性が嫌でも見える。

友達の取り繕った笑顔も、両親の上辺だけの愛情も、この目は見抜いてしまう。私と関わったらきっとあなたも嫌な思いをすると思う。だから…私とは関わらないほうが良…「やだ」え?「確かに、怖くないかと聞かれたら怖い」なら…「だって!裏縫がいる所じゃ藤野先生に宿題忘れた言い訳とかできないって事だろ!?一大事じゃねえか!」…………「嘘見抜けるぐらい大した事じゃねえよ。俺から言わせれば、藤野先生の方がよっぽど怖いね。…色んな意味で」

「おいこらどういう意味だ」


(この人は……一回も嘘を言っていない…。全部本当にそう思ってるんだ…。)


「ええ!?裏縫さんそんな理由でずっと独りでいたの!?てっきり独りが好きなのかと思ってた……。なら私と友達にならない?もっと裏縫さんと仲良くなりたいわ。」

「おい木原、抜け駆けすんな。俺も前から裏縫さんと話したいと思ってたんだよ!」

「私も私も!」

「え、えぇ……」


裏縫は、小柄な容姿と幼さを残した可愛らしい顔つきでクラスの中でも人気者だったが、本人が他人を寄せつけようとしなかったので、クラスの中では遠目に見守るのが暗黙の了解だった。

しかし本人から語られた、独りでいる理由というのは5組の面々にとって大した問題ではなかったらしい。

ここぞとばかりに皆一斉に裏縫に話しかけた。

裏縫は対応に困り、助けを求めて悠里に視線を送った。

悠里はニッと口角を吊り上げ、その視線に答えた。


「どうやらこのクラスの連中は怖いだのなんだの気にしちゃいないみたいだぜ」


裏縫が改めて周りを見渡すと、嘘をついてる人は………一人も見当たらなかった。


「わ、私は……うっ…今まで人と関わらないようにしてた。それが正しいんだって……一番いいんだって…そう思ってた」

「なら、それは間違いだ。ここにいる奴らは皆…裏縫が大好きみたいだしな」

「ぐすっ……みんな…こんな…こんなどうしようもない私でも、友達になってくれるの?」

「はあ?そんなの……………」

「「「「「当たり前だろ(でしょ)!」」」」」

「てかここを何組だと思ってんだ。俺以外どうしようもねえやつしかここにはいねえよ」

「はあ?何さりげなく自分を除外してんのよ。あんたが一番どうしようもないでしょうが」

「なんだと!?」


皆が笑い声をあげた。裏縫も笑っていた。泣きながら…笑っていた。


「み、みんな…ありがどぉ……う、うぇぇぇぇん!!!」


裏縫は今まで溜め込んできたものが溢れ出したのか、その場で号泣した。 その小さく、しかし力強い手は近くにいた悠里の服を掴み、黒縫は悠里の胸に顔を押し付けながら泣いた。

次話投稿は未定です。

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