第7話
「……一応聞いとく。それって何?」
「えっとね、武蔵君の能力の欠点……ていうか代償だね。それは……魂の損失だよ」
「魂の損失!?名前からしてやばそうだけど、それは大丈夫なのか!?」
「ああ、うん。死ぬとかそういうことじゃないから大丈夫だよ。例えばね、武士にとっては剣が魂とか言うでしょ?それと同じなんだ。武蔵君が魂と同じぐらい大事にしているモノが、能力を使うたびに一つずつ無くなるらしいよ」
「具体的には何が無くなるんだ?やっぱ刀とかか?」
「武蔵君はね………いわゆるオタクなんだ」
「へ?オタク?アニメとかのあの?」
「そうそう、そのオタク。武蔵君は、アニメのDVDとか漫画とかフィギュアとか、そういった物を色々集めるのが趣味なんだって。それを凄く大事にしてるから、能力を使ったらどれかが一つずつ無くなるんだって」
「花と言いオタクと言い、武蔵はいちいちギャップが激しいな……。
それにしても……使えないっていうか使いたくない能力だな」
「そうだね…だから武蔵君も絶対使わないって誓ってるみたいだよ」
「それは能力者としてどうなんだ……?」
悠里たちが、そんな会話をしている最中も和葉と武蔵は攻防を重ねる。
弓を使う和葉は剣の間合いまで詰められた距離を離そうとするが、その度に武蔵が距離を詰めてなかなか離れられない。
弓の利点の一つの間合いを潰されたことで和葉は防戦一方になっている。
(っ、なかなか距離が取れない……!)
和葉は武蔵の剣を躱しながら、散発的に矢を放つが、全て防がれる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
武蔵が両手で柄を持ち、上段から斬りおろす。
風を切りながら、凄まじい速度で迫るそれを和葉は半身になることで躱し、その攻撃はリングを砕くだけに留まる。
和葉はそのままの体勢から弓を放とうとするが、武蔵の斬り上げようとする剣の方が速かった。
和葉は舌打ちしたくなる気持ちを抑えながら、攻撃の動作を中断し、横にずれて躱す。その時、和葉は何かに躓いて体勢を崩した。足元を見ると、先ほど武蔵が砕いたリングが目に入った。
そんな隙を見逃すほど武蔵は甘くなかった。
(まずい!)
武蔵は和葉に向かって剣を振り下ろす。和葉はその一撃を、体勢が崩れた勢いに逆らわず、転がるようにして回避する。しかし、和葉が跳び上がるように立ち上がり武蔵の方を振り返ると、もう武蔵は次の攻撃の体勢に入っていた。
ーーーこれは躱せない……!
悠里はそう思った。多分この場にいる全員がそう思ったことだろう……約1名を除いて。
「これで終わりだ!」
武蔵は、和葉に向けて渾身の突きを放った。
その瞬間、すーっと空間に溶け込むように和葉の姿が見えなくなった。
ーーーあれが透明化の能力か!
「今さら遅え!せやぁぁぁぁ!!!」
武蔵の攻撃は、正確に先ほどまで和葉の胸があった位置めがけて放たれ、和葉の胸を貫………かなかった。
突きを放ち終わり、腕を伸ばしきってしまった武蔵の目に、地を這うように姿勢を低くして突きを躱した和葉の笑みが目に入った。
「ゼロ距離からなら……躱せないよね?」
和葉は、狙いをつける左手が武蔵に当たるほどの超至近距離から、矢を放った。
それは当然武蔵に命中し、武蔵を5メートルほど吹き飛ばした。
武蔵が立ち上がることはなかった。
「勝者、朝比奈和葉!」
勝者宣言するや否や、藤野は武蔵のところまで行き、その首根っこを掴み、リングの外に放り投げた。
ポーン……ドスッ
武蔵は白眼を剥いて、プルプルしている。
「ってえええ!?何なのあいつ!?負けたからって扱い雑すぎない!?いくら能力者が一般人に比べて頑丈でも、ひどすぎるだろ!」
「悠里…先生をあいつ呼ばわりはちょっと……」
「いや、気にするところそこじゃねえだろ!?
確かに先生を敬うのは大事だけれども!てかなんであの人あんなゴリラみたいな力あるんだよ!!能力者じゃないだろ!?」
「あーそれはだねぇ……私たち先生は、神さまの加護ってのをもらってるんだ。神さまの作った結界内に限り、凄い力を発揮できるんだよ。まあ暴走した生徒やら能力やらを止めないといけないから当然と言っちゃあ当然なんだけどねぇ」
「へ〜なるほど…じゃなくて!力についてはわかりました!じゃああの扱いについては!?どう考えても雑ですよね」
「あれはねぇ………あやちんの性格だねぇ」
「やっぱりかよ!」
日清水は言葉を探したが、見つからなかったのか正直に答えた。
「そんな雑な性格してるから結婚できないんだよ」
「ひいっっっっ!!!」
悠里が言葉を口にした瞬間光輝が悲鳴をあげ、顔が真っ青になった。
「一体どうし……」
悠里が光輝の視線を辿ると、魔王がいた。いや、それは藤野だった。
視線だけで人を殺せるような目をしている。ていうか絶対何人か殺ってる。そして今、その視線は悠里に注がれていた。
「なあ黒羽ぁ、今日はいい天気だなぁ。そう思うだろう?」
「ま、全くもってその通りだと思います!」
「こういう日は特訓とかしたくなるよなぁ」
「は、はひ。私めは非常に未熟な身でありますので、特訓には大賛成でありますが、なぜかルビがおかしい気がする今日この頃であります!」
「ええ?死にたいって?」
「あ、なんか今すぐ特訓がしたくなってきました!!」
「そうかそうか、その心意気に免じて半殺しで止めといてやろう」
「で、出来れば四分の一ぐらいで……」
「その辺で止めといてあげなよ。あやちんが大雑把なのは事実なんだしねぇ」
「ちっお前もいたのか、かなえ。後、あやちんはやめろっていっつも言ってるだろ」
「でも、あやちんが研究チームを抜ける時にちょっと涙ぐんで私の事をかなっぺって呼「ああ〜〜!!止めろ止めろ!こんなとこでその話をするんじゃない!黒羽もニヤニヤしてるんじゃない!……ぶっ殺されたいのか?」
悠里は下手くそな口笛を吹きながら、全力で明後日の方向を向いた。
「なんでかなえはこんなところにいるんだ?」
「あやちんの教え子に血気盛んな子達がいるって聞いてね。見に来たんだ。」
「だから、あやちん言うな。はあ、気分が削がれた。黒羽、今回に限り処刑は勘弁しておいてやる。次はないぞ」
「はい。……あれ?今処刑って言った?……ていうか武蔵をあんな扱いする先生も先生だと思うんですけど」
「はあ……バカで愚かで救いようのないくそガキのために特別講習をやってやる。良いか?精神ってのは、肉体とともにあってはじめて回復を始めるんだ。そしてリングの中は精神体だけだから精神オンリー。つまりリングの中にほっといても全く回復しないんだよ。だからあの筋肉バカが、これ以上醜態を晒さないように早くリングから出してやる必要があったんだ。私なりの優しさだよ」
「その筋肉バカは今まさに誰かのせいで白目剥いて、なかなかの醜態を晒してると思うんですけど……」
「細かい事は気にするな、将来ハゲるぞ。
そんな事よりあの筋肉バカを保健室に連れて行って、教室に戻るぞ」
「は、ハゲ……あれ?この後教室に戻って何かあるんですか?」
「はあ?お前が言い出した事だろう?」
「………何でしたっけ?」
「はあ……お前は3歩歩くとモノを忘れるニワトリか何かなのか?トサカすら忘れてきたのか?
自己紹介だよ。まだ、朝比奈しかしてないだろ」
ーーーあっ忘れてた。てへっ
次話の投稿日は未定です