第30話
ありがとうございます!
すみません、少し遅れました……
以後気をつけますm(_ _)m
「このようにアームモンキーは腕が大きく発達していて強力だが、それに比べ下半身が貧弱だ。こいつと戦う時は、下半身を重点的に攻めるといい」
藤野がそこまで言ったところで、授業の終了を知らせるチャイムがなった。
「よし、今日はここまでだな。今日やったとこはよく復習しておけ。じゃ、気をつけて帰れよ。来週に向けて訓練する奴も程々にな」
そう言い、藤野は教室を去る。その様子を横目で眺めながら悠里はある事について考えていた。
そのある事とはもちろん1週間後に迫った学年別序列戦の事である。いきなりの事で頭が追いついていない感はあったが、何かをしなければならないんだろうなという曖昧な焦燥感が悠里の中には燻っていた。
かといって、1週間そこらで何ができるのか。出来ることはそう多くないだろう。今出来ることを一生懸命すると言えば聞こえはいいが、そもそも何をすれば良いのかすら分かっていない。
「そこで敵情視察に行こうと思う」
和也、光輝、木原、和葉といつもの面子となりつつある4人に向かって悠里はそう告げた。
「敵情視察?」
「そうだ。藤野先生が言ってただろ?自分の力量、そして相手の力量を正確に分析しろって。今日から1週間後の戦いに向けて、普段は使えない練習場がクラスごとにに一箇所解放されてるらしい。そこで相手の力量を見に行こうってわけだ」
「ふーん、なるほどね。まあ良いんじゃない?」
悠里の提案にそう同意の言葉を返したのは、木原だ。
「僕も良いと思うよ」
和葉をはじめとして光輝と和也も頷いていた。
「よし行くか!」
というわけで、悠里達一行は1組が訓練しているという練習場の前まで来た。なぜ1組かと言うと、2〜4組までにはこれといった知り合いがおらず、また偵察という行為がそもそも許されているのか分からなかったため、万が一見咎められたとしても蒼乃がいるから大丈夫だろうという楽観的な考えによるものである。
「にしても静かだな……本当にここで訓練してるのか?」
「練習場は基本防音の結界が張られているわよ?外まで響いて来たらうるさくてかなわないから。……それにしても何故こんなところに黒羽君達がいるのかしら?」
「うおっ!?何だ蒼乃かびっくりした……」
悠里達の背後から声をかけて来たのは可憐だった。和葉が可憐の質問に答える。
「えっと……そのぉ、僕達は……ちょっとて、偵察に……」
「ん?ああ、なるほど。1組の訓練風景を見に来たのね。ならこんなところにいないで入ったら?」
「え、いいのか?」
「良いも何もそのために来たんでしょう?それにそう考えるのはあなた達だけじゃないしね」
「それはどういう……」
悠里は蒼乃に聞き返そうとするが、それよりも早く蒼乃は悠里達の間を通り過ぎ、中に向かって歩いていった。
「どうしたの?来ないの?」
立ち尽くしていた悠里達に向かって声をかける。悠里達は顔を見合わせ、流されるまま蒼乃についていった。
中に入ると、突風が吹き付け、髪をたなびかせる。悠里は反射的に腕を顔の前にあげた。そしてその隙間から見えた風景に絶句する。
大柄な男子生徒が肩に担いだ大剣を地面に叩きつけると、そこに轟音を伴い大きなクレーターが発生する。違うところを見ると、バチバチィッと稲妻が走り、壁に焦げ跡を残す。悠里は発動から着弾まで全く目で追うことができなかった。
悠里達が呆然としていると、
「こっちよ」
と、蒼乃から声がかけられる。
ここの練習場は二階が観客席のようになっている。悠里達が視線を横に向けると、二階につながる階段の途中に可憐は立っていた。
可憐に導かれるまま二階に上がると、悠里達の他にもちらほらと生徒の姿が見えた。
「あれは……そっか、相手を偵察しようと考えるのは私達だけじゃなかったのね」
「ああ、どうやらそうらしいな」
そう言いつつ、他の生徒と同じように悠里は練習場を見下ろす。そしてあることに気づいた。
「あれ?」
「どうしたの、黒羽君?」
「いや、なんか……確かに能力はすごいんだけど、それ以外が思ったよりも……」
「……はあ、やっぱりそう思うわよね」
可憐が嘆かわしそうに額に手をやりながら、溜息を吐く。
「やっぱり?」
「うーん、ここで今訓練してる人達ってやる気がないわけじゃないんだけど、向上心があまり無いのよね。1組に居られるだけで良いみたいな気持ちの人達なの。だから能力に頼りがちで、それ以外の工夫が無いのよ。やらないよりはマシだろうけど」
可憐にそう言われ、再び目線を下に戻すと、確かに能力をただぶっ放しているだけで、あまり試行錯誤している様子がなく、何となくやっているといった感じだった。
「1組ってのはそんな連中ばっかりなのか?」
「いいえ、もちろん向上心を持って訓練に励んでいる人達もいるわ。ここにはいないけどね」
「どうしてここにいないんだ?」
「こういうと傲慢に聞こえるかもしれないけど、1組のライバルっていうとどうしても同じクラスになるのよ。こんなみんなで一緒にやったりなんかすると手の内を晒すことになる。だからみんなここを使わず、他の場所で訓練してるわ」
「なるほどな……ん?となると蒼乃もこれから別の場所に行くのか?」
「ええ、そうよ」
「そっか……同じクラスの奴もライバルってことになるんだよな……」
悠里はここにいる5組の4人の顔を見渡す。
「何今更真剣な顔してんのよ。それに多分私達が戦うことは無いわよ?」
「え?」
「だってそうじゃない。これってクラス替えのためにやるんでしょ?なら一番下のクラスの私達同士で戦ったって意味ないじゃない」
「あ、そっか」
「あははは、悠里は早とちりだね」
「本当だぜ!」
そんな事を言い合いながら悠里達は笑い合う。
「あら、もうこんな時間だわ。そろそろ行かないと」
腕時計を見た可憐がそう呟いた。
「……可憐はこれから1人で訓練するのか?」
何かを決意したような表情で悠里は可憐にそう尋ねる。
「いえ、今日は姉さんが暇みたいだから稽古をつけてもらうことになっているわ」
「もし良かったら……俺達も参加させてくれないか?」
「え、悠里!?」
和葉だけでなく、突然そんな事を言った悠里に他の3人も目を丸くして驚いていた。
「え、どうかしら……ちょっと待って、一度姉さんに聞いてみるわ」
「ああ、すまない。それに蒼乃の時間を奪うことになるけど……」
「うーん、そこは多分大丈夫じゃないかしら」
「え、それってどういう……」
悠里は可憐の言葉の真意を聞こうとしたが、可憐がスマートフォンを耳に当てるのを見て、口を閉ざす。関係ないが、本人の雰囲気とは違い、可愛らしい色だなと悠里は何となく思った。
「ちょ、悠里!何であんな事言ったのさ!」
「そうだよ!一言くらい相談してくれても……」
和葉や光輝が悠里に詰め寄る。それに対し悠里は少し視線を下げ、口を開いた。
「昨日、空さんに教えてもらった時間はすごい有意義なものだった。今俺たちが一番強くなれる方法は空さんに稽古をつけてもらう事だと思ったんだ」
悠里は視線を元に戻し、和葉と光輝の目をまっすぐ見つめ返す。
「………そうだね、あの時間は確実に僕たちを成長させてくれた。これが一番ベストな方法なのかも」
少し考えた後、和葉は肯定的な返事を返した。光輝も何か言おうとしたが、人差し指を立て、自分の口に当てた可憐に遮られる。
「あ、姉さん、ちょっといい?うん、あのね、今日の稽古つけて貰う約束なんだけど、5人増えてもいい?………え?うん……うん、確かにいるけど……」
そこで可憐はチラッと悠里を見た。しかし、悠里が反応する間も無く視線を外す。
「ええ、そう。わかったわ、ありがとう。じゃあまた」
可憐はスマートフォンを耳から離すと、悠里達に向き直る。
「姉さんが良いって」
「そっか、ありがとう。いきなり言ったのに」
「別に構わないわ。それに教えるのは私ではないし、お礼なら姉さんに言ってあげて」
「ああ、そうする」
そう口にしてから、悠里は和葉達の方を振り返る。
「だ、そうだがどうする?」
「僕は行くよ!」
和葉が元気よく真っ先に答える。
「私も行くわ」
「俺も行くぜ!さっきは少し驚いたけど、こんな機会は滅多にねえからな!」
木原と和也も和葉に続いた。
まだ何も答えていない光輝に視線が集まる。
「い、行くよ!行けばいいんでしょ!」
「そうこなくっちゃな」
ニィッと口角を上げながら、悠里は4人を見た。
こうして、悠里達は序列戦に向けて一歩踏み出した。
ありがとうございました!




