第3話
ありがとうございます!
開いた扉から入ってきたのは、 3人の男子生徒だった。
「やあ、1年5組の……いやゴミクラスと呼んだほうがいいかな?ごきげんよう。」
3人の真ん中に立っていた男子が、ニヤニヤした表情を隠そうともせず開口一番そんなことを言った。
「いやあ、相変わらずボロいね〜。君たちにぴったりだ。」
その男子生徒はネチっこい笑みを浮かべながら、こちらを煽るように喋る。
悠里はよく状況が理解できなかったが、馬鹿にされてることだけは分かった。
悠里はクラスメートの方を見るが、皆俯いている。
「あんたら誰だ?」
「ん?そう言う君こそ誰だい?」
真ん中の男子は見覚えのない悠里を見て、不思議そうな顔で尋ねた。
「俺は今日からこの1年5組に編入する黒羽悠里だ。」
真ん中の男子は悠里の言葉を聞いて、口の端を歪める。
「これはこれはご丁寧に。じゃあこちらも自己紹介しておこうか。僕は2組の根岸屑谷。よろしくね、落ちこぼれくん。」
ーーーなんか名乗っただけで落ちこぼれ呼ばわりされたんだけど……
悠里が怪訝そうな表情をしていると根岸は驚いたような顔をした。
「もしかして知らないのかい?この学園のシステムを。」
「なんだ?そのシステムって。」
「これは驚いた。まだ誰も説明していなかったなんて。編入生の前でぐらい見栄を張りたかったのかな?
いいかい?この学園には各学年1〜5組まであるだろう?このクラス分けはどうやって決めているか知っているんだと思う?」
「それは……普通にランダムじゃないのか?」
「それが違うんだよ。……実力さ。このクラス分けは実力順なんだよ。身体能力と個人の「能力」の2つを加味して、成績上位の者が1組から順番に割り振られるんだよ。つまりこのクラスは成績下位……底辺の者が集まってるってわけさ。そして編入生君。君がこのクラスにされたってことはどういうことかわかるよね?まあ、這い上がる方法も一応あるんだけどね。」
「なんだ?その方法ってのは。」
「クラス入れ替え戦だよ。」
「クラス入れ替え戦?」
「そうだよ。学期末にクラス対抗で競い合う催し物があるんだけど、それの順位がそのまま来学期のクラス順になるんだよ。まあ一つ上と入れ替わったりする事はあっても、1組や2組が5組と入れ替わる事なんてありえないけどね。」
この学園では「生徒達の競争心を煽るため」といった理由で設備に差をつけている。
1組には最新の設備が揃っていて、そこから順に設備のランクは下がっていく。
悠里がこの教室に入ってきたときボロいと感じたのはそういった理由がある。
ーーーなるほど……それで落ちこぼれ……5ミクラスってわけか。ちょっと……悔しいな。
「おい根岸、そのへんにしておけ。
それとも反省文を書きたいか?」
「おお、怖い怖い。
それじゃあ、失礼するよ。」
さすがに見かねた藤野が根岸を注意すると、根岸と取り巻き?2人はケラケラ笑いながら教室から出て行った。
「すまんな…あいつらは自分たちが上位のクラスにいるからって、少し調子に乗っているんだ。」
「なあ?あんたらは悔しくないのか?」
藤野の言葉に悠里は答えず、クラスの全員に問いかける。返事はなかった。
「あんなこと言われて、悔しくないのかって聞いてんだよ!」
悠里はもう一度聞き直す。すると数人が顔を上げた。
(そんなの悔しいに決まってるじゃない……!)
「ああ?なんだって?聞こえねえよ!」
また何人かが顔を上げる。
「悔しいわよ!でも……でも……どうしようもないのよ!私たちは落ちこぼれなんだから…」
「そりゃあ…俺らに力があったら、あんな風に言われて黙ってねえよ!でも、その力がないんだよ!」
「それがどうした?」
また数人が顔を上げる。
「お前らに力がないって誰が決めた?
自分か?それならそんなもん忘れちまえ。自分の決めた限界なんて絶対限界なんかじゃない。
俺らより上のクラスの奴か?
なんで会って間もないような奴に、あんたらの事が分かるんだ?そんなの分かるわけないだろ?あんな奴らの言うこと真に受けてんじゃねえ!
なら神様か?
あんたらは神様に面と向かって力がないとか、才能がないとか言われたのか?言われてないだろう?もし言われたんならそんな神信じるな。自分を応援してくれない神なんざ信じる価値がない。
ほら、誰がお前らに力がないと証明できるんだ?教えてくれ。」
全員の顔が悠里の方を向いていた。
「でも……実際俺らは一回2組の奴らと戦って負けたんだよ…」
実は1学期に5組と2組は模擬戦をしていた。
模擬戦とは、ルールを決めてクラス同士で勝負をするといった物だ。戦闘行為をする場合は、怪我人などが発生する恐れがあるので、神様により結界が張ってある演習場という場所が使われる。その結界の中で一定のダメージを受けると、無傷の状態で結界の外に放り出されるといった仕様になっている。その模擬戦の結果は、5組の全員対2組は5人しか戦わないというハンデをもらいながら、2組の誰1人倒せないという大敗を喫した。
ちなみに演習場は集団戦を行う場合に使われ、個人で戦う場合には闘技場という場所が使われる。
ちなみにこの学園は1クラス20人ーーいまは悠里がいるので21人だがーーで構成されているので、4倍の人数差で負けたことになる。
「そうか……だが、それはあんたらの出せる全力だったのか?それ以上何もできなかったか?もうこれ以上強くなれないか?そう思うんなら仕方ない……。だけど…もし…もしも自分はそうじゃないって…まだやれるって…少しでも思うんなら…もう一度頑張ってみないか?
ぶっちゃけ俺も落ちこぼれだ。前の学校じゃバカでいっつもテストの順位低かった。どんだけ勉強しても、結果はあんまり変わらなかった。そしてこの学校でも俺は劣等生みたいだ。でも…劣等生だから…落ちこぼれだからこそ!俺は…自分で自分を信じたい!自分の可能性ってやつを信じてみたい!負け犬の遠吠えかもしれない…それでも…それでも俺は…!下ばっか見る人間にはなりたくない!誇りなんて大層なもんは生憎持ち合わせちゃいないが、チンケなプライドすらもてない人間にはなりたくないんだよ!そして何より…他人に見下されんのは腹立つ!あんたらは…そう思わないか?」
耳に痛い静寂が場を包んだ。
ーーーはあ…ダメだったか……
悠里は、自分に人を鼓舞する才能はないらしいと少し落胆し
少しの沈黙の後、悠里は改めて何を言ったのか思い返して恥ずかしくなり、クラスの皆に背を向け教室から出て行こうとした。
ガタンッ!
「ちょっと待ちなさいよ。」
悠里が振り向くと一人の女子生徒が、立ち上がっていた。
「誰が下ばっか向いてるって?
馬鹿にしないで!私はそんなに落ちぶれた覚えなんてないわ!」
その視線は真正面から悠里の目を射抜いていた。
悠里は視線に気圧され、口ごもる。悠里が喋る言葉を探していると、
ガタガタガタッ!
次々に生徒が立ち上がった。
「そんなこと言われなくても、いまが限界なわけないだろ!」
「そうだ!まだ俺は終わってない!」
「そうよ!まだ私は諦めてなんかないわ!」
「勝手に諦めたみたいに言ってんじゃねえよ!」
「来たばっかのやつが偉そうに言ってんじゃねえよ!俺のことは俺が一番よく分かってる!ああ、そうさ!まだ全然限界なんかじゃねえ!」
「そうよそうよ!腹立つに決まってるでしょ!」
生徒たちは次々に悠里に向かって叫んだ。
気がつくと生徒たちは全員立ち上がっていた。悠里は生徒たちの言葉を吟味し、やがて口を開いた。
「あんたらの気持ちはよく分かった。
勝手なことを言ってすまなかったな。
ここにいるのはただの落ちこぼれじゃなかったな。
夢を見れるバカな落ちこぼれだ!」
悠里は生徒一人一人の目を見て一つ頷くと、口角を吊り上げながら言い放った。
「ではそんなバカな落ちこぼれ諸君……下克上をしよう。」
立ち上がった生徒たちは全員ポカーンと口を開けて、唖然とした。
「え…今なんて?」
「ん?聞こえなかったか?
じゃ、もっかい言うぞ。
下克上をしよう。」
「えっと…どういうこと?」
「学期末にクラス入れ替え戦があるんだろ?
そこで2組にリベンジしよう。
そして俺たちを落ちこぼれだと嗤った奴らを見返してやろう。そして言ってやるんだ。
「ねえねえ、自分が落ちこぼれだとバカにしてた相手に負けて今どんな気持ち?」ってな!」
再び静寂が訪れる。するとそこに、くくくっという笑い声が響いた。
「どうしたんですか、藤野先生?」
笑い声は藤野のものだった。
悠里は藤野の方に向き直りながら尋ねた。
「面白い。それは面白そうだな、黒羽?
いやあ、最近根岸たちのような奴らの行動が目に余ってな。
お灸を据えなければならないと思っていたんだが……その役目はお前たちに任せるか。」
「「「「「はあ!?」」」」」
生徒たちの心が揃った瞬間だった。
次話は未定です。