第29話
ありがとうございます!
「えっと学年……なんだって?」
「学年別序列戦だよ。その様子じゃやっぱり知らなかったんだね。よし、僕が説明してあげようじゃないか!」
とビシッと悠里に指を突きつけながら和葉は言った。本人的にはそのポーズを格好いいと思ってるのかもしれないが、悠里には可愛いと言う感想しか出なかった。怒るので口にするつもりはなかったが。
和葉の説明によると、現在付いている序列と言うのは、入試時の成績によるもので、現在の正確な実力順ではない。さらに入試時の成績も能力の効果だけ見て判断したものなので、実戦はまた別。よって1学期経過した今、どれだけ成長したかの確認も兼ねて、学年ごとにランキング決めをする、らしい。そして和葉曰く、最も重要な事。それは……
「この学年別序列戦で、もう一度クラスが振り分けられるんだ」
和葉の言ったことは衝撃的なものだった。悠里はその内容に目を見開く。
「それはまた………てことはこの中で5組じゃなくなるやつもいるってことか?」
「そう言うことになるね」
「そうか……それはちょっと寂しいな。せっかく仲良くなれたのに」
「うん……そうだね」
どこかしんみりとした雰囲気になった。そんな空気を敏感に感じた木原が口を開く。
「何しんみりしてんのよ。早く帰りましょ」
サバサバした口調で促されると、悠里は苦笑を浮かべながら、
「そうだな」
と返した。
3人で廊下を歩いていると、一枚のポスターが壁に貼ってあるのを見つけた。
学年別序列戦!と、大きな文字で書かれたそのポスターに書いてある内容は和葉の言ったこととほとんど相違なかった。
悠里は上から流し読みし、開催日時の所で目が止まる。書かれてある事を理解すると同時に、
「これ来週からじゃねえか!?」
と叫んだ。それに対して、横にいる和葉は
「だからもうすぐって言ったじゃん」
と呆れ顔で返した。
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衝撃的な事実を悠里が知った翌日、悠里は昨日の反省を生かし、早めに登校した。
校門から教室までの長い道のりを歩き、教室に入る。教室に入ると、前の黒板に何も指示がないのを確認し、自分の席につく。
「よお、今日は早かったんだな」
席に着くなり、前の席に座っている火神が話しかける。
「まあな、流石に入学して1日2日で遅刻するわけにもいかんだろ」
「そう言いながら昨日は危なかったけどな」
「う、うるさいな。あれはイレギュラーだ。非常事態だ」
「ははっ、そう言うことにしといてやるよ」
悠里と火神をはじめ生徒達が雑談していると、授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響く。と同時に、ガラガラッと建てつけの悪いドアを大きな音を立てて開けながら藤野が教室に入ってきた。虫の居所が悪かったのか、なかなか開かないドアにイラついてドアを蹴りつけるのは、教師としてどうなのだろうか。
「ふぅ、よーし、全員いるな。今日は授業の前に連絡事項がある」
藤野は、クラスを見渡した後ごそごそとカバンを漁る。そして紙の束を取り出した。
「知ってる奴も多いと思うが、来週から始まる学年別序列戦についてだ」
そう言いながら藤野は紙を配る。紙は表と裏の両面印刷になっているようだ。まず、悠里は表の内容にざっと目を通す。書いてある内容は概ね、和葉やポスターから得た情報と似たようなものだった。
そのままペラリと紙を裏返す。すると、一番上に他の字より少し大きめに、学年別序列戦のルール、と書かれていた。
ーーールールか……そう言えば具体的にどういった事をするのかとか全然知らないな。
書いてあったルールは以下のような内容だった。
一つ、ランキング1位の者以外は『挑戦権』を持つ。
一つ、『挑戦権』を持つ者は自身のランキングより上位の者に、勝負を挑むことができる。自身より下位の者に挑むことは出来ない。
一つ、挑まれた勝負はいかなる理由があろうと断ることは出来ない。ただし、体調不良などやむを得ない理由がある場合、公平を期すため、日程をあけての勝負となる。
一つ、挑んだ勝負で勝った場合、『挑戦権』は失われない。そして勝った者は負けた者の順位となる。それ以下の順位の者は一つ順位が繰り下げとなる。
一つ、挑んだ勝負あるいは挑まれた勝負で敗北した場合、『挑戦権』を持っていればそれを失う。
一つ、1ヶ月間の間実地し、終了した段階での順位が正式なものとなる。
例を使って説明すると、ランキング50位の者と40位の者がいるとする。『挑戦権』を所持していれば、50位の者は40位の者に勝負を挑める。もし勝てば50位の者は40位となり、40位の者は41位になる。もし負ければ、順位に変動はなく50位の者は『挑戦権』を失うということだ。
「何でこんな面倒な事をするんですかっ?」
ルールが書かれてある裏面を見ながら、うぅ〜と唸っていた如月が耐えきれなくなったという様子でビシッと手を挙げ、藤野に質問した。
「面倒とは?」
「だってややこしいじゃないですか。『挑戦権』がどうのこうのって……。別にこんな制限なんて無しで何回でも挑戦できるようにすれば良くないですか?」
「はあ、まあ如月の言うことも分からなくはない。だがそれは無理というものだ」
「どうしてですか!?」
「考えても見ろ。回数制限無しでやれと言われてお前は真っ先にどうする?」
「そりゃあ上の方の人と戦いますよ、勝てたらラッキーだし。で、段々戦う相手の順位を下げていって、勝てたところでやめま………あっ」
「気づいたか?」
「そっか………回数制限無しだと、みんなランキング1位とか2位とかとにかく高い人の所に行くんだ……。それで少しずつ順位を下げて……みんながこんなことしてたら時間がどれだけあっても足らない……」
「そういうことだ。他にも理由はあるがな」
「?」
如月は頭に?を浮かべながら首を傾げている。藤野の言う他の理由は思いつかなかったらしい。
「一つは如月が言ったように、事態に収集がつかなくなるのを避けるためだ。そして他には、緊張感を保つためだな」
「緊張感?」
「そうだ。一度負けたら終わり、そんな状態では誰だって慎重になる。負けても良いなんていうような軽い気持ちは持って欲しくないと言うのが理由だ。お前らがここを卒業してから何になりたいのかは知らんが、対魔士を目指している者は多いだろう。外の世界には負けても良いなんて言葉は存在しない。負けたらそこで終わりだ。今からそういう慎重さを身につけておいて欲しいんだよ」
「なるほど……」
「後、今の話と少しかぶるが、相手の力量と自分の力量を正確に分析する力を見たいというのもある。相手がどのくらいの強さなのか。勝算はあるのか。そういった事を判断できる力はこれから必要になる。この力があれば、強さとは別に、死なない対魔士になれるだろう」
「えー、なんかそれって格好悪くないですか?負けそうな時は戦わず逃げるってことですよね?」
如月が顔に不満の色を滲ませながら、口を開く。それに対し藤野は呆れ顔を浮かべた。
「馬鹿者、勝てない相手に突撃する。それは勇敢では無く無謀というんだ。そこで無駄死にするより、きちんと相手の戦力を見極めて対策を練り、後に勝利する方が何倍も格好いいだろうが」
「うーん、そうかなぁ?」
如月はまだ納得し切れていない様子だ。ため息とともに木原が口を開く。
「ほら、ヒーローものとかでよくあるじゃない。最初は負けるけど、特訓やらなんやらで最後は勝つじゃない。あれ格好いいでしょ?」
「あ、それもそうだね!杏里ちゃん頭いい!」
如月が完全にアホの子と化している、と悠里は心の中で思った。
「なんだか釈然としないが、納得してくれたならそれで良い。よし、他に何か質問はないか?……ないな、ならプリントをしまえ。授業を始めるぞ。さて、昨日はどこまでやったんだっけかーーーー」
藤野は学年別序列戦の話を終わらせ、授業を開始した。悠里の頭の中は来週からはじまる学年別序列戦の事でいっぱいであり、藤野の授業は右から左とばかりに全然頭に入って来なかった。
……仮にそうじゃなくても、頭に入ってないというのは禁句だ。
ありがとうございました!




