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第28話

ありがとうございます!

ご迷惑をおかけしました……

「よし、じゃあ今度はみんなの番だね」


やる気に満ちた生徒達の中で、その言葉に反対する者はいない。


「まず何をすればいいんですか?」


「そうだね。さっきも言ったけど、まずやるべき事は魔素の流れを感じる事。これが出来なければ始まらない。目を瞑って……自分の中に流れる魔素を感じるんだ。ここで大切なのはイメージだよ。身体の中を血管とは別にもう一本の管が通ってるようなイメージ。さあやってみようか!」


そう言い、空は悠里達を促す。とりあえず悠里達は、空の見よう見まねで目を閉じ意識を集中させる。


ーーー意識を自分の中へ……………



はっと気がつくと、いつの間にか悠里はとても巨大な扉の前に立っていた。


「なんだここは……」


悠里は独り言を呟きつつ辺りを見渡すが、一面真っ白で扉以外何もなかった。ずっと見ていると距離感覚が狂いそうだ。


取り敢えず悠里は扉に近づく。改めて見上げると、悠里の5、6倍ほどの大きさで、見るものを威圧するような存在感を放っていた。この白い空間において、ドアノブもなく黒で塗り固められたそれはどこに通じているのだろうか。


そんなことを考えながら、手が届くような距離まで来て、悠里は初めて気づいた。ちょうど悠里の胸の高さくらいの位置に鍵穴があることに。特に変哲のないその鍵穴は、扉の大きさに対してあまりに小さすぎ、なんとも言えない歪さを悠里に感じさせる。


「開けるには鍵が必要なのか……?」


もちろん悠里はそんなもの持っていないし、周囲にも無さそうだった。


試しに押してみるかと、悠里は扉に触れようとする。その瞬間、ズキンッと悠里の頭に痛みが走るのと同時に扉から何かが流れ込んできた。


それは映像だった。それもカメラ等で撮影したようなものではなく、誰かの視点を借りて見ているような、そんな映像。


目の前には黒い甲冑に身を包んだ者たちが整然と立ち並んでいた。この視点の主が目の前の黒甲冑達に向かって何かを話す。その声は悠里には聞こえず、聴覚は使えないようだった。その声に対し、黒甲冑達は腰にさした剣を抜き、空に突き上げる。あるいは雄叫びでも上げているのかもしれない。そんな熱気が伝わってきた。そこで映像は途切れ、目の前に再び巨大な扉が現れる。


「今のは一体……?」


《今はまだその時ではない》


「だ、誰だ!?」


脳に直接響くように聞こえて来た声に思わず悠里はびくっと反応する。そして声の主を探して悠里は辺りを見渡すが、先程までと同様人の姿なんてなかった。となると答えは一つだ。


「この扉が喋ったのか……?」


《それはちと違うな。我は扉の中にいる者だ》


またしても悠里の頭に声が響く。


「あんたは一体誰なんだ?それに今はまだその時じゃないって……」


《我が誰かなどどうでもいいことだ。それに時が来ればいずれ分かる。先の映像についても同じ事だ》


声の主は悠里の質問に答えなかった。ならばと悠里は質問を変えてみる。


「それじゃあこれだけは答えてくれ。一体ここはどこなんだ?」


《ふむ、それくらいなら良かろう。ここは言うなれば……お前の心の中、と言ったところか》


「俺の心の中……。おい、ちょっと待て。それなら尚更あんたの存在を無視する訳にはいかなくなった。なんで俺の心の中にあんたみたいな他人がいるんだよ!」


悠里は扉に向かって問いかけるが、声が返ってくることはなかった。


「おい、おい!……くそっ、だんまりかよ。扉を無理やり開けることもできそうにないし、聞き出す方法はなさそうだな」


悠里は落胆の溜息を吐く。


「ていうか、今は訓練中だった。結構長い事ここにいたような気がするし、早く戻らないと……。これどうやったら戻れるんだろう?」


悠里がそう呟いた瞬間、チーン、という音が悠里の背後で鳴った。悠里が振り返るとさっきまで何もなかったはずの空間に3メートル四方程の箱が出現していた。そして、悠里がいる方向の側面が真ん中で割れて左右に開く。それはまるで、


「なんでこんなところにエレベーターがあるんだよ!……乗れってことか?」


悠里は恐る恐る突如出現したそのエレベーターに近づき、自分の心の中なんだから大丈夫だろう、という楽観的な考えから中に入った。


すると、空いていた部分が閉まり、悠里を乗せてそのエレベーターは緩やかに上昇し始めた。



次に悠里が目を開けると、第二グラウンド、そして他の生徒たちの目を閉じて集中している姿が映った。


ーーーふぅー、なんとか戻ってこれたみたいだな。


周りがまだ訓練しているところを見ると、悠里が思っていたほど時間は経っていなかったらしい。


悠里がほっとするのと同時に、自身の身体に違和感を感じた。身体の中を今まで感じた事のなかった何か(・・)が巡っている。


ーーーもしかして、これが魔素の流れってやつか……?そうだ、試しに能力を使ってみれば分かるかも。


そう思い、悠里は地面に落ちていた少し大きめの石に狙いを定める。


ーーーよし、あの石を俺の手に……


「来い」


悠里は能力を使用した。すると、体内を巡っていた魔素と思われる物が、体外に放出され減少したのを感じた。体外に出た物は狙った石を覆うように包み、次の瞬間には悠里の手元まで石が移動していた。


ーーーやっぱりさっきから感じているのは魔素で間違いないみたいだな。それに身体の外に出ても、自分の魔素は感じ取れるのか……。それにしてもなんでいきなりできるようになったんだ?やっぱりさっきの扉のところか……?


悠里は少しの間うんうんと考え込んでいたが、何も分からなかった。


ーーーまあ分からない事をあれこれ考えてもしょうがないし、魔素の流れを感じるっていう目標は達成できたんだからそれで良しとしておくか。


悠里は答えを出すのを早々に諦め、目標を達成した事を素直に喜ぶことにした。


「よし、一旦ストップ!」


そのタイミングで空がみんなに声をかける。これ以上は集中がもたないと判断したのだろう。


「今の段階で魔素の流れを感じられた子はいるかな?もしいたら手を挙げてね。まあ、これは丸一日かかっても早い方だって言われるからあまり焦る必要は……」


空が不自然なタイミングで言葉を切り、固まる。悠里はもちろん手を挙げていたが、悠里がいたのは最前列なので、どれくらいの人数が手を挙げていたのかが分からなかった。人数を確認するため、悠里は後ろを振り向く。


全員。全員が手を挙げていた。つまり5組はこの短時間で全員が目標をクリアしていたということだ。


「え、嘘」


「どうやら本当のようだぞ?」


やっと動きを再開した空に対し、つまり5組は全員超早い方だってことだな、と言って笑う藤野の顔はどこか誇らしげだった。


「それにしてもなんで……?」


「いやぁ、僕たちの能力って他の組から見ると劣ってるじゃないですか。そりゃ1組とか2組の人達は何も考えず能力を使っても強いと思いますけど、僕たちはそうじゃないんですよね。能力の使い方を考えなくちゃいけない。普段からそんな考え方をしているからコツを掴むのも早いんだと思います」


代表して光輝が答えた。光輝の考えは概ね正しいと言える。もし、強力な能力なら力任せにぶっ放してもそれなりに闘えるだろう。しかし、光輝のような能力ではそのような考え方はできない。能力をある程度コントロールする必要があった。能力をコントロールするという事は魔素の流れに干渉するという事。そんな今までの見えない経験値が積み重なり、今回形になったのだろう。


「なるほど……ちょっと君たちを甘く見てたみたいだ。じゃあ早速次行くよ、次は体の一部に魔素を集中させるんだ」


「魔素を集中……?」


「そう、こんな風にね!」


突然空が腕を振りかぶり、静止する間も無く地面を思い切り殴りつける。悲惨な状況を想像した悠里達だったが現実はそれをはるかに上回った。


「地面に穴空いてるんですけど……」


流石に能力者と言えども、素手で地面を思い切り殴ったらただでは済まない。しかし、空の拳は怪我を負うどころか地面に拳大の穴を穿っていた。


「これも『身体強化』の一種だね。最終的には全身強化が理想だけど、これは部分強化……一部分だけを強化するんだ。でも、全身強化に劣るってわけじゃないよ。一部分だけを強化するわけだから魔素を節約できるし、それに使う魔素量を上げれば、その部分だけに関してだけど全身強化した時よりもさらに強い力が出せるからね」


「なるほど……」


「それに目に集めれば、視力だって上げられる。ね、使い勝手いいでしょ?」


「確かに。応用できる範囲は広そうですね」


空が出した例はどれも実用的な物ばかりだった。悠里達のやる気も上がる。


「よし、じゃあ早速やってみて!」


「「「はい!」」」


結局この後昼頃までやっていたが、成功したのは10名とクラスの半数だった。どうやらこれでも時間を考えればすごく多いらしい。


「みんなやる気もあるし、飲み込みも早いから頑張ってね!じゃあバイバーイ!」


空は仕事があるとのことでここでお別れとなった。ちょうどタイミングも良かったので、午前中の授業はここで終了となる。


「よし、じゃあ教室に帰るぞ」


藤野の一言で、ぞろぞろと悠里達は教室に向かう。


「あーくそっ。結局最後まで出来なかったぜ」


「流れを感じられただけで十分すごいだろ。それにもうちょっとで出来そうなんだろ?」


悠里の隣で落ち込んでいる火神に対し、悠里は慰めの言葉をかける。


「ああ。でも、なんか思った通りに動いてくれないんだよな。なんかいいアドバイスないか?」


「うーん、そうだな。火神は魔素を無理やり動かそうとしてないか?」


「あ?それ以外にどうやって動かすんだよ」


「これは俺の感覚だけど、魔素っていうのは水みたいな物だ。手で掴もうとしてもすり抜けちまう。だから道を作ってやるんだよ。そうすれば、川みたいに目的の場所まで勝手に動いてくれる」


「おお、なるほど!ちょっとやってみる!」


火神は教室に向かう足を止め集中する。すると、


「で、出来た……」


「おお、やったじゃないか!」


「悠里ありがとな!助かったぜ!」


「何々?どうしたの?」


そこで声をかけてきたのは如月だった。どうやら如月もできなかったらしい。


「悠里にアドバイスもらったら、部分強化が出来るようになったんだよ!」


「ええ本当に!?私にも教えて!」


悠里はさっきと同じ説明を如月にもする。


「うわぁ、本当にできた!」


如月も成功したらしい。


「ありがとう黒羽くん!ねえみんなー!」


そしてそのまま如月は他の生徒のところに走っていき、悠里から聞いた話をそのまま伝えて回る。


その結果、5組は全員部分強化を取得することに成功した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「悠里、一緒にご飯食べよう!」


「おう、いいぜ」


悠里達が教室に戻ると、そのまま昼休みに入った。悠里が鞄の中を漁り、弁当箱を取り出すと、タイミング良く和葉が声をかける。横には木原も立っていた。


「俺たちも一緒していいか?」


そこに和也と光輝が話しかける。


「うん、もちろん!みんなで食べた方が美味しいしね!」


近くの机を寄せ合い、5人で机を囲む。その時、悠里の視界の端に、1人でお弁当を広げている裏縫の姿が見えた。


「もう1人増えても構わないか?」


和葉は悠里の視線を辿り、悠里の言葉の意味を察すると大きくうなずいた。木原に至っては血走った目で悠里を見て、


<失敗は許さないわよ>


と頭の中で声を響かせた。


<つまんねえことに能力使ってんじゃねえよ!>


<そんなことはどうでもいいのよ。必ず連れてきなさい。いいわね?>


こいつに裏縫を近づけたらダメだ、と悠里は思った。


謎のプレッシャーを感じながら悠里は裏縫に声をかける。


「あっちで一緒に食べないか?」


「ふぇ!?」


「あ、急に声かけてごめん。それで、どうだ?」


「え、あ、うん。でも、いいの?」


自信なさそうにチラチラ上目遣いで悠里を伺う裏縫の破壊力は抜群で、危うく悠里は木原サイドに足を踏み入れそうになるが鋼の精神力で自制する。


「あ、ああ、もちろんだ」


「ありがとう、じゃあお邪魔するね?」


そう言って裏縫は広げたお弁当を一旦戻し、椅子を持って悠里と和葉の間にちょこんと座った。


そして再び食事を再開する。


「そのお弁当結構凝ってるね。悠里が自分で作ってるの?」


「いや、これは妹が作ってくれたんだ。自分で作るときもあるけどな」


「へぇーいい妹さんだね!」


「ああ、今度機会があれば紹介するよ」


悠里達は雑談しながら昼休みを過ごした。昼休みの後も授業は続く。


次の授業は座学だった。


ここでは、現在分かっている魔物の情報などを勉強する。一学期分と言う大きなブランクがある悠里は、昼食を食べたばかりで眠い目をこすりながら藤野の授業を頭に叩き込んでいった。


キーンコーンカーンコーン。


お馴染みのチャイムで本日の全授業が終了する。


「ふわぁ、やっと終わったか……」


「あはは、悠里ずっと眠そうだったもんね。お疲れ様」


悠里は和葉の言葉を有り難く頂戴しながら机に突っ伏す。


「そんな態勢だと寝ちゃうよ?早く帰ろうよ」


和葉の言葉通りずっとそうしてるわけにもいかないので気怠い体を起こし、悠里は帰る支度をする。


「そういえばさっ」


悠里が支度を終え、鞄を担ぐと背後から声をかけられる。振り返るとすでに帰り支度を終えた和葉と木原が立っていた。どうやら悠里を待っていてくれたらしい。


「もうすぐ始まる学年別序列戦って知ってる?」


「はい?」


和葉の質問に対し、悠里は生返事を返すことしか出来なかった。

ありがとうございました!

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